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絵で読む『源氏物語』これはどんな場面?~源氏物語絵色紙帖 紅葉賀

若紫は11歳

源氏物語絵色紙帖 紅葉賀 京都国立博物館蔵 ColBase

昔は数え年なので、お正月が来るとみんな、ひとつ年をとります。たとえば、12月に生まれると、生まれた時に1歳なので、あっという間に、2歳!

この絵は、二条院の西対の元日の様子です。二条院は、元は桐壺更衣の実家でしたが、源氏の君が元服したときに、帝がリフォームさせて源氏の君の邸にしました。源氏の君をはじめとした絵の中の人物の視線の先にいる、左側の女の子が若紫でしょうか。豪華なお人形遊びセットがおかれていますね。

あ、現代でも‘リカちゃんハウス‘や‘シルバニアファミリー’など、ミニチュアの家具をそろえて、お人形遊びをするおもちゃが売られているけど、それと同じだ。

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 男君は、朝拝〈元旦の行事〉のため宮中に参上なさろうと思って、ちょっとお立ち寄りになる。ひとつ年をとって、今日からは、大人っぽくなりましたか」と言って微笑むご様子は、とてもにこやかで親しみやすくていらっしゃる。
 若紫の君は、さっそくお人形を並べて忙しそうになさっている。三尺(約一メートル)の御厨子一対にさまざまなお道具を置いて、また小さな御殿をいくつか作ってさしあげたのを、所狭しと置いて遊んでいらっしゃる。 「追儺ついなをすると言って、犬君がこれを壊してしまいましたので、直しているんです」と言って、大事件のように思っている。「ほんとうに、とてもそそっかしい人がやりそうなことですね。すぐに修繕させましょう。今日は不吉なことは言わないようにして、泣いてはいけませんよ」と言って、お出かけになるが、供の人たちがおおぜい付き従っている。女房たちは縁のそばまで出てお見送りするので、姫君も出て行ってお見送りして、ご自分でもお人形の源氏の君を着替えさせて、内裏に参上させなどなさる。

 男君は、朝拝に参りたまふとて、さしのぞきたまへり。「今日よりは、おとなしくなりたまへりや」とてうち笑みたまへる、いとめでたう愛敬あいぎやうづきたまへり。
 いつしかひひなをしすゑてそそきゐたまへる、三尺の御厨子一具ひとよろひに品々しつらひすゑて、また、小さきども作り集めて奉りたまへるを、ところせきまで遊びひろげたまへり。「やらふとて、犬君いぬきがこれをこぼちはべりにければ、つくろひはべるぞ」とて、いと大事と思いたり。「げに、いと心なき人のしわざにもはべるなるかな。いまつくろはせはべらむ。今日は言忌こといみして、な泣いたまひそ」とて、出でたまふ気色ところせきを、人々端に出でて見たてまつれば、姫君も立ち出でて見たてまつりたまひて、雛の中の源氏の君つくろひたてて、内裏うちに参らせなどしたまふ。

原文は小学館 新編日本古典文学全集による

若紫は、11歳になりましたが、まだまだお人形遊びが大好き、源氏の君人形もあるようですね。

「若紫巻」の末尾で、若紫を密かに、かつ強引に、二条院に連れてきた源氏の君。『源氏物語』の巻順ではあいだに「末摘花巻」が入りますが、巻々の時間が重なっていて、この絵に描かれた「紅葉賀巻」の元日朝の場面は、若紫が二条院に来て間もないころのことです。

年立(としだて) 源氏の君の年齢が基準

二条院の女人

これ▼は、典型的な寝殿造の図です。源氏の君は東対で生活していました。若紫を迎え入れるにあたって、それまで使っていなかった西対に、道具を入れるなどしましたから、「邸に女性を住まわせるらしい」といううわさはすぐに広まりました。

寝殿造(しんでんづくり) 日本国語大辞典 図版

物語本文から推定した「『源氏物語』の二条院の想定平面図」は、このホームページ▼の真ん中あたりに載っています。
風俗博物館〉貴族の生活

若紫は源氏の君にすっかりなついて、二条院で暮らしていますが……。

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しばらくの間は、邸内の人々にも誰なのかは教えまいとお思いになって、やはり離れた対(西対)に部屋の調度などをこの上なく立派に整えて、自らも明け暮れそこにいらっしゃって、若紫にいろいろなことをお教えになる。手本を書いてお稽古をさせながら、まるでよそで暮らしていた娘を迎えたような気持ちでいらっしゃる。政所、家司などをはじめ、とくに職務を割り当てて不安のないようにお仕えさせる。惟光以外の人は、どんな女人がそこにいらっしゃるのかと、もどかしく思っている。

しばし殿の内の人にも誰と知らせじ、と思して、なほ離れたる対に御しつらひくして、我も明け暮れ入りおはして、よろづの御事どもを教へきこえたまふ。手本書きて習はせなどしつつ、ただほかなりける御むすめを迎へたまへらむやうにぞ思したる。政所、家司などをはじめ、ことにわかちて心もとなからず仕うまつらせたまふ。惟光よりほかの人は、おぼつかなくのみ思ひきこえたり。(紅葉賀巻)

原文は小学館 新編日本古典文学全集による

政所、家司を置くということは、若紫を正式な女あるじと考えていることを意味します。そりゃ周囲の人は、〈お人形遊びが好きな女の子〉ではなく、一人前の女性が迎え入れられたと思いますよね。

左大臣家にも女人を迎えたという噂は届き、葵上との仲はさらに冷えていきます。

若紫を邸に迎えた理由は

乳母子の惟光も、北山で一緒に垣間見をした時に、若紫を見ていますから、逆に、まだ子どもなのに、源氏の君はなぜ結婚相手のような扱いをするのだろうかと、不思議がっています。

藤壺の宮が源氏の君の子を懐妊したことは、源氏の君と、藤壺の宮と、仲立ちをした王命婦(それと読者)しか知らない、トップ・シークレット。

若紫が、藤壺の宮の姪で、とてもよく似ているから邸に連れてきた、なんてことは、絶対口にしてはならないのでございます。

系図 若紫の父宮と藤壺は兄妹
詞 大覚寺空性(随庵)
釈文

愛らしい若紫を、北山で見つけたときのお話はこちら▼


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