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部活動をめぐる議論はなかなか噛み合わない。それは制度設計が曖昧なまま、「部活動をやりたい」という感情に左右されて運営されてきたからだと僕は考えている。今回は、現行の制度下での適正な部活動のあり方について考える。

制度はどうなっているのか

改めて制度を確認してみよう。学校教育における部活動の位置づけは学習指導要領に示されている。

生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、地域や学校の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。

中学校学習指導要領

「学校教育の一環」と示されてはいるが、学校には「やらない」という選択もある。また、文部科学省も、教員に部活動の顧問を命じることはできないという見解をはっきりと示している。

部活動のための施設・設備

そもそも学校施設は部活動をするように設計されていない。グラウンドでは野球部とサッカー部と陸上部がひしめき合い、体育館は曜日で割り振りが定められたり、地域の体育館が練習場所になったりしている。学校のグラウンドも体育館も体育や学校行事を行うための設計でしかないからだ。部活動のための予算もほとんど措置されていない。吹奏楽部は、高価な楽器を苦労して集め、その修理もお金を工面して行っているという。

「学校教育の一環として」という文言は、平成24年からは学習指導要領に入ったものだ。それ以前は「課外活動」という位置づけだった。しかし、「学校教育の一環」となっても、施設が拡大されるわけでもなく、用具に予算がつくわけでも、人員が配置されることもなく、学校に「丸投げ」である。
これまでも述べてきたように、予算をつけることなく制度だけが拡大していく文部科学省の施策がここにも明らかだ。

部活動手当の「謎」

中学校の運動部の大会を取りまとめる中学校体育連盟は学校教育外の任意団体だが、大会引率者の条件を顧問の教員に限定しているため、大会が行われる土日には教員がわずかな手当で休日労働を行うこととなる。いわゆる「部活動手当」には2種類があって、富山県の場合、土日の通常の部活動練習には4時間3600円、2時間1800円、認められた公式大会への引率には1日5100円である(これらは都道府県によって異なる)。従事する時間が8時間であっても最大で「1日5100円」しか支給されず、最低賃金のレベルをはるかに下回る。平日の部活動にはそもそも支給される制度すらない。
この部活動手当は実に「謎」が深い。そもそも、教員には時間外勤務を命じることができないため、これらの手当は「命令に基づかない」手当である。つまり、教員が「土日に4時間、部活動をしました」と申告すれば、手当が支払われる。命令がなく、勤務でもないものに手当が支払われるという「謎」。さらに、部活動の大会に出場する場合、教員には交通費が発生する。これについては生徒引率の責任があるため「支払う」という自治体と、勤務ではないので「支払わない」という自治体がある。自治体によって判断がまちまちという「謎」。

もし、教員が部活動指導による過労によって死に至った場合、部活動に従事していた時間が労働時間に含まれるか否かは、校長判断になる。つまり、校長が「命令していない。自主的な活動だ」と言い切ってしまえば、公務災害認定申請の際に、労働時間としてカウントされないことにもなりかねない。

また、一般的に教員が生徒に怪我をさせた場合、国家賠償法が適用される。国家賠償法とは、公務員が職務を行うにあたり故意又は過失によって他人に損害を加えたとき、国や地方公共団体がその責任を負うという制度だ。これについても、時間外に行われた部活動がその範囲に入っているかどうかはグレーである。

つまり部活動手当の謎だけでなく、公務災害認定、国家賠償法の適応が明確になっていないという「謎」。もっと言えば、教員の勤務終了時刻を境に「勤務」から「ボランティア」に変わるという「謎」。これらは部活動の制度設計が行われてこなかったことによるものである。

本来は「自主参加」

改めて部活動とは何か。本来は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」(中学校学習指導要領)と定められている。つまり、

「野球やりたい人、集まれー」
「バレーボールやりたい人こっち来てー」

というゆるい運用のはずである。

現在の部活動は、ほぼすべての運営を教員が行わざるを得ない状態で、「自主性、自発性」の微塵もない。

その背景には

・地域や国の競技力を上げたい競技団体
・手間やお金をかけずにスポーツ・文化振興をしたい地域
・子どもたちを長時間、がんばる環境においておきたい保護者
・子どもたちとのつながりを授業以外でももち、問題行動を抑制したい教員
・スポーツや文化活動で自己実現を成し遂げたい子ども
・指導者として自己実現を成し遂げたい教員

などの様々な思惑があり、まさにWinーWinーWinーWinーWinーWinのような関係で本来制度を歪めた運用をしてきた。しかし、今となると本当にWinーWinだったのか疑わしい部分も多々ある。

時間外勤務手当を支払わないという制度によって長時間労働を余儀なくされ、精神疾患や心疾患、脳疾患で命を落とした教員も1人や2人ではない。

また子どもたちも、すべての子が部活動をやりたいわけではなく、「二極化」しているのが実態のようである。一部の子どもたちからは部活動の強制加入はやめてほしいとの声も上がっている。

休日部活動の地域移行

2020年9月1日に、文部科学省、スポーツ庁、文化庁から「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」という通知が発出された。趣旨は次の通り。

部活動は必ずしも教師が担う必要のない業務であることを踏まえ、部活動改革の第一歩として、休日に教科指導を行わないことと同様に、休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築

部活動の指導を希望する教師は、引き続き休日に指導を行うことができる仕組みを構築

生徒の活動機会を確保するため、休日における地域のスポーツ・文化活動を実施できる環境を整備

学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について

この休日の部活動の地域移行は2021年度から試験的に運用され、本格的に実施されるのが2023年だ。それも2023年から「準備ができたところから始まる」という話であり、準備が進んでいなければいつまでも現状のままだ。
そして現実問題として、指導者の確保が極めて難しい実態がある。ある自治体で休日部活動の地域移行の協議会を行ったところ、地域スポーツ団体から「先生たちの働き方改革は分かった。では、私たちの働き方改革はどうなるんだ」との声が上がるという。それも複数の自治体で同様の声が上がる。


まずは平日部活動の改革を

いつになるか分からない外部移行をただ待っている前に学校内で本来制度に戻す必要があると僕は考える。例えば、次のようにである。

◆部活動は教員の勤務時間内で行う
◆短い時間の中でどのように練習するかを子どもたちが「自主的、自発的」に考えて決める
◆それ以上にやりたい場合は、子どもたちや保護者が関係団体と交渉して「学校外」で練習する環境を作る

現在、各自治体で作成されている「部活動ガイドライン」は、平日の練習を2時間程度、休日の練習を3時間程度、週に2回(土日も含めた)休養日を設定するよう示している。ここから導き出される活動時間は、

(平日2時間×週4日)+(休日3時間×週1日)=11時間

これが4週で44時間。

一方で、2020年度から教員の超過勤務時間を月45時間年間360時間以内にするよう自治体の規則に位置づけられている。部活動の44時間だけで、月45時間以内という教員の超過勤務の上限はいっぱいになる。年間360時間(月30時間)は軽く超過する。

つまり、部活動に携わる教員には「上限規則」と「部活動ガイドライン」という二つの制度が相容れない。どちらが優先されなければいけないかは自明だし、文部科学省や教育委員会はこのような矛盾を放置してはいけないはずだ。

通常、中学校の6時限目の授業が終わって、教員の勤務時間終了までに、生み出せる時間は1日50分程度。ちょうど中学校の授業1コマと同程度の時間である。この時間帯ならば、部活動は校長の命ずる業務として行うことになる(ただし、通常、この時間帯に設定されている教員の20分程度の休憩時間を確保した上でのことである)。
また、中学校の国語・数学・英語は週4コマである。部活動がこの時間を上回るというのは学校教育の本来趣旨から外れるというものだろう。「学習指導要領に定められた内容を教える」という学校本来の制度にもとづけば、この時間帯は、学習についていけない子の補習のために使った方が適切とも言える。
現行制度上で行うのであれば学校教育の範囲でできる部活動は1日50分、平日週3、4回が「上限」だろう。教員の超過勤務が月30時間を超えるようならさらに回数を絞らなければいけない。

実際、富山県の上市町教育委員会は、2023年度から平日の部活動を「週3回17時まで」という運用にすることを表明している。また、すでに岐阜県下呂市では、週3、4回、6時限目の授業をやめて部活動を行い、16時半下校としている。

「部活動をやりたい子どもも先生もいる」という感情論を脱し、制度にもとづく運用が今、必要である。

※執筆中の書籍の原稿の一部を引用して記事にしています。

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