声のデカい立ち食いそば屋のおじさんの話。

「カレーください!」

ときどきいく立ち食いそば屋さんで、隣の席についたおじさんがけっこう大きめの声でオーダーしていた。

立ち食いそばって、だいたい食券制だ。券売機があって、効率化されていて、流れがある。でもまあ、こんな人もいるよね。うんうん。ワイヤレスイヤホンでSpotify聴いてて、でもそれを突破してくる声だった。別にイライラはしないけれど、うんうんたまにいるよねって感じ。

「は〜い!」

よく見かける店員の兄ちゃんが威勢よく答える。めんどくさいな、券売機使えよ!!!感一切なくて、ああすごいな。機嫌をコントロールしている店員さんがいるお店は、それだけで最高に過ごしやすい。貴重だ。こういうお店だと、忙しくて大変だと思うしさ。

「今日はお水?お茶?」
「ん〜、お湯にしようかな」
「お湯!?夏なのに!?」

いや、なんか店員さんも声デカいな。そして夏でお湯って、まじか……??連日の猛暑も知らんぷり、立ち食いそば屋でお湯ってなんか通なの???

「健康にいいってラジオで言ってたのよ」
「あ〜、なるほどねぇ〜。蕎麦湯でいい?」
「ははは、なんでもいい」

いや、店員さん声デカいっすわ。丸聞こえだし。
目の前でのかき揚げそばを啜り上げ、まあまあうんうん。こういうこともあるよねって思う。

そんで。

コトっと席の横に立て掛けられた白い杖が目に入る。

あっ。

そっかぁ……。おじさんと兄ちゃんの間では、まったくもって日常なんだ。違和感なんて、勝手にわたしが感じてただけで、耳を塞いで見えてなかっただけなんだ。体が熱くなったのは、汁を啜り上げたからだけじゃない。

「週末、選挙っすね」
「ねぇ」
「選挙とか、やっぱり大変なんすか?」
「うーん、まあこれだからねぇ。でも、しかたないしねぇ」

常識なんて、日常なんて、結局自分の経験の上に立ってる砂の台。波が来たら、簡単になくなるようなもんなのに、気が付かず気をつけず、いつの間にか足が埋まって動けなくなるような感じがする。

そのまま聞いていたかったけど、もう時間だった。このあと電車に乗る。電車に乗って、仕事をして、あたり前のように帰って、ごはん食べて、寝ると思う。だけど、明日は今日より、ちょっとだけ何かを変える。変わる。砂の台でも、ひとすくい、また積み上げる。
食べ終えて、「ごちそうさまでしたー」と伝えて、ホームに向かう。

「ありがとうございましたー!」

元気よく、デカい声で兄ちゃんが答える。わたしのいた席の横で、おじさんはニコニコ笑っていた。

でもさ、やっぱりそば屋は蕎麦湯やろ!!!!!!って、わたしの今のあたり前からツッコミを飛ばした。いや、そば湯やろ。お湯て。


おわり。


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