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社食の新月そば。

社食のない人生を歩んできました。

が、この春からなんと社食のある部署に来ました。

社員食堂。うるわしい響き。
社食は、いいぞ。

とはいえ、社食はハードルが高いんですよね。

なんかこう、謎のルールに支配されている感じがある。
場所によって支払い方法も注文方式も違う。プリペイドカード式だったり、前払い後精算、いろいろあるのに「社の人だったらわかるやん?」と案内薄め。
あれ、これ何かに似てると思ったら、地方のたまたま訪れた先のバスだこれ。乗り方むずすぎる。

このハードルを越えるのに3ヶ月かかりました。

しかし、社食はいい。

ふだん対して気にしてないけど、カロリーとか書いてあって健康に気をつけてる感を得られるし、メニューも豊富。
トレーや食器ががさっぱりしてるのも、文化って感じがしてよい。

ドレッシングも定番のものから、なぜかそこだけでしか見ないローカルのキングみたいなやつまで独特の生態系があるのがよい。
あれ、これ何かに似てると思ったら、馬油だ。地方のホテルに泊まると、なぜか置いてあるあの謎シャンプー。馬油。気まぐれで使うとサラッサラになるあれだ。あれ、なんなんだろう。売ってるところ見たことない。

目移りするメニューのなか、今日のお目当ては決まっている。

月見そばだ。

そばは、いい。
どんぶり一杯でたしかなまんぞく。

それでいてバリエーション豊かで、いつまでも飽きない。
乗せるもので季節も演出される。トッピングの幅たるや。
そばすごい。そば農家に感謝。うまい。

そして秋、社食の控えめなメニュー写真に月見そばが並ぶ。

月見は、いい。
月見とつくだけで、うまい。3割秋がマシマシで、ごはんの格が一段上がる気がする。
気のせいかも知れない。でも、いい。

月見そばは年中メニューだろって?

よいのだ。風流は、いつだってうまいのだ。

「月見そばくださーい。」
「はぁ〜い。」

社食のおばちゃん(まだ顔を覚えられてない)が、マスク越しに元気よく答えてくれる。
手際よくそばを茹でて、どんぶりを温め、つゆを注ぐ。

あ〜、これこれ。この出汁の香りたまらん。

チャッチャと湯切りして、カパッ。

ん?

あっ……。

おばちゃんと目が合う。

本来のオペレーション
○ つゆ→そば→具材

今日のおばちゃん
✕ つゆ→月見→どうする?

「ごめんねぇ、ちょっと待ってね。」
「あ、大丈夫ですよ。食べたら一緒ですし。」

我ながら風流のかけらもない切り返しだが、まぎれもない真実である。

「そう?ごめんね。わかめおまけしとこう。」

おばちゃんの切り替えは、矢の如し。
おまけわかめで手打ちとなった。そばだけに。

空いてる席を探して、よっこいしょ。
今はソーシャルディスタンスで、ちゃんと距離が自然に取れるのが楽。

真ん中に鎮座するどんぶりを見つめる。
どう見てもわかめそばだ。

パキッ。

ずるずる。

だんだん顔を出す月見。

ふだんの乗っける方式よりもちょっと固まるお月さま。

これは、よきかもしれない。
食べながら、月が顔出すうれしさ。

ふぅ〜〜〜。
ごちそうさまでした。


社食の新月そば、ありかもしれない。
秋が深まりきるまで、この一杯。
しばらくお世話になります。


おわり。

待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ あ、ああ……あー!ありがとうございます!!