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野やぎの小説まとめ

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小説・ショートショートをまとめたマガジンです。
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#ホラー

ミステリーショート「持続可能性輪廻」

ドッ。ゴリッ。 骨に響く鈍い音。 瞬間、鼻の奥に満ちる匂い。赤。黒。鉄。血。 ヒュー……ヒュー……。 下半身に溜まる鈍い感覚。意識して足掻く手足が、反射反応だけになる。呼吸が弱く、細く、糸になる。そして、プツン。……フッと訪れた透明。白。楽。何も見えない。聞こえない。感じない。 俺は、死んだ。 + 「やあやあやあ、どうもどうも」 宙に浮かんだと思ったら落ちて、気がつくと通い慣れた帰宅路にいた。電柱が夕闇を淡い円に切り取っている。なんでオレはこんなところに?いつ来

掌編「みつどもえ」

終わると、田中はすぐに寝てしまう。 横ですやすや息する顔は、嫉妬深く独占欲の強いふだんからは想像ができない表情だ。 「親は相当悩んだらしいよ。」 「なにを?」 「なんでも取り合ってケンカになるから。きょうだいに同じものを買い与えるか。違うものを与えるか。」 「それで?」 「結局、ふたりにそれぞれ違うものを買うようにした。分け合って、仲良く使えって。」 反対には、似たような目と鼻と口。眉。ふだんは物静かなのに、終わると田中は饒舌になる。 「それで、わたしをシェアしたんだ

ショートショート『ここで5秒思考を止め、深呼吸をしましょう』

文章には、指示がない。 私たちは、誰かが書いたテキストを読むとき基本的に自由である。映像のように枠はなく、音楽のように響きはない。楽譜のように、音の上がり下がりや休符、速度の指示は書いていない。読み手が自由に想像し、好きな速度で、いつでもやめられる。 例えば、テキストにこのような一文が書かれていたとしよう。 ここで5秒思考を止め、深呼吸をしましょう。 このテキストにあたり、思考を止めるか止めないか、止めるとしたら何秒か、その5秒はどのくらいか、深呼吸をするかしないか、