うつつ

「あ、」
ともすれば悲鳴だったのかもしれない。
泥のような両脚が、そしてその少し上の内臓が、抉り取られるような感覚が、無視しながら進んだ末の断末魔が、
「あ、」

歩けるけど走れない
話せるけど大声が出ない
夢なんて大抵そんなものだ

でも、痛い
刺されて、痛い
しっかり血も出てる
これは珍しい夢だ
走りたくて走れてる
何度も後ろを振り返る
顔がない
顔がなかった

夢の中の手負いの自分が、明確な意志を持って、極めて小さな町であろうその場所を、友人と共に逃げ惑っている。
血、と思った

細い路地が最後だった。
友人に覆い被さるようにして倒れ込んで、刺された背中が、彼と同じように痛んだ。
同じならまあいいかと思って、自然に目を閉じた。
こんな最後なら別に悪くないかもしれないって。
でも、そう。
終わる前に気がついたんです。
白黒の空がひっくり返っていたから。
手を伸ばしたら近づいたから。
だから表が見えたんです。
一瞬でも現実を感じた
君の声が君の声でした。
一瞬でも現実を感じた
そうしたら、僕はどこですか?
「あ、」

ここはほんとうです

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