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神戸からのデジタルヘルスレポート #57 (糖尿病)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

今回は第57回、糖尿病関連のスタートアップを取り上げます。よろしくおねがいします!

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1. POGO Automatic:携帯型の血糖測定装置

企業名:Intuity Medical, Inc.
URL:https://www.presspogo.com
設立年・所在地:2002年・フリーモント/アメリカ
直近ラウンド:Venture Round(2019年5月)
調達金額:$307.3m(Hercules Capital, Inc., PTV Healthcare Capital など)

POGO Automaticは、自動で穿刺と採血を行う携帯型の血糖測定装置です。従来であれば検査に必要だった穿刺機器、針、検査用紙などは一切必要なく、このデバイスのみで検査を完了できるため、外出中でもかんたんに血糖値測定ができるようになります。↓のような感じで、指でさっと。

測定したデータは連携したスマホアプリに保存され、経時的にデータを追跡・確認することができます。また、同アプリ上で専門家からのコーチングプログラムを受けることも。

本体価格は68ドル、カートリッジ(10回テスト可能*5つ)は月額32ドルとかなりリーズナブル。2016年にFDAの認可を取得済み。アボットのリブレもめちゃめちゃ良い感じのUXだなぁと思いながら見ていましたが、こちらも糖尿病患者に必須な血糖値管理の負担を軽減する素晴らしいプロダクトだなと感じました。

2. Blue Mesa Health:行動変容を促す糖尿病予防プラットフォーム

企業名:Blue Mesa Health Inc.
URL:https://www.virginpulse.com/
設立年・所在地:2015年・ニューヨーク/アメリカ
直近ラウンド:M&A by Virgin Pulse (2020年1月)
調達金額:$2.3m(Barney Pell, Nimbus Synergies Inc. など)

Blue Mesa Healthは、行動変容プログラムを用いた糖尿病の治療プラットフォームです。ユーザーに合わせた食事・運動手法の提示や専門家によるチャット形式でのコーチングを通じて減量を支援するプログラムを提供していましたが、2020年2月に法人向け健康サービスを提供するVirgin Pulseに買収されて以降、同サービスの一機能となっています。

本拠地はニューヨークでしたが、英語以外にスペイン語、広東語、アラビア語、ポルトガル語でも利用することができ、米国外はもちろん、米国内の非英語話者に対しても効果的な糖尿病治療支援を行えるプロダクトでした。

このサービスを用いることの治療効果は論文化されており、具体的に体重やBMIの減少、運動量の上昇が認めらています。従業員の体重管理ツールとして導入した研究プログラムでは、16週間経過時点で欠勤の減少という効果も認められました。

1万人以上のユーザーに導入され、8割以上で治療上意味があるレベルでの減量が達成できている、という成果は素晴らしいですね。make it happenさせている...

買収されるにあたっての同社CEO・Curtis Dugganのコメントがよかったです。今後もVirgine Pulseの中で成長を続けてほしいサービス。

"Our outcomes speak for themselves and have earned us the highest form of recognition by the CDC. This is a significant, hard-earned achievement that very few DPP solutions can claim. We see substantial opportunity to expand Transform’s footprint globally and are eager to make the program available to the millions of consumers who use Virgin Pulse to manage their health and wellbeing today."

3. Virta:薬を用いない糖尿病治療の開発・提供

企業名:Virta Health Corp
URL:https://www.virtahealth.com/
設立年・所在地:2014年・サンフランシスコ/アメリカ
直近ラウンド:Series C(2020年1月)
調達金額:$175m(Caffeinated Capital, Venrock など)

Virtaは、薬を用いることなく糖尿病の治療を行えないか、という課題に挑んでいるスタートアップです。そんなのうまくいくの?と思ったあなた。どうやら着実に成功に近づいているようなんです。

彼らが実施するのは個別の遠隔コーチング・ケアとパーソナライズされた栄養療法。その組み合わせにより、血糖値を下げ、服用する糖尿病薬の量を減らすことを目指します。

●継続的な遠隔医療
患者が必要とする時にいつでもどこからでも、オンラインで医師にアクセスできます。オンライン面談では、予防的なケアの提供や患者のサポート、糖尿病に関する患者指導が行われます。

●個別化された栄養療法
米国糖尿病協会が推奨するガイドラインに合わせて、個別化された持続可能な糖質制限プログラムが提供されます。

同社のプログラム参加後、服用する薬は半分以下になり、HbA1cは1.3下がり、体重は30ポンド(約14kg)減少したと、研究では報告されています。14kg...?? 劇的な成果だ。アドヒアランスもいいよで。各数字の示し方もうまい、論文的。

薬によって体の状況を保つのではなく、日常生活の中で可変な部分を効率的に変えることで持続的なケアを提供しています。対面での栄養指導も難しいのに、オンラインでの栄養指導でここまでの効果が出ているというのはすごいこと。同じ手法を日本でやったとして、同様の効果が出るのかは、ちょっとわからないけど。

4. SmartMat:糖尿病性の足部潰瘍を予防するための測定マット

企業名:Podimetrics, Inc
URL:https://www.podimetrics.com
設立年・所在地:2011年・サマービル/アメリカ
直近ラウンド:Series B(2019年12月)
調達金額:$19.1m(Polaris Partners, Scientific Health Development Partners)

アメリカでは、糖尿病に関わる医療費のうち約30%が糖尿病の合併症である足部潰瘍の治療に使われています。足部潰瘍は悪化すれば下肢切断にもつながる危険な疾患で、その予防・治療は患者のQOLにも直結します。

このような問題を解決するために、Podimetricsは、足部の温度を測定することで糖尿病性の足部潰瘍を早期に検知し悪化を予防するSmartMatというプロダクトを提供しています。使い方は「20秒間デバイス上に立つ」だけ。足部の温度をスキャンし、結果に少しでも異常がある場合は臨床医に通知してくれます。

一番の特徴は、機械学習を用いた足部潰瘍の検出力。なんと、症状が発現する5週間前に糖尿病性足潰瘍の97%を検出可能みたいです。成果はしっかりと論文になってました。

その他にも、SmartMatに関わる多数の研究やレビューが公表されてました。治療や患者支援に関わるものである以上臨床研究が重要、ということはわかりますが、スタートアップをしてこの量はすごいですね。

SmartMatは、FDA承認は当然取得済み、米国足病医学会が提示する予防的フットケアの3つの診療ガイドラインに治療法として組み込まれています。かなり信頼性の高いデバイスですね。足部潰瘍の発症や再発を防ぐ効果があることも証明されています。

アメリカでは4人に1人の退役軍人が足部病変を発症しているという背景から、19年末のSeries Bで獲得した資金は主に退役軍人局医療制度内でのシェアを拡大するために使われるそうです。民間保険加入者に対する事業展開もこれからおこなっていくとのこと。今後の動向から目が離せない、強いサービスです。

5. Plenity:糖尿病患者の減量支援サプリメント

企業名:Gelesis, Inc.
URL:http://www.gelesis.com/
設立年・所在地:2006年・ボストン/アメリカ
直近ラウンド:Private Equity Round(2019年12月)
調達金額:$212.8m(Vitruvian Partners, Cormorant Asset Management など)

最後は少しライトなものを。サプリメントです。怪しげなものではなく、19年4月にFDAより体重コントロールのためのサプリとして承認も受けた、れっきとした本物。

Plenityの原料は主にセルロースとクエン酸。ドリンク型かと思ったらカプセル状とのことで、昼食と夕食の20分前に3カプセルを水で飲む要領です。BMIが25〜40の成人の体重管理に利用することを想定してデザインされており、糖尿病患者の減量にも用いられるとのこと。

なぜ減量効果が出るのか?それは、このサプリの成分が、胃の中で膨張し、少ない食事量で満腹感を得られるようになるから。当該成分はその他の食べ物と一緒に体外へ排出されるので、いつもでも体に残るということはありません。安心。

効果検証ですが、Plenityを6か月使用した人の中で、約60%の人に5%以上の体重減少が認められました。また、24週間のPlenityの使用で起こる有害事象をプラセボ群と比較した臨床研究も実施済みで、使用による特異的な副作用は認められませんでした。これらの結果はすべてWeb上で公開済み。

また同社は、Fast Companyが選ぶMost innovative Company 2020のBiotech部門で#5にランクインしています。要は、マーケットの注目の的です。

実際の販売は2020年の秋からで、現在はマーケティングと製造のための資金を調達し流通システムの構築に力を注いでいます。自宅待機が長くなる中で、あれ体重が、、という方も増えていそうなので、糖尿病患者に限らず、ニーズがありそうな商品です。

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こんな感じで、第57回、糖尿病回でした。
ぜひ過去回含めて全てまとめているマガジンのほうも見てみてください:-)

応援ありがとうございます!