中国・青島 地図に載らない謎の成人用品店
それはまさしく偶然の出会いであった。
話は僕が中国の青島に滞在していた1週間ほど前に遡る。
極寒の1人ビールかけを終えた僕は宿に帰った後シャワーを浴び、夕飯を探しつつ宿付近の街を散歩していた。
Googleマップのストリートビュー機能が使えない中国では、実際に行ってみないと街の雰囲気が分からない。
中国にも百度地図という地図アプリはあるものも、広大な中国大陸全土の情報を網羅しているとは言い難いため、街歩きを通じて思わぬ発見がある場合が多々ある。
僕はそうした発見に若干期待しつつ旅先では必ず散歩をするようにしていた。
今回もそんな何気ない散歩のひとつなはずであった。
宿から駅の方面へ向かうとまず近代的なショッピングモール街があった。
中国と聞くと汚くて若干遅れているイメージがある人もいるかもしれないが、少なくともこうしたショッピングモール街の内部は日本となんら変わりのないほど清潔に保たれている。
(李村駅のショッピングモール 百度より)
だがしかしこうしたショッピングモール街はもはや中国ではどこでも見れるような風景だ。
僕が見たいのはある種「中国らしい」風景であり、小綺麗なショッピングモール街ではない。
僕はこの没個性化した街を抜け、明かりの少ない路地の方へ向かった。
小綺麗的なスポットライト街から逃げるように奥へ進んで行くと各所に雑な光が散らばった市場が現れた。
路肩にはいつからあるのか分からない魚や野菜が無造作に置かれ、商店の主たちは客のことなど見向きもせず楽しそうに数人でビールを囲んでいる。
路上には彼らがつまみにしていたであろう貝殻たちが何の配慮もなく散らばっていた。
中国の原風景とも言える光景がそこにはあった。
北京や上海といった大都市にはこうした光景はほとんど無い。
僕が中国で見たいのは小綺麗な街ではない、汚くて臭くてうるさい、それでも日本にない活気に満ちたこの街のような姿だ。
僕は思わず遭遇した市場に感動しつつ、なんとなく街を歩いていた。
数十メートルほど歩いた後、僕はこの市場からさらに奥の居住区に通じる路地があることに気づいた。
まばらな人影、暗がりに存在感を放ついくつかの電灯。
怪しい
僕は自分の嗅覚がにわかに反応しているのを感じ、路地の方面へ体を傾けた。
そして暗がりに身を預けること数分、僕の目の前にある日本でも馴染みのある文字が現れた。
成人用品
この文字の持つインパクトは僕の足取りを止めるのには十分過ぎるものであった。
僕はまずこの文字が急に現れたことへの混乱を静めるために自分の持つわずかな知識を必死に整理した。
・同じ漢字でも日本と中国で必ずしも同じ意味になるとは限らない。
・中国は風俗店の営業が法律で禁止されているなど性への規制が厳しい。
・この店の看板に書いてある事柄は「成人用品」「無人販売」「24時間営業」
こうして自分の中の情報を整理した僕は最後に全ての確認をするために地図アプリを開いた。
この店の情報は無かった。
何分この店の前で立っていただろうか。
地球上のどのメディアを参照してもこの店に関する情報はない。
実際に行った者にしか得られない情報がそこにはある。
これらの要素は最近失いかけていた僕の冒険心を奮い立たせるのに十二分であった。
僕は勇気を振り絞り錆び果てた扉に手をかけた。
扉の先には驚きの空間が待っていた。
コンドームやオナホールといった日本でもお馴染みの品はもちろん
(1元は約15円)
電動マッサージやいつ使うのかも分からないマネキンなど意味不明な品までありとあらゆる商品がこの空間に押し込まれていた。
商品の多くは日本製を自称しており、ショッピングモール街のスーパーでは決して売られていない物ばかりであった。
僕はエロに関して閉ざされた国である中国においてこうした店を発見したことに感動する反面、この店に関するいくつかの謎が次々と浮かんできた。
どこから仕入れているのか。
本当に日本製なのか。
誰が経営しているのか。
政府はこの店に何を感じているのか。
謎が謎を呼ぶとはまさにこの店のことを指すのだろう。
ただ今一つ言えるのは性を追い求める人間の性(さが)はこの国にも共通しているということである。
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