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行動経済学×スポーツアナリティクス=新たな可能性、という本を企画した話

【これは「スポーツアナリティクス Advent Calendar 2022」の15日目の記事です】

はじめましてorお久しぶりです。なういずと申します。
先日、学生のための商業出版コンペティションである出版甲子園にて、行動経済学×スポーツアナリティクスの企画を発表し準グランプリをいただくことができました。
出版甲子園は今回で18回目すでに41冊が出版されている歴史ある大会で、その名誉にあずかれたことを大変うれしく感じています。

さて、今回のアドカレでは、企画の概要と企画を思い至った背景について、僭越ながら紹介させてください。




賞状と万年筆(副賞)。名前は隠しました


企画の概要

私は、大学院で認知科学や行動経済学を専攻しています。これらの学問は、人の考え方のクセを扱っています。
普段研究しているなかで、スポーツにおける考え方のクセをあぶり出すことで競技の上達や発展につながるのではないかと思うことがあります。例えば、監督がより的確な采配をできるようにサポートしたり、審判のジャッジのクセを根拠を持って示すことで戦術の助けとしたり…膨大な研究の知見がスポーツに役立つ可能性を感じています。

しかも、近年はスポーツを題材にした行動経済学の研究が増えています。しかし、このことは一般的にあまり知られていません。
だったら自分で書いてみようと、出版甲子園への応募を決めました。

企画のタイトルは『行動経済学でスポーツの常識を小突く』。行動経済学の視点からスポーツの常識を捉え直し判断の損得を数値で示すことがコンセプトです。
例えば、行動経済学では損失回避バイアスという現象が知られています。人は損を避けることを重視するという認知バイアスです。これを野球の盗塁采配にあてはめた結果、メジャーの70%以上の監督に損失回避バイアスが見られ、バイアスを改善することで年間0.5勝ほど増やせることが示されました。野球には盗塁以外にも様々な采配がありますので、他の采配も見直すことで勝ち星が大きく増えることが期待されます。

このように、スポーツにおける意思決定や判断を熱く語る企画となっています。
章立てなどのさらなる詳細は別記事に書きましたので、こちらもご参照ください。

今回は、応募に際して、この企画の需要や将来像を考えたので、それを書いていきます。


スポーツアナリティクスの未来を考える

まずは、スポーツアナリティクスの中で、本企画がどのような役割を果たせるかについて考えていきます。
表1では、横軸に時間・縦軸に出版の環境をとり、求められている書籍像を考察しました(トリーズの9画面法という手法です)。

表1:データ活用とスポーツ

2000年代前半は、オークランド・アスレチックスは統計学者を採用し低予算でチームを再建。この様子を描いたマネーボールは書籍も映画も大ヒットし、多くの数字好きをスポーツアナリティクスの海へと駆り立てました。

現在は、人気スポーツのトップリーグではアナリストいることが当たり前な時代になりました。分析するデータの量や種類は日増しに増え、簡単な分析ではアドバンテージを取れなくなりました。書籍としては、圧倒的な専門知と分析で選手を育成する"The MVP Machine"(邦題:アメリカンベースボール革命)が話題となりました。

そして、データ分析の結果をベースに組織として行動変容をしていく、というのが次のトレンドになると考えました。流行りの言葉を使うならDXです。その中でスポーツアナリティクスも他分野の融合が進んでいくでしょう。今回のW杯でもPKを科学する神経学者が話題になりました。
これらの背景から、最強の選手だけでなく最強の組織を実現するためのスポーツアナリティクスが求められる時代がやってくると予想します。そんな時代のさきがけとして、自身の知識を役立てたいのです。

※参考:トリーズの9画面法



ニーズを考える

では、行動経済学×スポーツアナリティクスの書籍を企画する上で、どのようなニーズがあるのでしょうか。
引き続き、9画面法で考察しました。縦軸は、上からニーズ・商品・シーズとなっています。

表2:スポーツ上達のニーズ

従来のスポーツ上達のニーズとしては、チームとして練習する場合と個人として練習する場合に分類できそうです。最近はプロスポーツ選手がチームとは別に外部の組織と契約する例も増えている印象があります。

このように、体力を用いるタイプの練習はすでに十分行われているので、体を疲れさせることなくスポーツの上達につながる練習はニーズがあるのではないでしょうか。従来の例であげた外部の組織のように、十分な専門性をもつことも重要そうです。

以上より、行動経済学の知見に裏打ちされつつ、実際のスポーツ現場に応用できるような企画にしたいと強く思うようになりました。具体的には、著名ね研究や論文を正しく引用しつつ、上達につながるような話にしていきます。

書籍像を考える

最後は書籍に必要なものを考えていきます。商業出版を目指すので、売れる作品を作ることを忘れてはいけません。
今回は、横軸を事実→抽象→具体、縦軸を顧客→もの→中身と取りました。

表3:求められる書籍像

まずは事実として実際に売れている行動経済学の書籍を確認しました。売れ筋は大きく2種類、初学者むけの入門本と、骨があるが世界的に売れている翻訳本です。前者をみると、イラストや実例が多く出ており数式は少なめでした。

この事実を抽象化すると、対象読者は知識をつけたい意欲的な人で、(著者に権威がない場合)内容は誰でも分かることが大事と言えそうです。いくら読者が意欲的だからといって、難しくしてはならないことを肝に銘じましょう。

続いて、スポーツ関係者を念頭に具体化します。買ってくれると想定されるのは、少しでも勝ちに近づきたい意欲的な選手・チームといえそうです。中身は極めて平易であることが求められ、特にスポーツの情景が分かりやすいことが求められそうです。つまり、スポーツの実場面を例にあげ、それを認知バイアスの視点から考察していくという流れが面白いのではないかと思い至りました。スポーツの名場面や話題になった采配をスタートにお話するイメージです。

出版を目指して頑張ります

ここまでスポーツアナリティクスの未来・ニーズ・書籍像から出版甲子園の企画を考えた過程をお話しました。

行動経済学×スポーツアナリティクスで、

  • 実場面をとりあげわかりやすく

  • 妥当な研究に基づき、かつ現場にも応用することができ

  • チームとして勝利に貢献できるような

一冊を目指していきます。出版を目指して引き続き精進しますので、応援していただけるとうれしいです。

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