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囀る鳥は羽ばたかない 51-55話感想


百目鬼と矢代の激怒


怒りをお互いにぶつけるふたりのスカしてない顔を愛でる回。
こと矢代においては、ぽかすかと髪の乱れも相まって激レア。


百目鬼さん激怒

まずは、百目鬼激怒から見ていきます。
百目鬼は止まらない矢代についに爆発しました。

「あいつ(井波)じゃなくても(45話)」から「俺が犯せば満足ですか」まで。「俺が」っていうのも”特別な俺”で思い上がってるわけではなく、”誰でもいいならその中の俺”という意味ですよね。「犯せば」は矢代が言った上で拾った言葉ですよね、らしくない。

百目鬼は4年前の変わらないままの矢代だと思っていて、EDになっていることも知らないですよね。痛み付きのセックスをやめられない矢代に、百目鬼は”あなたにはこの酷い扱いが正解なんですよね”と塩対応。
矢代の望み通りかと思いきや、実際矢代の心は傷口に塩状態。辛。

跡が付くほど縛られたい、物みたいに扱われたい矢代についに百目鬼激怒。
百目鬼はさ、矢代を守りたいんですよね。壊してもならない。自分自身を大事にして欲しい。それらが根本にあるのにうまくいかない。ねじ曲げられたまま痛みから守り切れない。

あとはもう嫉妬でしょう。大嫉妬。自分以外は許せない百目鬼。嫉妬メキ。
井波じゃなくて俺で。え?城戸も?は?俺以外許すまじ。
塩対応にしてるのに何故俺ではダメで俺だけではダメなんだもう部下じゃない。必要なら俺がやる俺だってなじれる俺だって縛れる俺が抱く俺が俺が。

今回は売り言葉に買い言葉でもなく、スカしてもいません。スカしてんのよりよっぽどいい表情ですね。
そもそもさ、”俺が全部やります”的な状況をどうにか作ろうとする百目鬼の執着よ。あと仕事もしなさいよ。七原の苦労も考えなさいよ。


矢代さんぽかすか激怒

次に、矢代激怒を見ていきます。
矢代は百目鬼の刺青を見てついに爆発しました。

ついに…と書きましたが、矢代は建前を言いながらずっと怒ってたかなと。悲しさや悔しさもあったでしょう。「結構なこと(42話)」と冷静に持ち上げ、「なりたいものになった、めでたい、俺にはどうでもいい(43話)」とそっけなくしていましたが、とうとう態度に出てしまいましたね。

紋々なんて堅気でも入れてると言いつつも、百目鬼には入れて欲しくなかった。百目鬼が堅気に戻っていなかったこともあわせて、ここで堰を切ったように激怒したんですよね。ふたりきりだったことも大きい。

矢代が本気で怒るのは初めてですよね。黒シャツ百目鬼は、自分を憂いて手放して堅気に戻したかった矢代にバレたくなかった。怒りを中断するほどに。黒メキは怒りを受け入れます。自分のために怒る意味を知ってるから。

矢代も大事なものは守りたいんですよね、自分で。
影山家の地上げの時もそうですし、出会った頃の七原を助けたのも「俺以外が助けんのすら許さねー(18話)」と考えます。平田抗争中にも甘栗が百目鬼に「守られてんのはテメェじゃねぇか(29話)」と言いますしね。

そもそも矢代はさ、初めから一貫して羽ばたきたくない。
極道でいたくない…と言うか三角さんの下にがっつり入りたくない。極道を「辞めないけどな(27話)」とは言っていますが、三角さんに恩があり辞められないことを理解しての言葉かと。ただでさえ抜けるにはひと踏ん張りいる世界。この話題はまたいつか。

突き放したことで百目鬼を守れていた(堅気に戻していた)はずが守れていなかった怒り。
百目鬼に対して怒りを露にできた矢代に私は嬉しさを感じます。


守りたい気持ちを強く感じるのは、ふたりとも相手が死ぬかもしれない場面を2回ずつ見ているからでしょうか。
お互い守りたいのにそこを伝える気がないから過去イチの激怒。


百目鬼の暴走と矢代の自覚

激怒直後のあれこれはいつか別記事します。

仕事モードのはずが、漏れ出る執着百目鬼

シャワー後「満足しましたか」と一線を引きます。満足させるためにしただけですと言わんばかりに。「上に連絡—」と言い、”頭”を使わなかったのはたまたまでしょうか。

ここから怒涛の執着百目鬼が顔を出します。
「俺以外の前ではやめた方がいい」
百目鬼さん、冷静にしたいところですが自分を抑えられていませんよね。は?聞き間違えた?初速おかしくない?何このいきなりのパワーワード。破壊力。オレノマエダケニシロ?どうした百目鬼それこそ”よく言うな”です。

「怒りますね」の直前の驚き顔は鈍感な矢代に対してなのか「理由が要りますか」ってはぐらかしてますよね。昔は「俺には七原さんのように怒る理由がありません(6話)」って言ってましたよね。

「俺が行く」井波に会わせたくないし、今後もやめさせたいですよね。
余談ですが、矢代にとって井波は必要だったと思ってるんですよ、レイプ後に関してだけは。嫌ですが。持ちつ持たれつの関係で、矢代を保つというかギリギリの状態でも生きるために。

さて、山川や甲斐を差し置き、井波へ話に行く百目鬼は仕事モードから完全に暴走してますよね。ここ数日の矢代が百目鬼を動かします。
連に見つかったら叱られます。中間管理職ムラジィもご苦労が絶えない。

少しずつですが、百目鬼の行動は本音がチラチラ(矢代以外に)見えるようになってきています。ゴリラが制御できなくなったのでしょうか(何それ)。杉本に自制しろって言われそうです。総じて褒めてます。


執着に気付かず、自分の望みに気付く矢代

城戸の家で百目鬼に「俺が犯せばー」と言われた時に「わからなかった これが俺の望んだことなのか」と。
自分を追ってきてくれて、物みたいに扱われてるところから連れ出して怒っている事実は、矢代の心情として嬉しいのではないかと。百目鬼に抱かれること自体も。

さりとて”怒るのは俺が関係者と勝手に繋がるからだ”と捉えて「形だけ拒むんですか」には否定しようとします。
矢代は様々な感情はあれど自分がどうしたいのかが自覚できていません。

それでも矢代は自分に向けられた怒りには欲情してしまいますよね。
抗わないのか、抗えないのか。

百目鬼のシャワー後に「満足しましたか」と言われ、矢代はただの処理行為だったという実感が大きくなります。起きたてのメキ不在に焦るのも、昔のような軽口も叩けない寂しさも、女のことを考えるのも。
結果、勘違いが加速します。盛大に。

「俺に腹が立ってんだ 男が好きな俺に 
 だからあの時みたいには抱かないんだ」
矢代が本当に望んでいたものは ”昔のお前にあの時みたいに抱かれたい”

矢代はさ、自分がどうなるのかを確認しながら生きてますよね。ギリギリを。そして受け入れる。この危なっかしさが怖いけど矢代らしい。


事後、矢代は自分の心情をひとつ把握したようです。
事後、百目鬼は動揺しており塩仮面が外れそうです。
スマホを両手で挟んで矢代へ渡すのも愛情を感じます。


お前は俺を生かすのか

「壊す」「壊さない」「壊れていた」
私は百目鬼が矢代を壊さないようにしていると思って感想を書いています。

百目鬼視点で25話での「…壊す…な、俺を」、「壊しません、絶対に」は百目鬼の中で生きているはずだからです。七原と話をした後は幼少期にねじ曲げられた矢代を壊さないようにと考えてるのかなと。

矢代視点では25話で百目鬼に壊されますが、震える手で仮面を付けます。壊されるというより、百目鬼によって気付かされて曲がっていたのを元に戻されるような。

現在の矢代は戻り切れないところで自分と対峙しているのかなと。先程触れましたが、矢代は戻された自分がどうなるのかを試しながら生きているようです。ヒリヒリする。

なお、34話の平田との殴り合いでは「もうとっくに壊れていた」とも言います。こちらは義父にねじ曲げられたまま生きてきたことですよね。
矢代は自分を終わらせようとしていたが終わらなかった。百目鬼により生かされたなと。


どこかで呟きましたが、百目鬼が撃たれた後に矢代が言っていましたがかき消された言葉。
「おまえは…俺を」ゴオオォ
「おまえは…俺を…生かすのか」と、私は勝手に脳内で読んでしまいます。


"井波いいぞバラせ!"の盛り上がる場面に触れられなかったです。
次は56話感想へどうぞ。どめき感想もどうぞ。今日はここまで。

(引用元:ヨネダコウ,『囀る鳥は羽ばたかない』,大洋図書)


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