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囀る鳥は羽ばたかない 56話感想


56話感想


詰め寄ってどうにかして矢代を囲い込む百目鬼回。
足が速い筋肉ゴリラをもってしても逃げられないように。


百目鬼さん応援目線

まずは、百目鬼さん応援目線から見ていきます。

前回ラストである閉扉からの再入室により、ここからは仕事の関係ではないと矢代と私に意識させてくれます。好き演出。タバコ取り上げも良き、百目鬼がひと吸いすることで一蓮托生感があり、すぐ消すのもまた良きですね。七原の「やめたくてもやめらんねぇ」が頭をよぎり感慨深いです。

他人に興味がない矢代が少しでも自分を気にかけてくれて嬉しそうなのも束の間、矢代は「メンドクセー」で逃げようとします。お得意ですね。どうにかしろメキ、矢代は面倒な持ち物はすぐ捨てるんですよ(29話)。面倒の許容範囲はすこぶる狭い。上手く追ってくれ。

矢代に「関係ない」「ヤル必要ない」とないない拒否態度に対して「俺としたいー?」と思い切って言ったけどスムーズにいかず、再度「俺じゃなきゃー?」にして引かなかった百目鬼えらいです。認めさせた偉メキ。

「お前は仕方なくしてた」と言われ、百目鬼が驚きつつ苦しそうに決意し、そばにいる理由は身体の相性がいいんですよ、と。他意はないと。不本意でも矢代が表面上で納得できる理由を伝えなければ。
お互い相性がいい!よしっ!これでどうだ!文句ないだろっ!と。

矢代は自分へ向けられた好意からまずは逃げるんですよ。百目鬼はそう思っている。ここは矢代に好意を気付かれていない竜崎をお手本にしたい。さすれば近からずも遠からず。兎にも角にも4年前と同じ状況にしてはいけないんです。別ルートで最終的に捕獲、いや自分のものにできるように向かわなければ。

「嫌でしたか」、「好きでしたよね」百目鬼はここまでずっと会話で確認していますね。逃げられない様にしつつ、矢代がどうして欲しいのかを見極めているようです。45話の「どうにかして欲しいように見えます」からずっと。井波の暴露後ですし遠慮なくいきます。

「酷いの好きでしたよね」については、百目鬼は義父の言葉とは知らないんですよね。仕方ないかなと。私は矢代回想で知ってるから辛いけど。

「…好きだよ」に百目鬼が口開いちゃうほど驚いてます。かーわいい。
「頭は分かりにくい人だから」(7話)が念頭にあり、確認の会話をしてからの矢代の表情とこの言葉。前後の2人の表情も何回も見てしまう。

自分にしか反応しなくても、興味持ってもらえただけで珍しく嬉しさが顔に出るくらいよ、それくらい矢代に好かれてないと思っている百目鬼。
自分の立ち位置を竜崎未満と見ているのではないでしょうか。当我比。比べるものではないけれど。4年前にスパッと切られて音沙汰無しで自分ばかり追っていると思っていたら自己評価低くもなりますよね。

百目鬼は筋肉だし捕獲できるし虎着るし執拗なゴリラなんだから自己評価高くてもいいですよね。褒めてます。


矢代さん捕獲されろ目線

次に、乙女矢代さんおとなしく捕獲されてください目線で見ていきます。

百目鬼の4年間を気にした事で、興味があると思われたとハッとします。これだけですぐに逃げようとします。傍観者でいられた遠い昔の矢代ではありません。「まるで俺だけが」(45話)ってしょぼくれてしまい余裕がないんですもの。しょんぼり矢代。自分から捨てた百目鬼を想い続けてしまいました。女がいるはず、バレたくない。

49話では見たくなかったし優しくされたかったし、52話で矢代の脳裏に浮かんでしまったし、それらを飲み込んでいて苦しいですね。百目鬼は女がいるとはっきりとは言っていません。演じる為に都合がいいのか否定もしません。54話扉絵「お互い、知らないことがある」は矢代はEDとして、百目鬼側は?”ママと付き合ってると思われてるが、実は違う”であれ。

高校時代の矢代は好きになった人間は”男”だという絶望を知り、大人になっても「ガッカリだわ(3話)」と。余計に”女”に引っ掛かりますよね。

さて、徐々に矢代の本音が洩れてきますよね。
義務的禁止!淫乱呼び禁止!酷いの禁止!! 目を合わせずに強がりながらも心の禁止令が漏れています。矢代殿は七原殿との会話で「本音は言わないから本音—。」(45話)とお考えの為、囀るが本心は読みづらい御仁のはず、にもかかわらず駄々洩れです。かーわいい。

出会った頃から百目鬼には割と本音を漏らしてきてますよね。矢代にしては…影山と比べれば…ですが。そしてそれをしっかり拾っているであろう百目鬼。
怒りをあらわにしたり嫌なことを嫌と言えたり、一筋縄ではいかずに分かりづらいけど、矢代が百目鬼にそうやってでも甘えられれば私は嬉しいです。

「…好きだよ」に私は少し泣きました。


読了直後にどこかで書いたけど、私は最適解と思っていて、ふわっと安堵もしている。2人の関係にはそんな感じですが、ただたまに涙出てくるんですよ。今まで描かれた過去を思い出して、悲しくて綺麗で胸がいっぱいになるのでしょうか。


百目鬼と矢代の空白

「お前をどうにもできない」

百目鬼はさ、「自分のものにしたい」(22話)、「俺の…っ」(25話)って矢代に対して思っていてさ、29話でコンタクト握り締めて嫉妬と悔しさ滲ませてさ、あげく『飛ぶ鳥』で最後のあの表情でしょう。矢代捕獲に向けての百目鬼始動。

そこにいくまで「何でもする」、「手足となる」、「あなたを守るための命だから好きにすればいい」と矢代にすべてゆだねてきました。初対面井波の15話では「やめて欲しいとは言えません」と伝えました。主従関係であり、手足は従うのみですしね。

で、捨てられます。
「…お前をどうにもできない」(24話)が強く残ります。

再会後の百目鬼は「俺のものです。俺の時間もこの体も」(41話)で4年前とは違う立場で自分の意志があることを伝えます。56話では流れは少し違いますが「誰としたくて誰としようが」とも言います。もう矢代にゆだねません。

とは言え、相手は矢代。好意を持っていませんモードで接して、なおかつ側にいる術を考えます。大変ですね。もう匣に詰めちゃえよ(違う)。
もちろん「どうにもできない」はこれだけではなく諸々の心情が含まれていると思っていますが、今回は56話に紐付けた感想にしました。

あなたがどうにかしなくても、あなたの側にいられるようにする。
56話で前進したと感じました。


「誰にも触らせたくない」

矢代はさ、他の人に反応しなくなったのは百目鬼のせいと知られたくないしさ、百目鬼が知りたかった「いつからですか」もはぐらかしたしさ、あげくの「…好きだよ」でしょう。矢代解呪に向けての一歩目始動。

「俺しかいらなくなるように」「俺しか欲しくなくなるように」は53話で矢代が百目鬼の呪いと捉えておりいまだ効力があります。それともうひとつ。

「この身体をもう誰にも触らせたくない」(24話)

井波にやられてしまった事実(47話)から、私はこう考えています。
【義父レ→ 数多のモブ→ 百目鬼→(この時点で自分では反応するはず)
  →井波レ→ 店の客で試すが反応しない→ 痛いだけマシの井波】

井波のレイプにより「誰にも触らせたくない」が守れず、矢代は何にも反応しなくなってしまった。私は百目鬼の願いが破られたことで、矢代が精神的ダメージを負う呪いだと思っています。この辛い話題は今回はここまで。

でも再会した百目鬼になら身体は反応して、それを矢代は百目鬼を前にして認めました。百目鬼もおそらく自分で処理していました(37話)。気持ちに関してはぐちゃっとぼんやりとしたままですが、56話の百目鬼の囲い込みによりこの関係が定着することで他の人が触らないといいですね、今はひとまず。

そして、今は矢代も「俺しかいらなくなるように」「俺しか欲しくなくなるように」って願っているのにね。お互い自己評価が低過ぎて相手に分かりづらいですよね。それもまた醍醐味。味わい深いですよね。呪いを願いと思えることが解呪。

愛情でお互いとしか触れたくないけど、相性ってことにしておくよ。


『飛ぶ鳥は言葉を持たない』

この話がとても好きなんです。タイトルも。表情も。
七原と話し、百目鬼が「分かりました」って言ってるであろう回です。

七原の話を聞き、過去の矢代との会話を思い出してハッとする百目鬼。
男が好きなわけじゃない、優しそうなのは嫌だ、可愛いけど怖い、嫌だ…
お前をどうにもできない…

屋上で長い時間佇み考え抜いて、室内というか暗闇へ歩き出した百目鬼の顔に強い決意と執着を感じます。再会後のつれない百目鬼ツンメキを見るたびに私はこちらを見返していました。56話でもしかり。

頭が泣いた顔を思い出した時の表情、過去に言ってたことを考えた時の表情、決意した時の表情、最高です。更にここでの考えた時の表情と、55話での車内で考えてる時の表情、その後の目に光が灯る横顔が最高ですよね。

私は本に穴が開くほど見ています。あ、この言い回しは百目鬼も理解したのか、目が点になって「穴が…」とはならなかったですね。

『囀る鳥は羽ばたかない』は矢代、『飛ぶ鳥は言葉を持たない』は百目鬼。

ついでに。私は”羽ばたかない”を”矢代が極道で躍進しようとしない”と捉えていて、”飛ぶ”を”百目鬼が同じ世界の極道に身を置く為に行動する”と捉えています。広義で雑に言うと行動に移すか移さないか。長くなりそうだからこの辺で。
口達者だけど本心は出さなくて囀るってのがまた粋ですよね。


あ、56話の絡み場面について触れてないですね。でも今日はここまで。
「57話感想」はこちら。

(引用元:ヨネダコウ,『囀る鳥は羽ばたかない』,大洋図書)


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