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「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第2話 豊島区 駒込の煮魚定食~

 こんにちは、伊波です。トップの画は、たぶんタラです。
 前回からスタートしてみたテレビドラマ「孤独のグルメ」の感想日記。初回に気合を入れ過ぎてしまいましたが、果たしてどれだけもつのでしょうか。いや、持たせなければなりません。

 では、今回もお楽しみくださいませ~。 ※以下、ややネタバレします


あらすじ:郷愁の駒込

 旧知である北里画廊のオーナー(稲森誠)に呼ばれ、駒込を訪れた井之頭五郎(松重豊)。昔ながらのラーメン屋や雑貨店が並ぶ光景にノスタルジーを感じる。
 商談を終え、食事処を求めて歩き出した五郎。通りがかった公園で老人たちに誘われ、将棋対決に挑む。幼い頃、祖父に褒められたことを思い出し、自信満々に手を進めていくが太刀打ちできない。そのうちに激しい空腹感に襲われていく。

五郎さんと駒込

 五郎さんに「音、匂い、雰囲気。どれをとっても懐かしい気がする」と言わしめた街、駒込。ドラマの撮影が行われた時期が2011年末~2012年初頭と想定してみても、道中に映る商店街の姿はノスタルジックです。ただし、彼がこの街に深い縁があるかと言われるとそうでもなく、「毎日いろんな場所に出向くんだが、駒込駅はほとんど降りたことがない」のだそう。そんな五郎さんと駒込を繋ぐのが、今回の商談相手である北里画廊なのでした。

所感1:どうして負けた?謎の一局

 今回で印象的なシーンの一つが、4人のおじいさんたちとの“野良将棋”対局。観客のおじいさんに「お兄さん、強そうだね。どこで覚えたの?」と聞かれたところから五郎さんの回想へ。祖父に褒められて得意げに鼻の下を掻く五郎少年は、やんちゃそうな雰囲気。存外、彼も少年時代はよく遊び、よく遊ぶ田舎の元気な少年だったのかもしれません。近作では五郎さん自身の過去のエピソードが語られる機会が少なく、貴重な回想シーンです。

 気になったのは、無残と言わざるを得ないほどの負けっぷりを見せてしまった五郎さんの最初の対局。なぜ五郎さんは負けたのか、かなり疑問が残ります。
 というのも、最初の対局のシーン。五郎さんの初手は▲7六歩で、その後△3四歩、▲2二角、△同銀、▲2六歩、△3三銀、▲2五歩、△8四歩、▲2六飛、△8四歩と進んでいるように見えます。つまり、互いに通り道を空けて角を取り合い、そして飛車先の歩を突いていく、という手順で、将棋では割とオーソドックスな序盤の展開です。この直後、回想シーンへと入る五郎さん。相手の「王手」の声に呼び出されて盤面を見るとまるで違う盤面になっていました。
 序盤の角交代こそ行われていますが、飛車の道は塞がったまま。どうやら5筋の歩と3九銀を攻撃に使ったようですが、それらはすべて取られてしまい、挙句の果てに4一金と飛車、そして歩だけで攻め込まれ、全く守りを固められないままに完敗となってしまっています。
 何が起こってしまったのでしょうか。うーん、五郎イリュージョン。

所感2:クセが強い客と煮魚定食

 野良将棋を無理矢理抜け出した五郎さん、色々迷った末に「家庭料理 和食亭」という看板を見つけます。郷愁感のある言葉に弱い五郎さん、「家庭料理、いいじゃないか」と即決で入店します。こういう時の五郎さん、はっきり言ってチョロいぜ。

 店内は4人掛けのテーブル席が3つほど。それとカウンター席が数席あり、カウンターの向こうは厨房になっています。先客は、すでに食事中の若いサラリーマン風の男(池田健人)と、一杯やりつつしきりに電話で話している建築関係の男・幸田(木下隆行)の2人。それぞれ個別でテーブル席についています。彼らを傍目に、五郎さんはカウンター席の中央に陣取ります。
 サラリーマン風の男は「店長!サバの塩焼き美味いッス!」と声をかけます。ここの演技、棒よm……もとい、すごくフレッシュ。演技自体までフレッシュにしなくてもと思ったけど、まあいいです。
 そして五郎さんは店長さん(中嶌聡)の「今日は良いタラが入りましたんで、そちらで」という言葉を決め手に、煮魚定食をチョイス。ここでオーダー完了と思いきや、前菜は、おでん、煮物、シチューの3種から、さらに味噌汁もシジミとなめこの2種類から選べるという自由っぷり。不意の選択に惑わされたか、クリームシチューなめこの味噌汁をチョイス。なんだか不思議な組み合わせです。これには五郎さん自身、「嬉しいけど、ちょっと話がややこしくなったぞ」と首をかしげています。そうなるよね。結局、五郎さんはこれにひじきの煮物ほうれん草の胡麻和えも追加し、オーダー完了です。

 程なくして、前菜のシチューが登場。ゴロゴロのジャガイモとニンジン、タマネギ、コーンが入った、見た感じサラサラしたクリームシチューです。ややこしいチョイスに首をかしげていた五郎さんですが、ひとくち食べてしまえば味に従うのが彼の良いところ。「ほう、これは体が温まる。美味い」と漏らします。
 そしてメインディッシュの煮魚定食。はじめに煮魚を一切れ口にし、「うん、よく味が染みている。心に染みる味だ」と納得の表情。それからさらに、ひじきやほうれん草を挟みつつ白飯に舌鼓。2話目にしてゴハンスキー五郎の覚醒です。やったね!
 「ご飯が美味いって、幸せだ」と2杯目のご飯と喜びとおかずをモリモリと噛みしめ、あっという間に完食。そのままカウンターで食後の一服に入ります。そうして「最初のシチューも美味かったけど、この流れに必要だっただろうか。……いや、これが駒込流なんだろう」と“感想戦”のひとこと。郷に入れば郷に従う、多少組み合わせがおかしくても美味かったならそれで良し。これこそ五郎スタイルなのだ。

 去り際に「次に来たときは、肉の定食を食ってみるか」と独白。そうして街の中へ姿を消して……「あ、2九飛車成で勝てたんじゃないか……フッ」。腹を満たせば頭も回る……。

今回のマニアックポイント

>>今回のズームアウト

 野良将棋を離脱し、お店を探し回る五郎さん。店はあれども決め手に欠けるのか、なかなか入ることができません。「このまま行くべきか、戻るべきか。焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ」と立ち尽くしてしまいます。ここでおなじみの木琴&ズームアウト。振り向きざまだったので体は左向き、右手はポケットの中と、ちょっとイレギュラーなポーズでした。直後、本日のお店を発見。やったね。

>>今回の珍客

 横断歩道ですれ違った後、おそらく和食亭に直行したのであろう建築関係の男、幸田。自身が担当している現場の人手が足らないのか、四方八方に電話をかけて手配を頼んでいるようです。五郎さんが入店した時にはすでに熱燗で一杯やっている様子。その後、人の手配が叶わないと落胆しては冷酒を飲み、大逆転で人手が確保できそうだと連絡を貰うと、祝い酒で熱燗をもう一杯。何にしても、明るいうちから飲めるのはうらやましい限りです。

 急に店に駆け込んできたかと思えば席にも着かずに焼きサバ定食をオーダーし、そのままどこかへ行ってしまった職業不明の男・三浦(乙女俊之介)。しばらくして戻ってきた彼は、パチスロで当たりを出している様子。ものの数分で定食をたいらげ、颯爽と店を出ていきました。この勢いには五郎さんも「ノッてるなぁ」と感心するしかありません。

ふらっとQUSUMI

 井之頭五郎は下戸だが、原作者の久住さんはお酒大好き。ロケでの道中、賑わう立ち飲み屋を見つけて「駅前にね、昔ながらの立ち飲み屋がある所って、だいたい楽しい街なんですよ」とご機嫌な様子。「チェーン店じゃなくて個人の店がいっぱいある街はいいですね!」とも。わかる。チェーン店が悪いわけじゃないけど、わかる。
 お店に着いた久住さんが食べたのは、あん肝、ビール、刺身の2点盛(ヒラメ&しまあじ)、そして真鯛のかぶと煮という何とも豪華なラインアップ。ドラマ本編は食事オンリーなのに、ふらっとQUSUMIでは飲みの肴に走る感じがたまりません。

出演者について

 今回のゲストはお笑いコンビ・TKOの木下隆行さん。ウィキペディアによれば2010年ごろから俳優としての活動も積極的に取り組んでおり、この作品への出演が7作目。本編では五郎さんとの直接的な絡みは無く、仕事の電話で一喜一憂しては酒を注文する建築関係のおっちゃんを演じています。

 また、北里画廊のオーナー役を務めた稲森誠さんは劇団シアターOMの主宰者で、テレビドラマや映画などの出演も多数。代表作には舞台版「うしおととら」などがあります。

 人を超越したスピードで焼きサバ定食をたいらげ、五郎さんを驚かせた三浦役の乙女俊之介さん、調べてみると柳虎志朗という名前で舞台を中心に活動されている役者さんのようです。

クレジット

脚本:田口 佳宏
監督:溝口 憲司
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:和食亭、駒込銀座商店街振興組合、駒込東銀座東栄会、東京都北区、北里画廊、上池袋コミュニティセンター、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
建築職人・幸田:木下 隆行(友情出演)
男の子:立野 海修
母親:たむらめぐみ
北里画廊オーナー:稲森 誠
じいさん・木下:小出 信明
じいさん・西尾:古田 穣
じいさん・山田:矢部 豊
じいさん・大島:松岡 昭男
五郎少年:松田 陽大
五郎の祖父:小笠原 宏
サラリーマン:池田 健人
職業不明の中年・三浦:乙女 俊之介
食堂の店長:中嶌 聡

今回の名言

「確実に五年は会っていない」
 久々に再会した画廊のオーナーに「二年ぶりかな?」と言われた直後、間髪入れず漏れ出たツッコミ的つぶやき。この心の声の鋭さこそ井之頭五郎なのだ!
「腹もちょいとペコちゃんだし、メシにするか」
 画廊を出て喫煙タイムの五郎さんが放ったつぶやき。五郎さん公認キャラクター(?)ペコちゃんが初登場!
「あの頃は、じいちゃん相手に将棋ばかりしていたなぁ……」
 五郎さんの幼少期が垣間見える貴重な回想での一言。じいちゃん相手にはそこそこ勝っていたようだが、野良将棋の結果は……。
「うーん、腹が減って頭が回らん」
 空腹感が勝ってくると何も手が付かなくなる、五郎さんの“持病”が出始めた時の心の一言。それは対局中だろうが商談中だろうが、一切関係ないのである。
「俺の胃袋は今、何を食いたいのだろう」
「焦るんじゃない、俺は、腹が減っているだけなんだ」

 街中を歩き回り、店を探すシーンでの一言。道中、ラーメン屋やネパール料理店など見かけているが、飛び込みはしない。案外冷静である。
「新入社員なのか……モリモリ食べて、逞しくなれよ」
 メニューを決めかねている五郎さんの傍らで、モリモリと焼きサバ定食を食べている若いサラリーマンを見かけたときの一言。若人へ向けられる五郎さんの眼差しは大体いつも優しい。
「なぁんでも食べたんだよぉ」
 嫌いなものがないか、丁寧に尋ねる店長の問いかけに「(嫌いなものは)ないです」と答えた後のぼやき。物語の冒頭で少年に話した通り、何でも食べたから今の五郎さんがいる。
「魚で攻めたら、なめこの味噌汁にシチューまでおいでなすった。嬉しいけど、ちょっと話がややこしくなったぞ」
 定食の前菜、味噌汁を選び、追加オーダーを終えた後の五郎さんのつぶやき。珍しく振り回されすぎている。
「まったく、飲兵衛ってのは都合がいいや」
 冷酒でヤケ酒からの熱燗で祝い酒と矢継ぎ早に酒を飲む客(木下隆行)を見ての一言。この回に限ってはあまり人のこと言えない気がする。
「煮魚ってなぜこんなに、白いご飯に合うんだろう」
「こういう、いぶし銀のおかずがよく働くんだ」

 煮魚を食べ、ご飯を食べ、ほうれん草の胡麻和えを食べ、ご飯を食べてとせわしい五郎さんの一言。定食はご飯を美味しく食べるためにあるのだといわんばかりの、五郎さんの美学が垣間見える。
「ほぉ~……これは美味い……キノコ~って感じがする」
 なめこの味噌汁を味わった五郎さんの一言。時々語彙が失われるのも五郎さんらしい。
「ご飯が美味いって、幸せだ」
 二杯目のご飯をかき込む五郎さんのつぶやき。すべてはご飯を食べるためにある。
「いや、これが駒込流なんだろう」
 食後の一服とともに今日の食事を振り返る五郎さんの、本日のまとめ。郷に入れば郷に従え、ということである。
「あ、2九飛車成で勝てたんじゃないか」
 本日のオチ。腹が満たされれば、途端に頭も回る。

本日の五郎さんのお食事

【和食亭】
・クリームシチュー:人参・じゃがいも・玉ねぎのゴロゴロ感が嬉しいクリームシチュー
・煮魚定食(鱈):鱈の白身にジンワリと染み込んだ煮汁 これぞ ご飯の友
・なめこのみそ汁:温かい湯気の中に なめこがニョキニョキ生えている感じ
・ひじきの煮物
・ほうれん草の胡麻和え
・ご飯(2杯目)

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