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車輪の下 (著)ヘルマン・ヘッセ 「ハンス・ギーベンラート」と「有望銘柄」


「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。

株主重視銘柄 小説
「ハンス・ギーベンラート」と「有望銘柄」
 人の期待はどこから来ているのか? 株式投資(トレード)をするようになってから考えることがあります。投資家やトレーダーはそれぞれの方法で、銘柄を選定して市場にエントリーしていきます。投資をした企業が飛躍的に成長することを期待しているはずです。

 企業は誰のものであるか? 欧米であれば当然「企業は株主のもの」と回答があるはずです。日本は「企業は社員のもの」という想いが強くあります。では、企業の業績が伸びて株価が上昇して欲しいと願っているのは、間違いなく株主であると断言できます。それが短期的であればあるほど、その傾向は強くなります。

 日本の上場企業株式の外国人保有割合は、平成の30年間で見ると6倍ほど拡大しています。外国人からすると「企業は株主のもの」という意識があるため、経営に口を出してきます。これも期待の表れあもしれませんが、とにかく黙っていません。決算情報の早期開示を求められ、四半期決算の位置付けも上がってきています。短期のスパンで、株価を上げるように株主は期待を込めて企業にあれこれと意見します。

 期待をされること自体は、社員のモチベーション向上にもなり良いことであると思いますが、過度になるといけません。締め付けがキツくなるにつれ、企業が持っている自由な発想や戦略が抑制されます。それが吉と出るか凶と出るかはわかりません。それでも、それまでに発展してきた原動力を失うこともあります。プレッシャーに打ち勝つことができずに衰退していく企業もあるのです。

『車輪の下』の主人公であるハンス・ギーベンラートは優秀な少年でした。彼は小説の中で期待や規制の中で、何を感じて何を思ったのか? 読んでいくうちにわからなくなっていくのです。

あらすじ
ひたむきな自然児であるだけに傷つきやすい少年ハンスは、周囲の人々の期待にこたえようとひたすら勉強にうちこみ、神学校の入学試験に通るが、そこでの生活は少年の心理を踏みにじる規則ずくめなものだった。少年らしい反抗に駆りたてられた彼は、学校を去って見習い工として出なおそうとする……。子どもの心と生活とを自らの文学のふるさととするヘッセの代表的自伝小説である。

引用元:(著)ヘルマン・ヘッセ (作品名)車輪の下 (新潮文庫)

興味深いところ
 私は小説を頻繁に読むようになってから、まず明治から昭和にかけての有名な日本の小説だけを読みました。しばらくすると日本文学の繊細な心情描写に辟易として、海外文学に興味が沸きました。ヘルマン・ヘッセは世界的にも有名で、おまけにノーベル文学賞を受賞しているのでハズレはないと買いました。

『車輪の下』にはほとんど前情報を持たずに読み始めました。ヘミングウェイのようにマッチョな精神を勝手に想像していたので、そのギャップに驚いたことを覚えています。まるで日本文学のような心の機微きびが、ゆらりと揺蕩たゆたっています。

 神学校に入ってから、ハンスはハイルナーという自由闊達かったつな少年と出会います。ハイルナーは学校の枠組みに収まらずに自身の信念を持った人柄です。対照的な二人の少年が描かれています。

 外国人株主が増えるにつれ、日本の企業にも株主重視の風潮が入ってきます。2000年代前半には村上ファンドの登場により「物言う株主」というワードも飛び交うようになりました。従業員のために会社を発展させることを考えていた日本企業に対して、コスト面や経営戦略の効率化を求めます。しだいに株式資本利益率を重視する「ROE経営」が新聞紙面での記事も投稿されるようになりました。いくら利益が高くても配当金のリターンが低ければ、株主はそっぽを向きます。さらに株主は自社株買いを促して、株主一人一人の持ち分割合を高めようとします。2010年代に入ると自社株買いをする企業が増えたのもそのためです。

 決算開示も昔は、単体が主要でした。しだいに子会社を含めた企業集団の業績がより重視され、連結決算情報の詳細開示が求められるようになりました。これも株主重視によるものです。

 ハンス・ギーベンラートはがんじがらめの期待と規制の中で、なんとかそれに応えようと苦悩するのです。

 山々の上にはリンドウ色に青い空があった。いく週間もまぶしく暑い日が続いた。ただときおり激しい短い雷雨が来るだけだった。川はたくさんの砂岩やモミの木かげや狭い谷のあいだ流れていたが、水があたたかくなっていたので、夕方おそくなっても水浴びができた。小さい町のまわりには、干草や二番刈りの草のにおいがただよっていた。細長い麦畑は黄色く金褐色になった。

引用元:(著)ヘルマン・ヘッセ (作品名)車輪の下 (新潮文庫)
 

 著者の小説には、ちょっとした風景も分厚く描かれています。この点においても日本人としては親しみが易いのではないでしょうか。読んでいると、ハンスの重い心理描写を爽やかな風景描写で緩和しているようにも思えます。バランスがある程度保たれていると、傾いて倒れることはありません。

 最近では「株主重視の経営」から株主だけではなく、従業員や、取引先、消費者、地域社会といった利害関係者を重視する「ステークホルダー経営」にシフトしている傾向にあります。どちらが良いのかという優劣は問題ではありませんが、多様な経営が認められることは健全です。

著者紹介
ヘッセ Hesse, Hermann
(1877-1962)ドイツの抒情詩人・小説家。南独カルプの牧師の家庭に生れ、神学校に進むが、「詩人になるか、でなければ、何にもなりたくない」と脱走、職を転々の後、書店員となり、1904年の『郷愁』の成功で作家生活に入る。両大戦時には、非戦論者として苦境に立ったが、スイス国籍を得、在住、人間の精神の幸福を問う作品を著し続けた。1946年ノーベル文学賞受賞。

引用元:新潮社

こんな人におすすめ
・中長期投資家
・短期投資家
・ビギナー

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