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赤目四十八瀧心中未遂 (著)車谷 長吉 「アヤちゃん」と「先行き不透明」

「読めば、投資の幅が拡がるかもしれない小説」
私が都合よく小説の内容を脳内変換して、株式投資(トレード)に関連する暗喩が含まれる作品を紹介していきます。

不安定相場 小説

 世の中、地政学リスクが多すぎてそれがいつなくなるのかわかりません。次から次へと世界経済にとって不安要素が出てきます。企業も同じで個々に抱える問題は、枚挙にいとまがなく潜在的には予断を許さない状況が続いているように思えます。

 2008年に米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻をきっかけに、世界的な恐慌に陥りました。国の経済政策により、堅調に株価が推移することもあります。そこから数年をかけて世界経済は回復を見せますが、その間もやはり不安要素は常に存在していました。

 時代は令和になり、日本経済はますます不安定な様相を呈しています。誰しも不安視していた高齢社会問題がいよいよ顕在化してきているからです。企業は雇用の安定を約束できず、副業の解禁を始めました。定年時期が今後伸びていくことも予想されます。地方は高齢者が多いため、衰退していく懸念が年々増してきています。

 2020年3月には、新型コロナウイルス感染症拡大による経済への大打撃により、一時的に株価は16,000円台まで下落しました。その後、日経平均はすぐに20,000円を超えるまで急速に回復しました。それでも私たちが懸念する経済的な問題は以前より大きくなって一人一人の胸の奥に棲みついています。

『赤目四十八瀧心中未遂』を読んでいると、序盤から心が落ち着かない足場の中にいる気がしてなりません。タイトルからすでに重たく、禍々しい運命の足音が聞こえてきそうです。

あらすじ
「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。

引用元:(著)車谷 長吉 (作品名)赤目四十八瀧心中未遂 (文春文庫)


興味深いところ
 この小説は直木賞を受賞して、2003年には映画化もしています。当時私はほとんど興味がなかったのか、記憶にありませんでした。興味を持つようになったのは、2011年に『苦役列車』で芥川賞を受賞した西村賢太氏の作品群を読み出してからです。西村賢太氏の作品を読んでいくうちに、色々レビューで『赤目四十八瀧心中未遂』の著者である車谷長吉氏の作品が比較されていました。  

 何度も目にするうちに読んでみたい欲求にかられて、ついに手にしました。数ページをめくるうちにその生々しい物語の中にハマっていきます。関西兵庫県の尼崎という地を舞台に物語が展開されます。関西人であれば尼崎という土地は有名で、少しディープで親しみがあるのではないでしょうか。

 こうした街並みには軽快で流行りではない、少し古い文体がとてもマッチしていて、肌でその雰囲気を味わうことができます。目に留まるワードも”ブリキの雨樋”や”牛や豚の臓物”、”安酒屋”といったもので、先進的なお洒落さはありません。

 これらのワードが世界観に深みとリアリティを与えています。

 頼りなく揺れる浮雲のように物語が進むにつれ、不吉を孕んだワードも出てきました。刺激的なワードが増えれば増えるほど、足場が崩れていくようです。そんな悪環境の中で、”私”は”アヤちゃん”という背中に刺青を背負った女性と出会い、駆け抜けていきます。”アヤちゃん”は不安定な世界の住人です。

 世界経済には不安要素が数え切れないほど隠れています。それが顕在化したときにはもう手遅れなのでしょう。予兆を感じた時点で、一旦保有銘柄は手仕舞いして静観することも一つの手です。ノーポジションで見ていると、そこがどれほど危ない場所であるか自覚できます。

 私は毎日、部屋に閉じ籠もり牛や豚の臓物を切り刻み、鳥の肉を腑分けして串刺しにした。はじめのうちは慣れないものだから、串を刺す力の加減が分からなくて、串の先でよく自分の指を突いた。すべての生物の屍体であり、手にねばり付く脂は血まみれの臭いをしていた。子供の時にならい憶えた歌が、時に口をついて出ることがあった。

引用元:(著)車谷 長吉 (作品名)赤目四十八瀧心中未遂 (文春文庫)


 主人公である”私”は客観的に状況を分析できる能力を持ち合わせています。併し稀にリスクや不安定な場所へ一歩引いた地点からゆっくりと足を踏み入れるということある、ということを気づかせてくれます。この物語の中には、通常では理解のできない論理がそこには確実に存在しているのです。

 投資家(トレーダー)には常に多くの選択肢が与えられているはずです。ずっと投資をし続けなければならないこともありません。目に見える急場でなくとも、良からぬ事象が増えてくれば、そこから離れることもできるはずです。

 併し強烈に心を揺さぶるような何かがあれば、冷静ながら不安定な相場に飛び込んでいくこともあるのでしょう。飛び込んだ後のことは、後で考えればいいや、そんな心境に誰しもがなる場合があるのです。

 そうした不安定な相場をいくつか積み重ねていくうちに、真の危機管理能力が身につくのかもしれません。併しそううまくいくのでしょうか。

著者紹介 車谷 長吉
昭和20(1945)年7月、兵庫県飾磨市(現・姫路市)に生れる。昭和43年春、慶応義塾大学独文科卒。広告代理店などに勤務しながら小説を書く。その後、東京を離れ、関西で下足番、料理人となって働く。平成4年に出版された初めての作品集「鹽壺の匙」(新潮社)で芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。平成10年、「赤目四十八滝心中未遂」で第119回直木賞を受賞。その他、小説集に「漂流物」「白痴群」(ともに新潮社)、「金輪際」(文芸春秋)、随筆集に「業柱抱き」(新潮社)がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

こんな人におすすめ
・冷静タイプ
・短期投資家
・直情型

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