のべるちゃん感想『うつつゆめうつつゆめ』

先週に引き続き、「Script少女 のべるちゃん」に投稿されたおすすめの作品の感想を書いていく。

本日紹介するのは、『うつつゆめうつつゆめ』という作品。

作者はななこ009さん。ご投稿ありがとうございました。

作品概要欄より引用

現実と夢を行ったり来たり。
思い出せないことがある。

設定がゆるふわ雰囲気ゲーです。
一応マルチエンディングで二つエンディングがあります。
少しショッキングな内容があるので苦手な方は注意してください。

ひそやかな会話劇

暗い部屋で寝ている少女と寄り添う少年会話劇
時計の針が動く音だけが響く中、二人だけの時間が流れてゆく。
この子供たちは誰で、どうしてこんな状況なのだろう?という疑問を抱きながら読むことになるだろう。
ごく短編で、15分から20分程度で読み終わる小さな作品だが、魅力にあふれた作品なのでここで紹介したい。

選択肢でラストが分岐

一本道の純然たる読み物ではなく、選択肢のあるタイプの作品だ。
主人公の少女が、男の子としゃべるか、もしくは眠るか、その選択肢がひたすらに続いてゆく。
選択肢によってラストが分岐する、オーソドックスなつくりだ。

徐々に真実が見えてくる

選択肢を選んでいるうちに、少年と少女の関係性や何があったのかが、ぼんやりとわかってくる。
何があったのか、ということよりも、その出来事に対する主人公の少女のどこかリアルな反応が、この作品に一段、深みを加えているな、と唸らされた。

雰囲気ノベルかくあるべし

ちょっとめんどくさそうな(失礼、でもそういうところがかわいくもある!)ゆるふわな女の子が男の子としゃべって、食べて、寝て、それを繰り返して、悲劇を乗り越えようと頑張ってみたりそうしなかったりする。

梗概を抽出すると至ってフラットで、みどころのない作品に見える。が、そんな作品ならここで紹介しはしない。

でも、いざプレイすると「この作品、いい……」となる。端的に言って魔法がかかっているのだ。

つかみどころのないふわふわしたテキストが読者の現実感を奪い、暗い部屋でひたすらに繰り返されるひそやかな会話が、心のやわらかい部分をくすぐる
時計の針が進む音とちょっとした環境音のみで進行していることに気づき、「静かな作品だな、心地よいな」と思う頃には、この作品の魅力に引き込まれていることだろう。


そして物語も進み、「ここだ」というタイミングで入るピアノの音が、心をグラグラと揺さぶる
他の作品でも死ぬほど聴いたBGMが、この作品のための書き下ろしであるかのように感じられる。そう感じさせるだけの力のある作品だということだ。

雰囲気ゲーというのはやもすると陳腐な作品を付す表現として使われがちだが、この作品は「ここまでやって初めて雰囲気ゲーだ」ということを、その身をもって教えてくれる。
自分で作品を発表する立場にあるクリエイターにとっても、極めて優れたお手本のひとつとして学べる部分は多いはずだ。

番外編:短く書くこと

少し話は飛ぶが、少し関係のある話なので話したいと思う。

時間のない方は次の見出しまで読み飛ばしていただいて構わない。それからこれは読み物の話に特化した話なのでSLGや探索ゲーに特化している作品をつくる作り手には直接の参考にならないかもしれない、あしからず)

さて、何か書きたい物語、設定、キャラクター、etc…そういうものがあって物語を書き始めるとき、物語は往々にして長くなりがちだ。
(夢が詰まっているので仕方ないんじゃない?という意見には、ぼくもまったく同意なのだが……それはそれとして)
しかし、そこをどうにか頑張って短くすることに成功すれば、相応のリターンを得ることができる。

物語の長さが短くなると、まず、書くのが楽になる。十万文字より五千字の方が書くのは楽だ。
少なくともぼくのような凡夫にとって、書きたいシーンひとつのために別に書きたくないシーンを10、20と積み重ねる作業は、はっきり言ってつらい。書くのを中断してNETFLIXで海外ドラマの続きを観始めるには十分すぎる動機ではある。

そしてもう一つ、短い物語は読者にもやさしい。あなたが考えた最高のラストへの道のりは、短ければ短いほどみんながたどり着けるし、長ければ長いほど、みんな脱落する
長文を読むのを得意としていない層というのは確かに存在するし、連載であれば、連載期間が長くなればなるほど「脱落する危険のあるタイミング」も長くなる。

つまり、作品のエッセンスを抽出して、「自分が書きたいものは何か」を明確にし、集中することで書き手と読み手両方にメリットがあるのだ。

昔、いろいろやっていた時、「具体的にどうしたら短くできるのか?」と質問されたことがあったので、その時のぼくの回答をコピペしてくると、こうだ。

> あなたが考えている壮大な作品を連載漫画のコミックスか、テレビアニメだと思ってください。1クールでも2クールでも、もしかしたら4クールかもしれない。自由でいいです。
> これから考えるのは、その劇場版だと思ってみたらどうでしょう?

劇場版アニメはたいてい、作品のエッセンスを抽出し、時には原作ファンを激怒させるような大胆なカットを行い、時間いっぱいに納め……なんとか見栄えのするものを作っている。
そういうことをやってみたらいいんじゃないか、と、確かそういうことを考えて書いたのだと記憶している。

まとめ

さて、なぜこんな話を始めたのかというと、この作品が「短く書く」とても上手くやっているからに他ならない。
本作が選択肢ゲーだという説明は先ほどしたが、選択肢の量が倍以上あったら、多分ぼくはうんざりしていただろう。
少女と少年の会話はその気になればいくらでも書くことができただろうし、バックグラウンドの設定だってもっと作り込んでもっと描写することはできたはずだ。
しかし、この作品では敢えてそれをせず、雰囲気の追求と読後感を重視する方向に舵を切っている。
この判断と作り込みのセンスは称えられるべきものだと感じたので、ここで熱く語らせて頂いた。

外界と切り離された部屋で繰り広げられる、自分の内面に強くフォーカスした会話劇。
いろいろと騒がしい昨今だからこそ、この静かな物語が胸に染みた部分は少なからずあるだろう。

この記事をお読みいただいた皆様にも、ぜひお読み頂きたい作品である。

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