見出し画像

のべるちゃん作品感想『きにしない』

前回の記事に引き続き、今回より本格的に感想を書いていく。

今回紹介するお話は『きにしない』。

作者は清泪(せいな)さん。ご投稿ありがとうございました。

ウェブサイトからもそのまま読めるが、可能であればアプリから読んで頂いた方が体験の質は高いが、この作品の場合は帯域制限でもされていなければ、おおむね満足のいくレスポンスでプレイできるだろう。

あらすじ(作品概要欄より)

そんじょそこらのロックンロール

神様どうぞファッキンブルース

メタルでヘヴィな人生パンク

届かないほどラブソング
“俺”と“彼”と“彼女”と“少女”のドライブ
屈折だらけのハーモニー

*2010年頃にある小説サイトに投稿したのを、
のべるちゃん仕様にしてみました。
ワンシチュエーションをテーマに書いた短編集からの一作です。

きにしないまま終わる、あとがき。
きにしないことから始まる、きょうのできごと。

タイトルがよい

誤字でも脱字でもなく、『きにしない』がタイトルである。とてもキャッチーなタイトルだ。内容ともぴったり合っていて、こういったタイトルを「おしゃれなタイトル」と呼ぶのであろうと思う。

主人公であるロックンローラーが友人であるアフロとギャルと、そして二人が「降ってきたから」「キャッチしちゃった」というワンピース姿の少女と共にあてどもないドライブをする短編。

ラブでアフロでロックロールでアイドンケアな短編ノベル

ごく短編で、読むのが早い人なら15分程度で読んでしまうと思う。
特に分岐があるわけではなく、ただ読み進める形式の読み物ノベル。

演出は華美ではないが凝っており、車の車内の素材と風景素材を組み合わせてドライブ中の一人称視点が品よく表現されている。
全編通して立ち絵を使わず、モノローグと台詞だけで進行する。

イラストがないせいか実写映画的な雰囲気が漂っており、物語全体のちょっと大人っぽい雰囲気と相まって、作品の空気が緻密に作り上げられていると感じた。

登場人物たちはみんな何かキメてるんじゃないかというくらい変なテンションで、なんだかこっちまでハイになってくる。勢いで生きている登場人物たちがとても愛おしい。

〆るところはきっちり〆る

空から落ちてきた少女の目的はやがて明らかになる。そのおかげでこの作品がただの軽妙な会話ゲーではないことに本格的に気付かされる。

そしてその目的に対して、主人公のロックンローラーが常識人らしき発言をするシーンでも彼はよく考えるとちょっと変なことを言っていて、この浮き足立った感じが「友達とのドライブ」感を感じさせてくれて、「あっ、好きだ」と思えた。その機微がとてもリアルなのだ。

登場人物の態度こそ始終おちゃらけているが、テーマへのアプローチはとても真剣。そして現実的。

ファンタジー的な要素は一切なく、起きる出来事は徹頭徹尾、現実的。
どんなにおちゃらけてもどんなにロックンロールしても、現実は変わらない。でも——……という願いのようなものが胸に大きな余韻を残してくれる。

夏か夏前に読みたいな

夏前の時期にこの作品を読めて良かった。実は2018年公開の作品なのだが、全く古さを感じない。ぜひ一人でも多くの方に読んで頂きたい作品だった。

次回もこのような感じで作品を紹介していこうと思う。
お楽しみに!



PS.余談だが、作品中で執拗に挿入されるアフロの大きさの描写がとても良かった。ご注目あれ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?