僕と命のロウソク
エピローグ
今日も晶君は、お見舞いに来てくれた。
「はい、これ」
カバンから用紙の束を取り出し、私に手渡す。
私が授業に遅れないように、ノートをコピーして持ってくるのが日課になっていた。
彼は、はにかみながら、いつも優しく私のことを見守ってくれている。
小学生の時、医療ミスがあって死にかけたときも私を助けてくれた。
今回も彼に助けられた。
私が医師から死亡宣告された時、『まだ死んでいない!』と最後まで諦めなかったのは、身内ではなく彼だった。
その時の様子をお母さんが話してくれた。
『晶君が大声で叫ぶと、彼はゆかりの頭付近に右手をやり、左手ですばやく何かを交換するようなしぐさをした』と、言っていた。その後、半日も意識を失っていたということだった。
お母さんの話ですべて理解した。
自分のロウソクと、消え去ろうとしている私のロウソクを交換したのだ。多分、一か八かの賭けだったと思う。私だけでなく自分も死んじゃう可能性だってあったはず。それでも、彼は自分の命をかけて私を救ってくれた。そして、彼がもう以前の能力を持っていないことも知っている……。
なのに彼は、何も言わなかった。
ただ、私が目を覚ますと、
「よかった……助かってくれて、ホントによかったよ……」
涙ながらにそう言っただけだった。
今日、学校であった出来事を楽しそうに話す晶君の頭の上に、私の視線が自然と向かう。
くの字に曲がった短いロウソクが乗っているのが見えた。他の人に比べてかなり短い。短いことがどんな意味なのかもわかっている。
彼の折れたロウソクと、私が引き継いだ彼の能力。これで明白だった。
私は、心の中で
(晶君、助けてくれてありがとう……)
と、言った。
ジッと見つめる私を変に思ったのか、
「何? ゆかりちゃん、どうかした?」
晶君が、キョトンとした表情を見せた。
「なんでもなーい」
私は、笑ってごまかした。
そして、もう一度、
「晶君、助けてくれてありがとう」
と、今度は声に出して言った。
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