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推薦状と経歴紹介の考えなければいけないいくつかのポイント

私が子供の頃、映画で部下に「転職するなら推薦状を書くよ。」という上司がでてきました。母は、「アメリカでは、日本と違って推薦状を持っていくと簡単に転職できるのよ。」と言っていました。

私がアメリカの大学院に願書を出した約四半世紀前にも、どこの大学も推薦状を数通提出する必要がありました。ビジネス系の大学院の願書を提出するためには、大学の先生だけではなく、職場からの推薦状も必要だったのですが、終身雇用が普通だったその頃の日本では、留学のために従業員が辞職することを恐れてか職場からの推薦状をもらえないで困っている友人もいました。

最近、アメリカの高校の最終学年(シニア)の息子が大学への願書を提出する際、「推薦状不要」という大学が多いことに気がつきました。推薦状を必要としている大学でも、1通だけというところがかなりあるようです。推薦状をお願いしても、「自分で書いてくればサインだけするよ」という方が多いので、大学の方でもあまり推薦状に意味がない、と思い始めたのかもしれません。

職場の推薦状や経歴照会に至っては、「協力しない」というポリシーがある会社が少なくありません。というのも、転職時に、元の社員の応募先の会社から経歴照会があった場合に、元の雇用主が提供したマイナス要因の情報のため、元の社員が新しい仕事を見つけられなかった、つまり、再雇用を邪魔された、として訴訟になったケースが何件もあったからです。

例えば、1985年にヒューストンの保険代理店は、解雇したセールスマンに「前の上司の中傷によって就職を妨害された」として訴訟をおこされました。前の上司が元従業員の経歴を照会された際に「協調性がない」とか、「ビジネスマンとして失格」とか言ったからでした。裁判所は元従業員の主張を認め、前の雇用者である保険代理店に190万ドルの賠償金の支払い命令を出しました。(参考文献:「米国での人事管理100のキーポイント」酒井真弓著、JETRO、P93-94)

では、今まで会社に貢献してくれたパフォーマンスが優れた従業員に対して、良いコメントなら書いても良いのでしょうか? 推薦状を発行したり、経歴照会に応じても良いのでしょうか?

結論から申し上げると、これも控えた方が無難です。なぜなら、今までのパフォーマンスが悪くて、新しい職場に対しての推薦状の発行や経歴照会に応じることを拒否された元従業員が、
「元の職場は、私の経歴照会に応じないことで、間接的に私のパフォーマンスが『悪い』というメッセージを送り、仕事を探すのを邪魔された」
と訴訟を起こしてくる可能性があるからです。

では、仕事中に元従業員が応募している会社から経歴紹介が来たらどうすればよろしいでしょうか?
絶対コメントをださず、人事部に電話を転送し、対応をお願いしましょう。

会社としては、以下のことを徹底させましょう。
*  どの人に対しても推薦状は書かない、経歴照会にも応じない、というポリシーを作りましょう。従業員にもこの旨伝えておきましょう。
*  辞めた従業員の新たな雇用主から問い合わせがきたら、人事部に対応をお願いしましょう。人事部は、「在籍期間と給料」のみ返答し、その他は「会社のポリシーでノーコメント」といいましょう。
*  もちろん、前従業員が信用調査をしても良い、という文書にサインをしている場合のみ問い合わせに応じ、文書を確認するまでは一切ノーコメントで通しましょう。
*  新たに社員を雇う場合には、前職場に対しての経歴照会は役に立たなくても、公的機関での犯罪歴の照会は違法ではありません。調査会社を使用して犯罪歴の調査もしましょう。もちろん、本人に同意書にサインをさせた上でではありますが。
*  推薦状や経歴照会が大して役に立っていない現在、人材を採用する場合には、やはり面接でその人材がこれから自分の会社に貢献してくれる人であるか、職場環境に合った人物か、などを見分けましょう。

なお、犯罪歴は、連邦公正信用報告法(The Fair Credit Reporting Act (FCRA))
の規定で過去7年間しかさかのぼることはできません。要するに、7年以上前に犯した犯罪については、信用調査会社を通した調査でも調べることは不可能です。人材を採用する際には、とにかく自分の目でその人の人格や可能性を見極めましょう。

The Stellar Journal 2017年10月掲載 https://www.stellarrisk.com/ja/recommendationletter/?fbclid=IwY2xjawFVODZleHRuA2FlbQIxMAABHTa6SNKYSUqpXG71QgBzxDItcqeEnb7xVCvG71dApEcf584yOP-DkzuOGA_aem_1zSgI5yYwjXQb1DEsH2xLA

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