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思考の海を泳ぐ 「救い」を与えない創作

みなさんを創作沼に引きずり込むべく、すでに創作を楽しんでいる、いわば楽園の住人たちにインタビューをするこの企画「エデンの住人たち」。
インタビューは創作初心者のマシュマロ見習いが行っています。

「エデンの住人たち」第8回は世迷いさん(@dengurikorokoro)にお話を伺いました。

「エデンの住人たち」を最初から読みたい方は以下の記事からどうぞ!

基本情報

アカウント:でんぐり返し@事務連絡(@dengurikorokoro)
執筆ツール:縦式
同人誌制作:pixivファクトリーのオンデマンド印刷(デフォルトプラン)

創作のきっかけ 

ーーまずは創作のきっかけを教えていただけますか?(マシュマロ見習い)

世迷いさん(以下敬称略):「わたしの好きなものが読みたい」と思ったから、でしょうか。わたしの場合は、BLが好き、特にヤンデレ攻め×平凡受けのCPが好きでした。他の方の作品はどれも素晴らしく、読者として長年楽しませて頂きました。

しかし、読むうちに段々と「もっとこんな子だったら」とか、「わたしはここでこう思う子が好きだな」とか考えるようになりました。勿論、自分の好みに合うような作品を書いてくださる方はたくさんいらっしゃいました。一方で、好みピッタリな作品を探すことは難しかったです。それは、書いているのがわたし自身じゃないから当然のことだ、という考えに行きつきました。

わたしの好みにピッタリの話(わたしの場合は特に好きなCP傾向のBL)を読むためにわたしができることは3つ。

1つ目は、ピッタリの作品を書く人を探すこと。しかしこれは先に述べたように中々に難しい。
2つ目は、わたしが編集者になること。これは、わたしが企画し、どなたかに執筆をご依頼するようなイメージです。実際、わたしは編集者や出版業界の就職を考えていたことがあります。残念ながらお断りされてしまいましたが…。今思えばわたしには編集者への理解や適性も足りていなかったのだと思います。

最後の3つ目、自分で書くこと。自分の好みは自分が分かっています。「もっとこんな子」として書き出す、「ここでこう思わせる」展開で書き出す。自分で書けば、当たり前ですが、全て思うがままです。

わたしはそこで、3つ目の自分で書くことを選択しました。それが、創作を始めるに至った経緯です。勿論、メリット・デメリットはあります。メリットは前述の通りですが、デメリットは「展開がわかる」ことですかね?

自分で書いているため、他の方の作品を読んだ時と"同等"の予想外さ、驚き、は得ることができませんそれでもわたしは「わたしの好きなものが読みたい」、言い換えますと「わたしの見たい世界が見たい」から、創作という空間を利用しています。

ーー 様々な方法を探るほど小説を楽しみたいという思いが強く、それ以上にご自身の趣味に忠実なのですね!
そういったところは作品にも表れているのでしょうか。

世迷い:わたし自身は、自分の作風は「鬱」だと思ってました。というのも、わたし自身が病んでる子が好きなので。

作風は「鬱」……!?

所謂ヤンデレ、メンヘラ、サイコ、とか。日常にある境界を描くのが好きで、境界が生まれやすいそういった子たちと平凡な子の組み合わせが好きです。だから、作風も自ずと少し社会的な作風になっているかもしれません。

ただ勘違いされたくないのですが、高尚な思想とか全くないです。ただBLが好きなだけなので。もっというと、「あんまり素直じゃない」作風って感じですかね?
答えになってないかな…。

周囲からは…どう思われてるんですかね!? 気になります。一番良く皆さんに読んで頂いてるお話がヤンデレ攻めのBLなので、もしかしたらヤンデレ攻めの人って思われてるかもしれません。でも、暗い鬱々とした作風というより、明るかったはずなのに気が付いたらお先真っ暗みたいな作風と思われてそうだなと勝手に思ってますが、どうなんだろう……聞いてみたいですね、皆さんに…。笑

ーー確かに見習いもそのイメージがあります。笑
世迷いさんはきっかけの段階からご自身のイメージするものがはっきりしている印象ですが、創作をする上で「ここは譲れない!」というのはありますか?

世迷い:結局のところ、わたしはただのBL好きの人間でして…。譲れない!と言えば、主人公が平凡なことですかね!

譲れないことは自分の書きたいものを書くこと

あとBL以外は書かないです。異性愛を書いてください、という方はいないと思いますが、書いてくださいと言われても絶対書かないです(今のところは)。女の子同士のお話は書いてみたいなぁと思いますが。

主人公が平凡なことが譲れないのは、単にわたしが普通の子が好きというのもありますが、その方が楽しいかなぁ、と。書いてて、わたしが。

わたしはよく主人公のお相手を極端な子に設定するのが好きです。普通の子と、普通じゃない子の組み合わせですね。そうすると必ず思考がぶつかり合います。お互いに、どうして君はそんなことするの!? 理解できない!みたいなことが生じやすい。

わたし自身は別に主人公の気持ちになって書いてるというより、もうちょっと俯瞰して書いているので、戸惑う主人公が可愛いなぁと思って。というか、戸惑ってる人間を見るのが好きです。そもそもわたしは自分が見たい、読みたいものを書く人なので。

ここまで書いてて思いましたが、譲れないことは平たくいうと「わたしが書きたいもの以外書きません」というとんでもない回答でしたね。笑

だからわたしが好きなタイプの主人公、平凡な子が受けの話を永遠に今後も書き続けることでしょう。好きなものを好きだー!と主張し続けたいので、そこは譲れません。笑

ーーなるほど、異なる属性の2人の思考のぶつかり合いですか……。確かに他人同士がぶつかって分かり合っていく過程は読者にとっても大きなお楽しみポイントのひとつですね……!
世迷いさんが異性愛よりも同性愛を描きたいと思うのはなぜですか?

世迷い:同性愛の中でも男の子同士が好きなのですが、好きなものと好きなものを合わせたら大好きになる!みたいな、そんな感じですかね…?

ここで言う「男の子」はセックスの意味でもジェンダーの意味でも、あらゆる意味を含むと思います。ただし、肉体的な意味よりは概念に近いかも。女の子っぽい、とか、男の子っぽい、とか、そう言う時の文脈で使用される方の「男の子」ですね。

同性愛は現状では性的マイノリティとされていますし、わたしが言った「男の子」(女の子)はセクシュアルなハラスメントの問題へと繋がったりします。わたしはあくまでマイノリティが故のカタルシスを感じているから、とか、ジェンダーロールの再生産を目的としているとか、そうでないことは断っておきます。

ーー男の子(女の子)の「らしさ」による魅力が好きで、集まれば集まるほど素敵!ということでしょうか。
確かに好きなものと好きなものが合わされば最強になりますもんね……。ほかほかご飯と卵焼き的な……。

ーー世迷いさんは普段どのようにして創作されているのですか?

世迷いさんの小説の書き方

世迷い:雑な例えで「千本ノック」とか「数打ちゃ当たる」とか言っていますが、そんな過程です

わたしはプロットを書くのが大の苦手です。そのため、殆ど下書きなく話を始めます。オチは書いてるうちについてくるだろう、くらいに思っています。

そもそもわたしはアマチュアとして創作(わたしの場合は小説)をしておりますので、出版物や商業物などの金銭的価値のあるものと同様のクオリティでなければならないと考えていません。

あくまで「わたしが楽しく書く」ことを最優先にしています。そのため、ちょっと整合性が合わなくても気にしません。論理的か否かで言えばおそらく否だと思います。

「こんな子の話が読みたいかも」とか「世の中ってこうだけど、こうしたほうが良くない?」とか「わたしはこういうの好きじゃないから、よし、わざと書いてみよう!」とか、そんな風に思いついたときに、書き出します。あとは、流れに身を任せる感じ…でしょうか。

そのため、オチが生まれない、なんかうまくいかなかった、やる気無くした、なんてことは山ほどあります。書き途中になった作品はたぶん本当に千本くらいあると思います。それこそ5万字(※)程度のお蔵入りとかもあります。

以前、同じような質問にお答えした際に読者の方から「狭き門を潜り抜けて作品が生まれているんですね」とコメント頂いたことがありますが、まさしくそんな感じです。大量の尸(しかばね)を越えて、一個生き残る子がいる感じですかね。壮大すぎますね。でも、わたし自身はそんな気持ちです。生まれてきてくれてありがとう!くらいの気持ちで、完成させてます

そういう意味では、わたしも最後まで書かないと(というより想像、妄想しないと?)、どんなストーリーになるのかわからないため、こんなオチになったな…!?という驚きもあります。初めのご質問で、創作者側の作品に対するデメリットとして驚きがないことを挙げましたが、創作過程という意味では作者本人にも驚きはありますから、あまりデメリットにはならないかもしれませんね。笑

※わたしの作品は大抵、1作品3万字程度を目安に書いていますので、短編1作品書き切ってもお蔵入りになるという意味です。

ーー1作品書き切ってもお蔵入り……!!
ご自身の書きたいものがはっきりしているからこそできる英断ですね……! 作品のネタはどこから思いつくことが多いのですか?

世迷い:最もわかりやすい例で言えば、映画でしょうか。わたしは映画が好きなので、なんだか発想が貧困だなあと感じた時に、映画を見ます。魅力的な登場人物がいれば、そこから着想を得たりします。ストーリーを通して自分が感じたことをネタに昇華したりすることも、多いかもしれません。

その他には、漫画アニメ小説なんでもありですね。誰かのお話を聞いて思いつく時もあります。正直、ぼーっと人の往来を眺めてても思い浮かぶときは思い浮かびます。最悪、そこに人間がいればネタは思い付くかも…。答えになってますかね……?

ーー目に映るもの触れるもの全てがネタになりうるのですね……! では、どういうものだと創作意欲が湧きますか?

世迷い:スプラッタやグロが好きなので、そういうものを見ると…ですかね? 映画やゲームや漫画もそういうのが好きですし、見たあとは何か書きたいなぁと思いやすいですね。たぶんあまりにも綺麗なものを見ると浄化されてしまって、エネルギーにならないと言うか。理不尽な何かに触れた時の方が、意欲が高まりやすいです。

ーーそういった作品を吸収してご自身に生まれた歪みをバネに創作されているのですね。

ーー普段プロットは組まないとのことですが、その場合どのように話を展開させていくのでしょうか?

話の展開はマインドマップで

世迷い:今まで創作過程を言語化したことがなかったので相当悩んだのですが…展開方法をイメージ化すると、次の通りになると思います。

プロットが起承転結の4点を置き、間を埋める作業であると仮定します。それに対し、わたしはマインドマップ形式です。

セントラルイメージとして置くものは、主題であったり、CPになります。あとはひたすら関連付けです。マインドマップの作成は全て脳内で行います。且つ、単語ではなくこの時点で文章で行います。

全体のマップがストーリー枝がセンテンス(主に接続詞的な意味を持つ文章)、枝の先が各シーンと思ってください。マインドマップとは言いましたが、最終的に作られる形はロジカルツリーに近いです。

つまり、マインドマップが多方向に枝分かれするのに対し、わたしの創作マップは枝分かれしません。結果的に一本の線になります。しかし敢えてロジカルツリーと言わないのは、正確さを考慮していないからです。あくまで整合性は気にせず、思うがままに枝を伸ばし続ける感じです。

実際のわたしの動きを描写すると、ワードアプリ起動→思いついたまま冒頭一文を書く→流れに沿って次の文を書く→繰り返し。

枝の伸ばし方は、思考実験と想定問答です。
そもそも枝を伸ばすためにはひたすらシーンとシーンを関連付けする作業となるため、連想ゲーム状態です。連続するために、用意したキャラがこのシーンでどういった動きをするかを試行し、次のシーンへと導きます。

想定問答は会話のシーンのことです。その子の持つ性格、あの子の持つ性格、2人が会話したらどうなるか、を考えます。

この時、性格は枝を伸ばす過程で自ずと確立します。人のパーソナリティが遺伝的要因と環境要因の相互作用によって形成されるとします。物語の中で登場人物の遺伝的要因は作者が登場人物に与えたキャラ付け、つまり当初の設定のこととして今回は理解します。環境要因は作者が用意したストーリー、シーンです。これらが絡み合うことで、ストーリーと共に登場人物は「性格」を獲得します。

性格を獲得した登場人物が生まれると、あとはシステムみたいなものです。入力と出力を繰り返します。プログラムが登場人物です。シーンを登場人物に入力、プログラム(性格)に則り出力。ここまでくれば、勝手に彼らはシステマティックに動きます。あたかも人間みたいに。

しかも、マインドマップ形式で関連付けしてるわけなので、更に自動化されます。それで、いつの間にか完成します。…などと無理やり言語化しましたが、ものすごくわかりにくいですね? すいません…。2時間ほど考えましたが、更にややこしくしました…本当にすいません。

言語化すると割と壮大になりました?が、やってることはつまり妄想です。皆さんも妄想すると思いますけど、それをただ言語化してるだけだよってことになります。妄想って言語化するの難しいですね…。

ーーどういう場合に作品は「生き残れなく」なってしまうのですか?

マインドマップをコントロールすることはできるのか

世迷い:生き残れなかった子は単純に殆どが書き途中になってしまったものです。生死を分けた理由、すなわち書き途中になってしまった理由とも言えますね。

一番よくあるケースが、書くのを途中でやめたから、です。やめる理由の大半が、時間切れです。わたしの場合、継続して書けることが少ないため、一気に仕上げます。マグロみたいなもので、止まると死んじゃう感じですかね。

手を止めてしまう理由は、日常生活を送ってるので、用事があって出かけるとか、仕事に行くとか、そんな理由です。そのため、ネタがパッと思い浮かんで、しかもまとまった時間が取れた時は、生き残りやすいです。

それでも生き残れないことはありますが、その理由は、わたしがプロットを書かないことが影響しているかもしれません。イッパツ書きタイプなので、書いていて「なんか違うなあ…」と思ったら手が止まってしまいます。結果的にゴールやオチへと行き着く書き方で最初からゴールを決めていない分、迷子になることが多いのかもしれません。そのまま迷宮入り!

ーーやはりマインドマップ形式では話の展開をコントロールすることが難しくなるのでしょうか?

世迷い:確かにコントロールはしづらいです。とは言え、わたしの場合はコントロールせずに流されるまま書いていますね。勿論、流されるまま書いて、途中から「うーん、微妙」となることも多々あります。その場合は書くのをやめちゃいます。もしくは、此処までは満足がいく、というところまで遡って再度やり直しをします。

マインドマップ形式はコントロールこそ難しいですが、分岐点はたくさんあります。その分岐点のうち、その時たまたま手が動いた方向へと突き進んでいっただけなので、その雲行きが怪しければ、また戻って別の道に身を任せる感じです。それがダメならまた他の道に行きます。

プロットが無い分、非常に非効率かも知れません。だから本当に千本ノック状態ですね。納得いくまで何度も戻って書き直します。何回書き直してもゴールに辿り着けなければ、何日、何時間、何万字書いたものでも未完結のお蔵入りですね。

あと、コントロールがそもそもできない…と思います。というより、ある意味でコントロールしてるのかも知れません。わたしにとっての心地の良い展開の方向へ行くように、という意味では。なんというか、意識してコントロールしたことはない…と思います。

なにぶん、普段本当に全く何も考えずに書いてるので、改めて聞かれると難しいですね。笑
下書きも何もなく、ワードアプリを起動したらすぐに一文目を書き始めてそのまま完成、ってパターンが大半なので…意識的に行ってることが殆ど何もないです。もう少し自分の行動を観察すれば言語化できるかも知れませんが、逆を言うと言語化できないぐらい、普段お話を書くときに何も意識していないようです。参考にならず申し訳ないです。

魅力的な世界観とキャラクターの秘密

ーー世迷いさんの作品の大きな魅力として「キャラクター」や「世界観」が挙げられると思いますが、何か工夫していることはありますか?

世迷い:言葉使い、とかですかね。キャラクター性を出すための話し方、例えば「〜だぜ!」など、ああいう話し方や語尾は現実世界で使ってる方は少ないんじゃないかと思います。勿論、全く使わないという意味ではなくて、文脈が限られるという意味。

わたしはできる限り現実に寄る話し方にしたいなと思っています。ただし、作風に寄りますが。ギャグパートならあからさまにコミカルな口調にしますし。使い分けですね。

ただ、キャラクターが普通に生活してて、生きてますよと伝えるために、出来る限り現実世界の話し方をさせるようにしています。魅力的…に繋がっているかはわかりませんが、その方が、生きてる感じがすると思うので。

世界観については上と同じ回答になりますね。読んでいて、これは小説だからこんな子はいない、と思われるより、これは小説だけどこの子はもしかしたらどこかで生きてるのかな、と思って欲しいので、そうなってもらえるよう意識して書いています。

だから、超能力モノとかファンタジーが苦手なのかもしれません…読み手としては好きなのですが書くのが不得意です…。その代わり、離人症的な描写や、錯乱、幻覚、バッドトリップ的な話は割と好きなので書きますね。それはファンタジーに比べれば現実の延長線上にあるものだからだと思います。そもそも実際にそう言ったことは、身体や認知において生じるので、当事者の見聞きしたものこそニセモノでも、体験はリアルにあるものですから、ファンタジーとは違いますね。

ーー世迷いさんは苦手なことや未熟に感じていることはありますか?

未熟な点は世界への解像度

世迷い:未熟だと思う点は、断然…

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