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[連載書評/絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本] 穂村弘:内田善美著/集英社『星の時計のLiddel(1〜3)』・山尾悠子:アレクサンドル・グリーン『輝く世界』

☆mediopos2964  2022.12.29

昨日(28日)が仕事納めだったので
一週間にも足りないものの
年末年始に休暇があることもあり
比較的若い頃読んだ本を
読み返してみようかなどと
少しばかりぼんやり考えていて

雑誌の『スピン/spin』の
[連載書評/絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本]
に載っていた穂村弘と山尾悠子の記事を思い出した

穂村弘はぼくよりも5年ほど年下
山尾悠子はぼくよりも2年ほど年上だけれど
「手に入りにくいけどすごい本] の連載を読むと
ほぼ同世代での読書経験があるようで共感もひとしお

「すべての読書体験の中で、
もっとも大きな影響を受けたもの」
とまではいわないとしても
穂村弘と同じく
1970年代から80年代にかけて
「24年組と呼ばれた一群の女性漫画家及び
その流れを汲んだ人々が生みだした作品群」は
たしかに素晴らしいものが多く
いまだに手放せないままに時折読み返すことも多い

たしかにそれらの作品の多くは今は書店には並んでおらず
「手に入りにくい」どころか絶版のものがほとんどのようだ
絶版で再版の予定もないのが
ここで紹介されている内田善美の作品群だ

21世紀の漫画たちもそれはそれなりに素晴らしいが
やはりあの時代に生みだされた作品は掛け替えのないものだ
おそらく若い世代にとってそれらの存在は
ほとんど知られることがなくなっているのだろう

「それにしても、同時期にあれだけの才能が
一気に出現したのはどうしてだろう」と思わざるをえない

さて山尾悠子の作品はその初期からずっと愛読していて
ご本人が再版を固辞していた『仮面物語』(1980)も
復刊される予定とのことで今後の活躍も含めうれしい限り

さて紹介されている
アレクサンドル・グリーン『輝く世界』や
レオノーラ・キャリントン『耳らっぱ』は
月刊ペン社・妖精文庫シリーズのなかのもの
当時このシリーズには面白いものがたくさんあった
レオノーラ・キャリントンの名前も
また装幀のまりの・るうにいの名前も懐かしい

年末年始はひさしぶりに
懐かしいもの尽くしで過ごしてみるのもいいかもしれない
それなりに年を重ねてこなければ味わえない体験として・・・

■穂村弘
 内田善美著/集英社『星の時計のLiddel(1〜3)』
 [連載書評/絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本]
 (『スピン/spin 第2号 』河出書房新社 2022/12 所収)
■山尾悠子
 アレクサンドル・グリーン(沼野充義訳)『輝く世界』(月刊ペン社)
 [連載書評/絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本]
 (『スピン/spin 第1号 』河出書房新社 2022/12 所収)
■山尾悠子『仮面物語』(徳間書店 1980.2)

(穂村弘)

「すべての読書体験の中で、もっとも大きな影響を受けたものはなんだろう。幾つかの候補が思いうかぶけれど、一つに絞るなら、それは嘗て24年組と呼ばれた一群の女性漫画家及びその流れを汲んだ人々が生みだした作品群だと思う。時代的には1970年代から80年代にかけて、ということになるだろう。

 萩尾望都、山岸凉子、大島弓子、倉田江美、佐藤史生、内田善美、岩館真理子、森脇真末味、高野文子、佐々木倫子と名前を上げてゆくだけでどきどきしてくる。信じられないような傑作を見せてくれた彼女たちは、私にとって永遠の憧れだ。

「この世界は自分にはとても無理。でも、大島弓子がいるから生きられる」と思春期の自分は本気で考えていた。同級生が好きな漫画は『あしたのジョー』や『巨人の星』、つまりはそれらの原作者である梶原一騎の世界だった。いずれも漫画史に残る傑作で、私も熱心に読んでいた。だが、その作品世界に浸れば浸るほど、自分は主人公の矢吹丈や星飛雄馬のようには到底なれそうもない、と気づかされてしまう。(・・・)

 そんな時に、大島弓子や萩尾望都の作品に出会って、「こんな世界があるんだ」と目を開かれた。栄光の「あした」の「星」を目指すバトルとは違う、かといって従来的な少女漫画の恋愛至上主義でもない、未知の自由さをそこに感じたのだ。彼女たちの作品には、この世界のフレームを組み替えて、新しい生き方を可視化させる力があった。未知の「あした」や「星」の存在を教えてくれたのだ。既存の価値観を支える散文言語を超えた、その詩的な表現の翼に痺れた。物語が始まる直前の空気感に、もうやられてしまうのだ。それにしても、同時期にあれだけの才能が一気に出現したのはどうしてだろう。」

「あれから半世紀近くの時が流れた。書店の棚を眺めると不安になる。当然ながら、そこには21世紀の漫画が並んでいる。愛読する作品も多い。でも、私の目はどうしても彼女たちの名前を追ってしまう。24年組の中心である萩尾望都、山岸凉子、大島弓子の本はたぶん見つけられる。それから世界というか活動期が少しズレる高野文子や佐々木倫子もなんとか。だが、倉田江美、佐藤史生、内田善美、岩館真理子、森脇真末味などはどうだろう。『エスの解放』(倉田江美)、『ワン・ゼロ』(佐藤史生)、『星の時計のLiddel』(内田善美)、『まるでシャボン』(岩館真理子)、『ブルームーン』(森脇真末味)、せめてこれだけでもいいから、書店の棚にいつまでもあって欲しい。そう願いつつ調べてみると、紙の本としては『ワン・ゼロ』以外はやはり絶版。ただ、電子書籍の形なら、一つを除いては生きているのが救いだ。だが、その一つとはこれである。

  もし彼女に人類と地球とどちらを選ぶ?
  って聞いたりしたら・・・彼女は・・・
  彼女は「地球」って・・・
  答えるんだ
  (内田善美『星の時計のLiddel』)

 『バナナブレッドのプディング』の「あした」と同じように、『星の時計のLiddel』の「星」を、今、必要としている人がどこかにきっといるはずなのに。」

(山尾悠子)

「実を申せば、私じしんが「忘れられた幻の作家」であった時期がけっこう長くありまして。」

「さて絶版本といえば、懐かしの月刊ペン社・妖精文庫シリーズに入っていたアレクサンドル・グリーン『輝く世界』の話から。ほぼ同時期に出た同じシリーズのレオノーラ・キャリントン『耳らっぱ』(当時は「カリントン」表記)とともに、幻想小説家の必読書であり、ある種のひとびとにとっての〈特別に大切な本〉であったように思います。特にこの時期の妖精文庫は、まりの・るうにいさんのパステル画による装幀の魅力も忘れられません。」

「絶版書の話題にかこつけて、さらに私事を。実は近々、若い頃の拙著に関しても復刊の予定がありまして・・・『仮面物語』と、それから内緒の隠し球もあるかも・・・ということで、宣伝、誠に申し訳ございません。滅多にないことに、たまたまタイミングが合ってしまい。これもご縁ということで。」

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