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小林道憲「共鳴する宇宙」(『生々流転の哲学』)/中村雄二郎『かたちのオデッセイ』/アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』

☆mediopos3499  2024.6.16

mediopos3493(2024.6.10)では
小林道憲『生々流転の哲学』から
「ヘラクレイトス」をとりあげたが
今回は同じ「1 万物流転」から
「共鳴する宇宙」をとりあげる

この章では
「宇宙は無数の要素の共鳴世界」であって
「多くの音の振動や位相が同期し」
「弦と弦が共振するように」
「われわれ地球上の生命体も、
この宇宙のリズムと共振している」
ことが示唆されているが

その視点は
クラードニ(1756ー1872)のクラードニ図形
そしてハンス・イェンニ(1904ー1972)の
「キマティーク(波動学)」からのもの

クラードニはゲーテと
イェンニはシュタイナーと深く関係している

イェンニについて
日本で初めにまとまって紹介があったのは
中村雄二郎『かたちのオデッセイ』である

中村雄二郎は〈汎リズム論〉を展開するにあたり
ハンス・イェンニの著書から示唆を受けている

一九八九年にスイスのドルナハにイェンニ夫人を訪ね
イェンニの著作『キマティーク』の巻頭に
「ルドルフ・シュタイナーの思い出と研究に捧げる」と
献辞が書かれてもいるように
イェンニがシュタイナーから深く影響を受けていることを知る

とはいえ中村雄二郎によればイェンニの研究は
「内容的、方法的には決していわゆる〈シュタイナー的〉ではない」
(〈シュタイナー的〉であるというのは
おそらく超感覚的認識による
神秘学的なアプローチということなのだろうが・・・)

イェンニはクラードニが行なった
「金属板の上に混ざりもののない砂を撒き、
ヴァイオリンの弓で縁を擦ってその金属板を振動」させ
そこに「幾何学的な対称図形を描く」のを観察する方法から

「実験の条件を自由に選択しその観察範囲を拡大するため」
水晶発信器を使った方法や
〈トノスコープ〉(音を見る器械)を使った方法を用いた

イェンニは「芸術と科学の接近によって
〈振動底〉あるいは第一原因を解明することをめざし、
その手がかりを、ほかならぬ人間の喉の働きに見ようとし」
「発生器官である喉がもつ可能性」を確信していたようだが

シュタイナーも未来において
人間の生殖器官は喉になる
といったことを示唆してもいるので
そこにもシュタイナーからの影響があると考えられる

さて今回はそれに加えて
アレクサンダー・ラウターヴァッサーの
『ウォーター・サウンド・イメージ』をとりあげている

アレクサンダー・ラウターヴァッサーは
ハンス・イェンニの影響を受け
最初はクラドニの図形で
その後は水を共鳴媒体に用いた実験を始め
「金属の皿や水の容器に幅広い範囲の周波数を
じかに伝える装置を開発」する

最初の章「宇宙の創造と音 神話と哲学」からもわかるように
その向かう視点は
「「創造についての「なぜ」を探る手がかりは、
共振という宇宙的な現象にありそうだ」というように
生命のそして宇宙が形成される根本原理が
「振動(音)」であるというところにある

それはマクロコスモスとミクロコスモスの照応という
神秘学の基本的な認識とも通底しているだろう

宇宙はマクロからミクロまで
さまざまな「弦」を奏で
共振しながら歌っているのである

■小林道憲「共鳴する宇宙」
 (小林道憲『生々流転の哲学』ミネルヴァ書房 2024/2)
■中村雄二郎『かたちのオデッセイ』(岩波書店 1991/1)
■アレクサンダー・ラウターヴァッサー(増川いずみ監訳・解説)
 『ウォーター・サウンド・イメージ』(ヒカルランド 2014/6)

**(小林道憲「共鳴する宇宙」より)

*「二十世紀後半、スイスのバーゼル郊外のドルナッハで医者をしていたハンス・イェンニは、音響学で有名な十八世紀末のクラードニの先例にならって、様々な周波数の震動を加えられた物質でいろいろな形をつくっていく実験を繰り返していた。水滴、水銀の粒、石英粉など、液体や固体の材料を使い、それに振動を与えると互いに共振し、螺旋や渦、鱗模様など、千変万化する形態が現れる。イェンニは、これをキマティーク(波動学)と名づけ、記録し、出版もし、映画化もした。振動が与えられ共振することによって、物質は、それを形に変えるのである。」

*「この宇宙は、エネルギーと波動の海であり、諸形態が流動的に変化しつづけている不可分な全体である。海面にできる並みが海面と別のものではないように、宇宙の各部分は、分かつことのできない共通の場で相互に結合している。素粒子から銀河まで、あらゆる事物は、どんなに遠く離れていても動的に結びついている。銀河、星、粒子、どれも独立した実在ではない。そこでは、一つのものが他のすべてのものに浸透し、他のすべてのものが一つのものに浸透する。相互作用や共振が可能になるのは、そのような共通した場があるからである。自己創造する動的宇宙は、このようにして形成される。

 宇宙は無数の要素の共鳴世界である。それは、多くの弦楽器から生まれる音が共鳴して奏でられる管弦楽である。そこでは、多くの音の振動や位相が同期している。弦と弦が共振するように、宇宙の出来事は響き合っている。われわれ地球上の生命体も、この宇宙のリズムと共振している。

 ハンス・イェンニの多くの実験に現れた多様な形は、宇宙の縮図だったのである。」

**(中村雄二郎『かたちのオデッセイ』
 〜「第Ⅹ章 振動のひらく世界————H.イェンニの周辺」より)

*「一九八九年の十二月初め、ストラスブール大学の二つの講演を終えたのち、私は同じフランス領の近くの町コルマールを経てスイスに行き、バーゼル郊外の小さな町ドルナッハにイェンニ夫人を訪ねた。」

「ドルナッハがルドルフ・シュタイナーの〈人智学〉の本拠として有名な〈ゲーテアヌム〉(ゲーテ館)の所在地であることは知っていたけれど、うかつにも、イェンニとシュタイナーが密接な関係にあることは知らなかった。」

*「ハンス・イェンニについては、わかりにくいことがいろいろあるが、その一つは、シュタイナーのつよい影響下にあったことがはっきりしているのに、『キマティーク』や映画「振動の世界」だけを見ていると、多くのシュタイナーの徒のような神秘主義的なところがほとんど見られないことである。『キマティーク』Ⅰ、Ⅱにしても、巻頭にはっきり「ルドルフ・シュタイナーの思い出と研究に捧げる」と献辞を書いているが、内容的、方法的には決していわゆる〈シュタイナー的〉ではない。」

「自然の探検旅行に出たイェンニは、たまたまドルナッハで建築中のゲーテアヌムに出会った。道すがら彼は〔第一〕ゲーテアヌムの二つの半球状の屋根を何度も眺めた。彼はこの建築家の思想を理解したいものだと思った。しばしばイェンニは、このとき彼の心にルドルフ・シュタイナーの精神性が現前したころを語っている。」

「一九三五年にマリア・シュスターと結婚してから、イェンニはドルナッハに移り住んだ。」

「一九五四年にイェンニは、彼の最初の科学的な著作『類型』を出版し、このなかで彼は、動物や植物を有機的な形態として類型化する研究をはじめた。さらに彼は、非有機的領域にも認められる形態の合法則性に接近するため、一九五八年から「振動の世界」を研究するようになった。こうしてイェンニは、独自に開発した方法によって、広汎な振動の現象学を、この上なくさまざまな液体や固体の材料を使いつつ実現した。ここに、振動の持つ合法則性が実際に見える形象となった現れることになった。イェンニは、このように徹底的に追求した振動の研究を、〈キマティーク(波動学)〉と名づけた。」

*「〈振動学〉の古典的な実験としては、すでにドイツの物理学者で音楽家でもあったエルネスト・クラードニ(一七五六ー一八二七)が行なった砂の振動についての実験がある。クラードニは、金属板の上に混ざりもののない砂を撒き、ヴァイオリンの弓で縁を擦ってその金属板を振動させた。すると、振動が砂粒を波腹から結節線へ運び、砂は振動に応じて見事な幾何学的な対称図形を描くのである。いわゆる〈クラードニ図形〉である。」

*「しかし、実験の条件を自由に選択しその観察範囲を拡大するためには、新しい方法が発見されねばならなかった。新しい方法には水晶発信器が使われた、それは、一般に薄い水晶板の圧力をかけると圧電気が生じ、逆に高周波の電圧を受けると水晶板が振動することを利用している。」

 イェンニが使っている別の装置は〈トノスコープ〉(音を見る器械)と呼ばれる。これは、人間の音声を、なんら特別の電気振動回路を使わずに、振動板上の砂、粉、液体などにそれが残す痕跡(形態や図形など)として捉える働きをする。ここに痕跡がはっきりあらわれるのは母音の発声であり、音の高さ、話し手の声の特色も痕跡の形態や図形のうちに示される。」

*「これらのイェンニの実験から、私はなにを読み取ったのであろうか。私の〈汎リズム論〉はそこからどのような示唆を受けたのであろうか。」

「その考え方の要点を述べておけば、次のようになる。自然界のなかに自然発生的に生じた簡単なリズム振動同士が引き込みによって共振し合うとき、リズム振動帯は次第に複雑化し、物質代謝の機能を獲得しつつ、自立化していく。こうして、物質界から有機体、そして生物が生まれていく。非生命体と生命体とがこれまで考えられてきたように断絶していないことを示唆する重要でわかりやすい実例は、大気現象である台風が、一種の振動現象にもとづく渦巻きによって、まわりのエネルギーを吸収して成長し(つまりエントロピーを減少し)、生命体のようなライフ・サイクルをもつということである。」

*「イェンニは、芸術と科学の接近によって〈振動底〉あるいは第一原因を解明することをめざし、その手がかりを、ほかならぬ人間の喉の働きに見ようとしている。ここには、一見なんでもないような人間の自然(身体)、とくに発生器官である喉がもつ可能性に対する彼の確信の大きさがあらわれている。しかも彼の場合、その確信は宇宙の調和との響きあいにもとづいているのである。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「序文」より)

*「自然科学者のエルンスト・F・F・クラドニ(・・・)は、細かい砂をまぶしたガラスの皿と、バイオリンの弓を使った一連の実験を行った。

 バイオリンの弓で皿の縁を摩擦すると、クリスタルグラスの濡れた縁を指で軽くこすったときのように、ガラスの皿が「歌う」。弓でこする振動の速さによって、表れる模様が異なることを彼は発見した。これらの模様は、クラドニ図形と呼ばれている。」

*「この研究を大きく発展させたのは、1960年代から70年代、スイスの物理学者で自然科学者であったハンス・イエニー(1904ー1972)だ。

 彼は、粉やペースト、そして最も興味深いことに、液体という異なる素材を用いて、さらに実験を発展させた。

 3次元的な構造の広がりを示すさまざまな魅力的な音の形を通じて、音の形成するパワーが明らかになった。

 イエニーは詳細な実験を短いフィルムに録画し、何百枚もの写真を撮った。それらは「キマティック」(波という意味のギリシア語kymaと、波形という意味の英語cymatics)という名前で、2巻組の本として出版された。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「宇宙の創造と音 神話と哲学」より)

*「創造についての「なぜ」を探る手がかりは、共振という宇宙的な現象にありそうだ。

 「なぜ無ではなく、有なのか」(ライプニッツ)という人間の根源的な問いに対する、数えきれないほどの神話的、哲学的解釈のなかで、ひとつの主題が繰り返し語られている。意識の目覚めと自覚について。

 自己の意識に目覚めた創造主は振動し、聞こえる音を発した。音が完全に生き生きと響くには、世界という共鳴体が必要だ。

 あるスーフィズムの信者が創造の理由について問うと、次のような答えを受け取った。

「わたしがあなたを創造した理由は、あなたという魂の鏡を通して世界を見るためであり、わたしの藍であなたの心を満たすためである。わたしは隠された宝であり、見つけられることを願っていた。それゆえ世界を創造したのだ」(シンメル 1995、419、270)。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「波動と音 現象と物理学」より)

*「色は明から暗へ広範囲にわたる。虹の架け橋は天国と地上を結ぶ。これらの現象は昔から、空間や距離を仕切る境界線の象徴とみなされてきた。色の明と暗が組み合わさり、発展するさまは、会話に似ている。

 同様に、音は動と静が、有と無が互いに引き合う緊張、時間の次元を分断する(引き裂く)力への抵抗と考えられるのでは? 揺れる「二重の動き」(ゲーテ)で、音は分かれた過去と未来をつなぎ、失われた「原初の統一性」を共鳴する今にもたらそうとしているのだ。

 したがってすべての楽音(トーン)は、この時間の分断を嘆き悲しむ叫びなのだ。しかし音は、その分断を克服し、内的な統一性という深遠な真理を目撃し、讃美し、高らかに祝福する。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「クラドニの音の図形」より)

*「特定の楽音(トーン)は、すべての要素が同じであるなら、つねに同一の振動パターンと図形を生じさせるか。もしそうであるなら、特定の楽音で同一の図形を作れる。それはつまり、振動にとって生じた音の図形はすべて、刺激振動と振動させられた媒体との議論と同意の結果であると言える。

 それらの図形は楽音の振動とそれに応える物体との「会話」の表現であり、振動に含まれる動的エネルギーと、ともに振動するか、関与することに消極的で動こうとしない物体との会話なのである。」

*「音の図形はオクターヴ(8個連続している)のパターンを閉めるのだ。しかし音程のオクターヴに相応しているわけではなく、倍音ごとでもない。最初のパターンが繰り返されたあとの間隔は、繰り返すにつれて現象し、メートル法のグラフで示すと双曲線を描く。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「振動する生命」より)

*「クラドニの音の図形のさまざまな模様やデザインや構造と、自然界の事象のそれらとの類似性は驚くべきもので、同じ起原から来たのではないかと考えずにはいられない。」

*「「本当に関係のあるもの同士は、関係が相似ではなくても、相同————特徴が似ている————である。だからこそ、その振動プロセスや波動現象を理解しようとするなら、自然界をよく観察して、対象に語らせることが重要なのだ。本質的な型に共通性や統一性があるかどうかを問いかけよ」(イエニー 1972)」

「この「世界の汎周期的特徴」(イエニー 1967)を知らしめるために、イエニーは自然界のあらゆる領域で発見した数多くの実例を提示してみせた。

「血液循環と呼吸のシステム」、神経系の構造、すべての神経プロセスのインパルス的特徴、植物の「連続的要素」や「反復的構造」や網目のような構造、動物界に「優勢な要素」としての「周期的でリズミカルな形式」。「さまざまな種目の動物の体節形成を思いだしてほしい。多くの虫、節足動物、脊椎動物は、この法則によってそれぞれの図形を獲得している」。そしてこの組織的な法則は、生育のごく早い時期に「最初の体節や脊椎の形成」(イエニー 1967)において明らかになる。

「音楽の音色」から「昆虫の飛翔」(イエニー 1962)、水晶の格子状の構造から原子やそれを囲む電子の振動状態(イエニー 1971)、熱、光、放射線や重力の波状的特徴(イエニー 1962)、太陽や大宇宙の物理的現象(イエニー 1976)————どこを見ても、自然物の波状的特徴や周期性を通して、リズミカルな形式のプロセスが基本にあることは昶かだ。収縮と膨脹、圧縮と拡張、固形化と液化という両極的影響によっても。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「水と音のイメージ」より)

*「「生命」という現象の特徴のひとつは、両極のあいだを絶え間なく言ったり来たり揺れながら、バランスと調和を保とうとしているということだ。一方の極では、ある種の崩壊を体験し、個を失う。反対の極では凝縮して固形化する。

 この生きた惑星で、「水」という元素は、混沌と秩序のあいだのダイナミックな振動をもっともよく表している。絶え間なく揺れ動きながら、凝縮したり、空気中に蒸発したり、液体となって流れたり、凍ったり、さまざまな状態に変化している。われわれの惑星のあらゆる地域を永遠に循環するひとつの流れで結びつけている。」

*「われわれの知るかぎり。最初にクラドニの研究を液体の媒体に適用しようと考えたのはハンス・イエニーである。そして無数の波形形態学的現象を見せてくれた。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「(音楽によって創造される)水と音のイメージ」より)

*「音楽を水に伝えると、形成プロセスはまったく新たな性質と動きを見せた。敏感な水がまるで生きているかのように絶え間ない音の流れに波の形で応えるのを見るのは、魅惑的な体験だった。

 さまざまな楽器の倍音の響きに合わせ、つきることなく豊かで多面的な形やパターンができるのは、じつに感動的だ。

 この「水の音楽」では、低い音はより大きな波を生じさせ、そこに高い音によるより速い、繊細な波が重なっていく。しかし水面全体はつねにすべての周波数に共振するわけではなく、暗く静かな面が現下の狭間に表れ、次の瞬間にはダイナミックな波にさらわれていく。」

**(アレクサンダー・ラウターヴァッサー『ウォーター・サウンド・イメージ』
 〜「エピローグ」より)

*「ハンス・イエニーの書物に刺激を受けたわたしは、自分で実験を開始した。最初はクラドニの図形からはじめて、その後、水を共鳴媒体に用いた。

 ルア HIFIマニュファクチュア社(ドイツ、ボンデシー州フリッキンゲン)のヘルムート・ルアの創意工夫と協力のおかげで、金属の皿や水の容器に幅広い範囲の周波数をじかに伝える装置を開発することができた。」

◎Hans Jenny's - Cymatic Soundscapes.

◎Water Sound Images of a Gong by Alexander Lauterwasser


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