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『松岡歩画集/想いが生まれるとき』

☆mediopos-2403  2021.6.15

書店でたまたま手にとった画集
若き(1978年生まれ)日本画家
松岡歩のはじめての画集だという
タイトルは「想いが生まれるとき」

動物や植物をやわらかい筆致で描き
色彩や描き方が絵本のようなイメージもあり
「歩」という名前でもあり女性画家だと思っていたら
口髭・顎髭・頬髭を生やした男性である(笑)

じぶんのなかにどこか強固にある
男・女という先入見を少しばかり反省しもしたが
むしろ内にあるみずからの女性性を使いながら
描いているのだろうと勝手に思い直してみた

表現者はそれが自覚的である場合
おそらくそうしたじぶんの外と内にある
さまざまな「力」を使い分けブレンドもしながら
制作に向かう技術を磨いていくのだろう

画家・松岡歩にとって「制作」とは
「それぞれの体験から生まれる感情の記憶や、
それを取り巻く環境から生まれる
「想い」を形にすることだ」という

「想い」
そこからすべては発している

作品をみながらふと感じたことは
その「想い」の背景にあるものは
まさに「42年間生きてきた中から」
「切り取られた思い出の場面」であって
神話や歴史といったものにこだわったり
それに縛られたりといったことはあまり感じられない

またモノそのもののへと深く迫っていく
ということにこだわってもいないようだ
良い意味でそれらの表層で現代的な感覚で戯れている
そしてそこに技術的な裏付けをもっている
それが良さでもあり
奥行き感の不在を感じるところでもあるのかもしれない

しかしその「想い」が生まれてきた
「切り取られた思い出の場面」を超えて
深まりを見せていくだろう未知数のところを
これからの作品のなかで見てみたいとも思わせる

「想い」
そこからすべては発しているが
その「想い」はただひとりのひとの
生まれてきてからだけの「想い」ではない
「想い」の奥にはさまざまに
イマージュ空間が広がっている
そこから何を引き出してこられるか
それが奥行きをつくりだす重要なポイントともなる

音楽や言葉もまた同様だろう
それを「形」にしようとするとき
未知の「想い」さえも召喚しそのなかで
そこに広がるマージュ空間を前にすること
それにどれほど向き合えるかどうか
それが「形」へと射影されて奥行きを生み出すのだから

■『松岡歩画集/想いが生まれるとき』(求龍堂 2021.5)

(松岡歩)

「私にとっての制作とは、それぞれの体験から生まれる感情の記憶や、それを取り巻く環境から生まれる「想い」を形にすることだと思っています。
一旦自分の心に仕舞われたそれぞれの想いが解放される時こそ、作家としての造形活動の始まりです。この画集の掲載された作品たちは、42年間生きてきた中からばらばらに切り取られた思い出の場面でありますが、「想いが生まれたとき」と題されたこの本は、それらを線で結ぶアルバムのような画集となりました。
私の回顧展を見るような気持ちでご覧いただければ幸いです。」

(解説:鬼頭美奈子「第4章 想」より)

「誰しも心に刻まれた記憶がふっとよみがえる瞬間がある。幼き日に家族と過ごした温かな思い出、青春という名の蒼き時代に感じた葛藤、大人の階段を駆け上がりながら抱いた夢、広い世界へ羽ばたき知った喜びと憂い……。そんな記憶を時々呼び醒ますことで私たちは自らを励まし、慰め、思い通りにいかないことの多い現実社会とも上手く折り合いをつけ生きていく。記憶とは単なる結果ではなく、その人を鼓舞し、未来と対峙するための原動力となり得る大切な要素なのである。恐らく記憶なくしては、生きる楽しみも半減してしまうに違いない。そんな記憶の再生スイッチを押してくれるのが松岡の作品といえよう。詩情的でありながらもリアリティ漂う作品は、あるときは包み込むような柔らかさをもって、またある時はチクリと刺すような痛みを伴って見る者の心に躊躇なく入り込み、青いとばりにまかれた個々の記憶を解放する。《夏》《水生》ではモチーフそのものが符号となって覚醒を促し、《夜の中身》《夏の夜》では松岡自身の脳内を覗き見るような面白さが刺激となって深層心理を呼び起こす。想いを託して筆を重ね、時には仕上げた画面を削り取る行為を繰り返すことで量感ある想いが宿るのである。その想いは鑑賞者の心中深くに眠る記憶と呼応し、未来に立ち向かう勇気を与える新たな記憶となることを松岡は確信している。」

(求龍堂の書籍紹介(ホームページ)より)

「心に仕舞われた感情の記憶や「想い」が解放されるとき、筆は動き始める。

日本画家松岡歩、初めての画集刊行。

日本画家松岡歩は、1978年神奈川県横浜市に生まれ、東京藝術大学大学院博士課程を修了後、百貨店での個展を中心に活動し、松伯美術館花鳥画展大賞、院展奨励賞などを受賞し、目覚ましい活躍をされている院展の作家。
やわらかい筆致で動物や植物を描き、とくにマンボウは人気のモチーフ。当初より松岡氏の画業を見続けてきた名都美術館学芸員の鬼頭美奈子氏が章解説を執筆、6つの章立てで構成。始、生、絆、想、楽、展というテーマを立てて作品を振り分け、各章内は制作年順に並べ、初期の作品から新作の屏風絵まで、これまでの画業を紹介。また、彫刻家大森暁生氏、日本画家大竹彩奈氏、夏目美術店の夏目洋史氏との座談会、女子マラソンランナー鈴木亜由子氏との異業種対談も掲載し、松岡氏自身の魅力にも迫る。
将来の日本美術界を牽引するであろう日本画家松岡歩の初作品集。」


◎求龍堂の『松岡歩画集/想いが生まれるとき』の紹介頁より


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