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道尾秀介「聞こえる」/小説現代 2021年 11 月号・特集「新しい物語のカタチ」

☆mediopos-2537  2021.10.27

少し前に佐々木敦編集の雑誌
『文学ムック ことばとvol.3』で
「ことばと音楽」の特集が組まれていた
(mediopos-2361 2021.5.4で紹介してあります)

この特集のなかに
「自分が信頼しているミュージシャンたちに」
「歌詞(だけ書いてください)」 というオファーを出し
素晴らしい「「歌詞」たち」が届けられる
というものがあったが

今回の『小説現代』の特集
「新しい物語のカタチ」のなかでも
小説と音楽とをリンクさせる試みが行われている

そのメインディッシュが
道尾秀介の「聞こえる」

たんに小説と音楽のリンクというだけではなく
作者の道尾秀介が小説はもちろんのこと
使用する音楽の作詞作曲・演奏・アレンジ等
すべて行ったという

歌の設定が女性のヴォーカルなので
仮歌をじぶんでボーカルトランスフォーマーで
女性の声に変えたものを当初つくっていたが
Yukinaというシンガーソングライターとの出会いから
今回実際に参加してもらったそうだ

この「きこえる」は
シリーズとして展開されていくというが
かならずそこにラストには必ずQRコードがあり
そこからYouTubeで音楽とリンクしている
という小説+音楽という世界が楽しめることに

QRコードとYouTubeからのリンクという発想は
現在ではとくに斬新なものではないけれど
実際に小説世界をそれを利用して
つくりあげる力業に少しばかり驚いている

物語もそれなりに面白いし
音楽もそこそこちゃんとつくられている
それよりも興味深いのは
シンガーソングライターとの偶然の出会いを含めた
その制作にあたっての背景の物語なのかもしれない

ちなみにこの特集のなかに
水野良樹氏(いきものがかり・HIRIOBA)と
小説家・歌い手・アレンジャーが出会って生まれた
5つの奇跡の物語という
小説家が書いた歌詞をもとに
小説と音楽を作るという企画もあり
今後こうした試みも増えてくるのだろうと思われるが

そのクオリティを
どこまで深められるかが
この試みの今後を左右していくのだろう

■道尾秀介「聞こえる」
■道尾秀介インタビュー
 「小説を『体験する』発想の裏側
 『面白そう』から『面白い』までの距離を縮める挑戦
■道尾秀介×Yukina「多彩な二人の偶然の出会い」
■歌詞から広がる「物語」の世界
(小説現代 2021年 11 月号 講談社 2021/10)
(特集「新しい物語のカタチ/今小説の未来を考える。」)

(道尾秀介「聞こえる」より)

「この作品は耳を使って体験するミステリーです。
 最初に、次ページのQRコードから「ある音声」をお聞きいただきます。
 そのあと本文をお読みください。
 読了後に、ふたたびQRコードが現れた場合、
 そちらの音声も再生することをおすすめします。」

(「道尾秀介インタビュー」より)

「短編「聞こえる」で始まった音声と小説を組みあわせた新しい物語「きこえる」シリーズ。著者の道尾さんは、今作で小説だけではなく、音声の制作もすべて一人で行いました。これまでになかったこの試みはどのように生まれたのか、道尾さんに掘り下げてお聞きしました。」

「−−−−写真と物語を組みあわせた小説『いけない』や、読む順番で結末が変わる画期的な小説『N』など新しい物語のカタチを模索し続けている道尾さんですが、今回は「音声」と「物語」を組みあわせた新しい小説を執筆していただきました。」

「−−−−道尾さんはこれまでにもたくさんのチャレンジをされていますが、今回の「聞こえる」では、何より冒頭のQRコードのビジュアルに驚かされますね。突然現れる記号に違和感を感じるけど、説明しがたい不気味なものも感じます。
道尾/みんな知ってることだけど、QRコードってものすごい便利なんですよ(笑)。僕は名詞に自分のオフィシャルサイトに飛べるQRコードを刷ったりして活用しているんですが、何よりも楽。小説に音声コンテンツを入れるならQRコードを使おうというのは、元の発想からあったものでした。読み手の気持ちになって考えた時、ページをパッと開いた瞬間にQRコードが出てきたらわくわくするだろうなと思って。」

「−−−−50ページからのミニ対談でも触れていますが、今作は、小説はもちろん、使用する音楽も、作詞作曲、演奏、アレンジ等はすべて道尾さんの手によるものです。小説の執筆と音楽の制作、どちらから取り組んだのでしょうか?
道尾/同時進行です。どちらかが存在しないと、もう一方も存在できないので、作業は一緒に進めることになります。曲を作りつつ、原稿を書きつつ。」

(道尾秀介×Yukinaより)

「−−−−道尾さんがYukinaさんの存在を知ったのはいつのことだったのでしょうか。
道尾/二年くらい前のことです。日付ははっきりしていて、二〇一九年十一月十二日。その日、都内のある駅でたまたま途中下車したんですよ。わりと寒い日で、人もだいぶ少なくなった遅い時間。クリスマスのイルミネーションがあったから、それを眺めながら歩いていたら、すっごいアグレッシブなギターと力強い歌声が聞こえてきたんです。それでふらふら〜っとその歌声のほうに歩いて行ったら、十九歳の女の子がギターを抱えて路上で一人で詠ってた。
−−−−Yukinaさんが路上ライブしていたんですね。
Yukina/はい。当時所属していたバンドのワンマンライブの宣伝のために、その時間だけ限定的に一人で路上ライブをしていたんです。」

「−−−−Yukinaさんに歌ってもらおう、と決めたのはいつのことだったのでしょうか?
道尾/小説の初稿を最初に編集者に送ったのは今年の五月末だったんですけど、その段階での音源は、僕の仮歌をボーカルトランスフォーマーで女性の声に変えたものでした。最終的に「小説現代」に掲載するとき、誰かプロの女性に歌を入れ直してもらわなきゃならなかったんですが、すぐにYukinaさんの声が浮かんだんです。」

(「歌詞から広がる「物語」の世界」より)

「小説家が書いた歌詞をもとに、小説と音楽を作る−−−−
 水野良樹氏(いきものがかり・HIRIOBA)と
 小説家、歌い手、アレンジャーが出会って生まれた、5つの奇跡の物語」

◎道尾秀介「聞こえる」最初のQRコード

https://www.youtube.com/watch?v=O7hdO6foJcE


◎HIROBA 水野良樹 PRESENTS「OTOGIBANASHI」
https://www.youtube.com/watch?v=fGGTxOVt8-c


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