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ジョフリー・ウェスト『スケール』

☆mediopos-2244  2021.1.7

大きいか小さいか
そのスケール感に基づいた法則は
それなりに説得的で面白い

わかりやすい例として
本川 達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』がある

機敏さ・寿命・行動圏・生息密度など
動物のサイズに応じて一定の関係があるけれど
一生の間に心臓が打つ総数や
体重あたりの総エネルギー使用量は
サイズは違っても同じだという

本書では動物のサイズだけではなく
「生命、都市、経済をめぐる普遍的法則」として
そのスケールに応じた一定の法則があると論じられている

スケールという視点で見るていくと
「都市、企業、植物、動物、人体、果ては腫瘍でさえ、
その構成と機能は驚くほど似てい」て
「その組織、構造、動態において、驚くほど整然とした
数学的規則性と類似が見られ」るというのだ

ある意味でこの視点は
「量」が「質」に転化する法則だともいえるが
その一視点だけで
「量」と「質」の関係がはかれるとはかぎらない
本書はスケールをすべてに適用する視点で論じられているが
むしろスケールでなにが説明可能か説明できないか
スケールで説明できないもののほうにむしろ興味が向く

数値化や図式化などはもちろん
望遠鏡や顕微鏡など
まさにスケール感を超えた観察方法を
適用するときに陥る錯誤について
充分に注意深くなければならないだろうということだ

つまり視点そのものの「質」が考慮されないとき
「量」的なものがむしろ抽象化されて
「質」としてとらえられなければならないことが
実のところ空疎なかたちで概念化されてしまうことになる

いちばんたいせつなのは
測ることのできない「質」なのだから

■ジョフリー・ウェスト(山口浩生・森本正史 訳)
 『スケール/生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』(上・下)
 (早川書房 2020.10)

「動物、植物、生態系、都市、企業のほぼすべての測定可能な特徴は、大きさや規模と共に定量的にスケーリングする。(・・・)この驚異的な規則性の存在は、これらのまったくちがう非常に複雑な現象すべての根底に共通の概念的枠組みがあること、そして動物、植物、人間の社会行動、都市、企業の動態、成長、まとまりが、実は似たような一般化した「法則」に従っていることを強く示唆している。」

「本書はある考え方を示し、大きな問題を問いかけ、そして大きな問題のいくつかに大きな答えを示唆する本だ。今私たちが格闘している大きな課題や問題、例えば急激な都市化、成長、地球の持続可能性から、癌、代謝、老化と死の原因の理解が、統一された綜合的な概念的枠組みを使うことで可能になると述べる。都市、企業、腫瘍、私たちの身体の働きが驚くほど似ていること、そしてそれらがある一般テーマの変形となっていて、そのまとまり方、構造、動態の面で驚くべき系統的規則性と類似性を示していることも述べよう。それらすべてに共通しているのは、それがきわめて複雑であり、無数の個別構成でできあがっているということだ。その要素となる分子や細胞、人間は、ネットワーク構造を通じて複数の時空間スケールにまたがる形でつながり、相互作用し、そして進化する。これらのネットワークには、人体の循環系、あるいは都市道路網といった明白で非常に物理的なものもあれば、社会ネットワーク、生態系、インターネットといったもっと抽象的でバーチャルなものもある。
 この大局的な枠組みを使えば、魅惑的なほど広範な各種の問題に取り組める。」

「多様で無関係に見える各種の問題に取り組むにあたって、私が使うレンズの大部分はスケールと、科学という概念的枠組みになる。スケーリングとスケーラビリティ、つまりものがサイズに応じてどう変化するか、そしてそのときの基本法則と原理は、本書全体の中心テーマであり、本書のほぼすべての議論の出発点だ。このレンズを通して見ると、都市、企業、植物、動物、人体、果ては腫瘍でさえ、その構成と機能は驚くほど似ている。このいずれも、その組織、構造、動態において、驚くほど整然とした数学的規則性と類似が見られる。そのすべては、ある普遍的テーマの現れであって、それが実に魅力的なほど多様な形をとって現れているわけだ。これらは、まったくちがったシステムを統合的に一体化して理解するための。広汎で大局的な概念の枠組みの帰結として示され、それによって多くの大きな問題に対処し、分析、理解することが可能になる。
 「スケーリング」といのは、最も基本的な話で言うなら、サイズが変化したときにその系がどう反応するかという話でしかない。都市や企業のサイズが倍になると、何が起こるか? あるいは建造物、飛行機、経済、動物のサイズが半分になるとどうなるか? もしもある都市の人口が二倍になると、その結果その都市の道路が二倍ほどになり、犯罪も二倍、特許も二倍になるのか? 企業の売り上げが二倍になると利益も二倍になり、動物は体重が半分になると必要な食料も半分になるのか?」

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