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禁断の書の記述—『ネクロノミコン』の物語 新訳クトゥルー神話コレクション2—

概要

著:H.P.ラヴクラフト
訳:森瀬繚  
絵:中央東口
出版:株式会社星海社(1)

あらすじ

 怪奇小説作家H・P・ラヴクラフトが創始し、人類史以前より地球へと飛来した邪神たちが齎す神話的な恐怖を描いた架空の神話大系〈クトゥルー神話〉。
 その新訳コレクション第2集となる本書では、砂漠に埋もれた廃遺跡に存在した未知の文明と爬虫類型生命体との遭遇を描く「無名都市」をはじめ、陰惨かつ背徳的な画業に身を投じる狂画家の秘密に迫る「ピックマンのモデル」、因習と迷信が蔓延る村に顕れたヨグ=ソトースの片鱗を記した「ダンウィッチの怪異」など、ラヴクラフト自身が手がけた“原神話”から、魔書『ネクロノミコン』にまつわる恐怖を描いた8編を収録。
 狂詩人が綴りし禁断の書物が、いま現実を侵食する!

〔収録作品〕
・無名都市 The Nameless City
・猟犬  The Hound        
・祝祭 The Festival
・ピックマンのモデル Pickman’s Model        
・『ネクロノミコン』の歴史 History of the Necronomicon        
・往古の民  The Very Old Fork       
・ダンウィッチの怪異 The Dunwich Horror        
・アロンゾ・タイパーの日記 The Diary of Alonzo Typer (ウィリアム・ラムレイのための改作)
・アロンゾ・タイパーの日記[初期稿] The Diary of Alonzo Typer (ウィリアム・ラムレイ)(2)

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各話あらすじ

無名都市
 旅人が見つけたのは呪われた都市だった。その都市の探索を進めるうちに地下に発展した文明の痕跡が見つかった。姿が見えない脅威と接触。 

猟犬 
 いけない遊び。若者たちが墓荒らしの際に持ち帰った翡翠のペンダント、その日から聞こえ始める遠吠えによりに死の淵に落とされる。悲劇の追いかけっこ。

祝祭
 親族は魔術を行った廉で処刑された。その血筋により招かれた語り手は恐ろしさと醜悪さ、異形を内に秘めた儀式に参加するのであった。静かな情景の中の異形と醜い儀式の描写が心地よい。

ピックマンのモデル
 ピックマンは醜い絵画を作る。その友人である語り手はピックマンの美学に惹かれて製作所となっている隠れ家を訪れる。ゴシック趣味とクトゥルーの世界が嚙み合った作品。 

『ネクロノミコン』の歴史
 『ネクロノミコン』の概略。クトゥルーの作品を作りたい人なら押さえておくべき一作。

往古の民 
 H.P.ラヴクラフトが書き留めた夢がベースとなった物語。ローマ帝国の植民地での不吉な先住民の儀式と異形の邂逅。

ダンウィッチの怪異
 醜い子供、誰の父親か分からないその子どもが生まれた時に加速する異形を呼び出す儀式。それを食い止めるべく三人の教授がダンウィッチに乗り込む。異形との対決と召喚の阻止を直接的に描いたある種の英雄伝説。

アロンゾ・タイパーの日記
(ウィリアム・ラムレイのための改作)
アロンゾ・タイパーの日記[初期稿]
(ウィリアム・ラムレイ)
 タイパーには野望があった。それは異形の召還である。素人作家ウィリアム・ラムレイのアイデアをラヴクラフトがアレンジしたもの作者の怪奇趣味が伺わせられる作品。


特徴 

 前作の『クトゥルーの呼び声』がクトゥルーを中心に纏めたものに対して今回は禁断の書『ネクロノミコン』を中心に纏めたものである。前作同様にクトゥルーの世界の入門書としての側面が大きく出ているながらも、ラヴクラフトの趣味が全面に出ている。


良い点

 前作がラヴクラフトの片鱗というものを垣間見ることが出来たのに対して今回は『ネクロノミコン』を通じたその世界を全体を見ることが出来る。シェアワールド美点として世界が色々な物語、一つ一つに起承転結がついている作品、が集まっていることにより世界が拡張されている事である、まるでそれぞれが一人の人間の生涯の物語であるように。


悪い点

 前作と今作のラヴクラフトの作品群を読んでいてやはりこの怪奇とゴシックを好む人にお勧めするのは良いが一番出来の良い『ダンウィッチの怪異』も読書初心者に勧めるのは難しく、また幻想や怪奇、ゴシック趣味を持っていない人に理解されえないものである。それは上記のものを愛する人はある種の定型が出来ていることを理解し、それを愛している人であり、予想外の展開などを求めていないからである。作品自体の質が良ければそれで良いのである。それ故の他の者にはつまらないと思えるものを平気で読んでいたりする。ラヴクラフトの作品群の若干こちらに分類される。


まとめ

 やはりシェアワールドの側面が強く今回も『ネクロノミコン』という書を中心にしているのであちらの世界の記述が出てくるこちらの世界の話であるのであちらの世界を舞台にしている作品を読むのが楽しみである。私的にはやはり『ネクロノミコン』の全容は分からない方が好ましい。未知、語るべきではない恐ろしい物には沈黙が相応しいからである。



(註)

(1)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000311687から画像転載
(2)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000311687から引用
(3)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000311687から画像転載


リンク


〈講談社当該商品ページ〉


〈森瀬繚氏Twitter〉


〈中央東口氏Twitter〉





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