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マシニスト

映画「マシニスト」のネタバレを多分に含んだ感想です。


あらすじ

1年もの間、重度の睡眠障害に悩まされ、眠ることが出来ずに痩せ細ってしまった主人公トレバー

その見た目からドラッグなどを摂取している嫌疑をかけられて、仲の良かった同僚に避けられ、身体的にも、精神的にも限界が来ていました。

心の拠り所は唯一、空港のカフェテリアの店員マリア

そして、意味深な嫌がらせと意地悪な同僚アイバンに悩まされたトレバーは、彼の存在と、嫌がらせの意味を探るために行動を始める。


罪と罰


映画が進むにつれて明かされるのは、主人公トレバーが1年前に起こした、ひき逃げの罪。

トレバーは、罪意識からアイバンという架空の人物を作り上げ、自らに罪を思い出させようとしていた。

心の支えで会ったマリアでさえも、トレバーがひき殺した子供の母親であり、トレバーの中で「本当」だったのは、彼を気味悪がっていた人間たちだけだったのです。

そして、自らの犯した轢き逃げの事実に向き合うことを決めたトレバーは、警察へ自首し、1年ぶりに深い眠りにつくことが出来た。

というのが映画の流れです。


睡眠という脳の檻

不眠症が映画の全面のテーマとして押し出されているのは、マシニストくらいなのではないでしょうか。

何らかの精神的ストレスから、主人公が睡眠薬を服用しているような描写が見られることはありますが。

不眠症というものは確かに、非常につらい。

かくいうわたしも、長らく睡眠障害といわれるものに悩まされているのですが、確かに眠りが不足すると正常な判断はできなくなります。

それに、情緒も安定しなくなる。まず、怒りが沸き上がる。しかしそれを何とか自分を押し込めようとすると、今度は酷く悲しくなる。きっとはたから見れば感情の浮き沈みの激しい人間のように見えてしまうのだろうが、本人は必死に「平常心」というところまで心をもっていこうとしているのです。

主人公トレバーも、感情の起伏が大きいところや、短絡的な行動が目立ちます。正直上手く頭が回らないのです。

しかし眠気はない。

不眠症の恐ろしいところは、眠気はないので目を閉じて横になっても眠れないのに、脳だけが考える力を失っていく。簡単に言うと「ぼうっと」してしまう。

この「ぼうっと」は、普段あるようなものではなく、動作は緩慢になり、どんな感情も、ワンテンポ遅れてくる。その遅れてくる感情もどこかぼんやりとしていて希薄で、薄い水の膜を纏っているような感覚になる。

その膜のせいで、どこか音も遠く、皮膚感覚も鈍麻している。これはわたしの感覚ではあるが、人間の眠りが不足するというものならば、概ねこのようなことになるだろう。

勿論、というべきか、重度の不眠症であれば幻覚や幻聴も見る。正しくは夢と現実の区別が曖昧になっていくのだ。

多くは、現実の中に夢が混じる。これが幻覚だ。だが、見えているので本人にとってはすべてが現実だ。「ぼうっと」のおかげで、記憶も混濁して、いつ自分が家に帰ったのか、食事を摂ったのか、風呂に入ったのか、眠ったのか。待ったく解らなくなる。

人間は必ず眠って起きる、ということをどのような形であれ一度は「正常」に行っているはずだ。それが出来ない。できないことだけはわかる。どうしたらそれが解決するのか、わからない。

薬なんかの治療法もあるが、これはまさに「人による」ので、薬が全く効かない人もいれば、薬が効きすぎて起き上がることが困難になるほど副作用が出ることもある。

「正常」に眠って起きることが出来ない、其れだけで正直大きなストレスだ。誰しもが当たり前にできることなのだから。

眠れないことは、ただそれだけで追加のストレスに成り得る。

なので、そんな状態で主人公が一年も仕事を続けられていたことに驚きますね。もしかしたらその苦痛さえも本人にとっては深層心理の中での罰の一つだったのかもしれませんが。

ひき逃げ、という罪を完全に忘れていながらも、不眠症という形で強烈なストレスを感じている。相反する防御反応が出ているトレバーは、いっそ真面目で哀れに思えてしまう。

睡眠障害のすべてが「罰」というものが根源にあるわけではない。ただ、人間を緩やかに罰して、正気を奪うならば、睡眠を阻害するのが一番である。

眠れないということは、たとえそれが罪や罰の所為でなくとも、何らかのストレスが原因であることが多い。多いというよりも、大部分がそうであろう。ショートスリーパーは肉体的な害はないので。

不眠というテーマの中で、自罰にうまく当てはめてストーリーを進めていくのは中々に面白かった。

トレバー役、クリスチャン・ベイル氏の裏話として、駅のホームを走るシーンがあるのですが、その時にあまりにも痩せすぎて筋肉が十分に動かせずに呼吸困難に陥って死にかけたという話を聞いて、俳優が命かけた映画というものはそのストーリー以上の印象を見る側に残すものだなと思いました。


あぁ、それと。これほど酷くないが、睡眠障害のきらいがあるならば、一度でもいいから病院に行くべきでしょう。

もし人の目が気になって病院に行けないのならば、市販薬から試してみるべきだ。あれを効かないといっているのは、アイスばかりキメて野菜が効かないといっているような薬中の言葉だと思うべきだろう。初めてなら弱い薬から試すのは、何の問題もない。そしてそれが効かなければ、通販で買える向精神薬を試してみるといい。

完全に自己責任になるが、どんな事情であれ、病院に行きにくい人は当然いるだろう。そんな人の為にも解決策は複数、あるべきなのだ。

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