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解き放つ ステージのオブリビオン(2023/3/1 dot yell fesに行けなかった反省文)

(※以下の文中、すべて敬称略で失礼します。また、ukkaの春ツアー<横浜公演>のネタバレが含まれていますので、ご留意いただけると幸いです)

葵るりは、どうやら泣いていたようだった。
芹澤もあの名前を呼ぶ観客の声を真正面に受けて。

2022年の年末から2023年にかけて、ようやく国内でも、スポーツ観戦やライブ鑑賞などで観客の声出しが解禁されるようになった。
プロ野球やJリーグ、あるいは乃木坂46のコンサートといった、世論に大きな影響力を持つマスイベントで、組織だった「応援団」や「オタク」に声出しが許可され、それが中継を通じてTVなどでも見られるようになったことが大きかったように感じる。

ukkaのライブで、コロナ禍以降、声出しが可能だった現場は、片手で足りるほどしかない。
その最初の現場が、昨年5月に行われた福島の野外フェスだった。

この時は、あくまで「人やステージの方向を向かないで、地面に向かって、あるいは左右の森へ向かってならば、コールと歓声は認める」という建前のもとだった。
MCでも、川瀬あやめが、なんとも微妙なテンションで「ルールは守ってくださいね」と客席に念置きしていた。
いま振り返ると、あの声援が自分たちへ向けられたものという実感が、あまり抱けなかったのかもしれない。

あの日、葵るりが体調悪化とのことでライブに参加できず、ukkaは5人でのパフォーマンスとなった。
そして、その日のセトリに『リンドバーグ』は含まれなかった。
当時自分が思っていたことは、こうだった。

ホールの中からは直接見えることのない青空、それは、誰のためでもなく、いつだって平等にそこにあるもの。
でもきっと、誰一人として欠けても「空が青い」ことは成り立たないから、いつどんな場所ででも「君のためなのさ」と歌ってくれる彼女たち。

あの瞬間、メジャーデビューへ向けて、歩を進みはじめた彼女たちから、
この場所に至るまでに関わったすべての人たちへ。

空は今日も青かった。

『リンドバーグ』は、今日のセットリストに含まれなかった。
今回残念ながら出演できなかった葵るりも含めて、またこの場所に戻ってきてほしい。
そして、そのときは、真正面を向いて、ステージに全力で声を届けたい。
空と君のあいだに(2022/5/22 #リーディングエクストロメ 福島にukkaが出演した話)

5/5のメジャーデビュー発表後、最初のアイドルフェス参加という割には、まだそろりそろりと目標へ向けて始動しているのかな、『キラキラ』の熱狂を真正面から受けつつも、日が経つにつれて、「なにかまだ忘れ物がある」そんな印象も心のどこかに残っていた。
そして、6人で歌う『リンドバーグ』に向かって真正面に「君」の名を呼ぶことができるのが、まだまだ先の話なのだという現実をつきつけられたことへの、一抹の寂しさでもあった。

6人の『リンドバーグ』に、真正面から声を届けられる機会は、昨年12月に訪れた。
渋谷O-EASTのMARQUEE祭。
半年ぶり2度めの声出し現場だった。


5月から半年にわたって、メジャーデビューに至るまで、文字通り目まぐるしい日々を過ごし、ようやくたどり着いたアルバム『青春小節』発売。
ふと気づけば、もう年末も押し迫っていた。
平日ど真ん中、自分はこのライブも逃している。

『リンドバーグ』のコールといえば、2番冒頭の「教えてくれよ 僕の名前を」と歌う芹澤もあに対して、半ばやけくそなガナリにも聞こえる「もあちゃ~ん」コールが名物のひとつだった。
この日のツイッターを見る限り、現地勢の反応は、
「やっと、もあちゃんに名前を教えてあげられた」
というものが、やはり多かった。

この前後、ukkaは様々な対バンライブに出演していたということもあってか、配信などで、このときの声出しについてメンバーから大きく触れられたことはなかったように思う。
そして、このとき、結城りなや葵るりには『リンドバーグ』で目立ったソロパートが割り振られていなかった。

年が明けた。
1月終わりに、デジタルシングルとして発表された『コズミック・フロート』が、YouTubeでいつもになく再生回数を稼ぎ出しているさなか、いまのukkaをアピールすべく、春ツアーで一人でも多く新しくukkaに出会ってもらうべく、毎週末のように対バンやフェスに出演していた。
クマリデパートとの対バンでは、文字通りネコをかぶり(『ネコちゃんになっちゃうよ』カバー)、#ババババンビ主催のスリーマンライブでは『コズミック・フロート』では2回めの披露にも関わらず、はやくもフロアのあちこちが縦に弾んでいた。
そして、渋谷O-WEST主催のブッキングライブで、タイトル未定、fishbowlとスリーマンライブをむかえることになった。

ukka運営のなんということのない告知ツイートから、ほどなくして、タイトル未定運営から「本日は声出しもOKです」のツイートが流れてきた。
大してセールスポイントにするつもりもないような、前から決まっていたかのような、淡々としたテンションで。

決まったときから、個人的にすごく心待ちにしてきた組み合わせだった。
ただただ、3組のステージの、それぞれのケミストリーがまじりあうことを予想するだけで幸せな1週間だった。

「声出し?」
半信半疑のまま入場すると、それほど目立たない壁に、「声出しNGではございませんが」という謙虚なペラ一枚のお知らせが貼ってあった。

どこか戸惑いながらも、前後左右のオタクの様子をうかがいつつ、タイトル未定・fishbowlのコールに乗っかっていった。
この2組は、地元でのライブではいちはやく声出しOKのライブをやっていることを知っていた。
特にfishbowlは、この数ヶ月でいろんなバリエーションのコールが増えていっていた。

声出しの楽しさは、ふとしたときに、そのコールを受けた演者が微笑んだり、驚いたり、あるいは同じように小声でつぶやいていたり、そういう相互作用を感じられることにあるような気がする。
それはライブそのものの魅力とも重なり合う。
fishbowl『熱波』で焼き尽くされたかのようなフロアに、ukkaのovertureが静かに流れる。

この日、ukka運営は、直前まで「声出し可」のライブだということは知らなかったらしい。
セトリもそのことを考慮していないものを用意していたそうだ。

初手は「まわるまわるまわる」、fishbowlの音楽プロデューサー、ヤマモトショウが作詞した曲が起点になった。
ukka目当てのオタクのみならず、fishbowlとタイトル未定のオタクも、久しぶりに『octave』の音にまみれながら、自然とボルテージが上がっていく。

この日のハイライトは『タリルリラ』だった。
2番の冒頭を歌い始める前、川瀬あやめに向けられた「お前が一番」コールは、マスク越しでもなお、O-WEST中を揺るがすような、ひとつの声となって、演者に真正面からぶつけられていった。

俺たちの声が、コロナ禍以降、はじめてukkaのメンバーに突き刺さったのは、もしかしたら、このライブだったのかもしれない。
この日以来、いまだ今日時点でも、川瀬あやめは、このツイートを、自身の固定ツイートに設定している。

2月最後の日曜日、2月26日。
ukkaの春ツアーが、横浜から始まった。
ukkaのみならず、スターダストの主催するライブでは、声出しはNG。クラップと身体を使っての感情表現が客席に委ねられている。
もう3年近く、推しメンのパートでは自然と手が上がるようになっていた、のに、この日はちょっと違和感…
「歌割りが大幅に変わっている…」

6人→5人→4人→6人と、2年ちょっとの間でメンバーのが変遷する中で、その場その場で過去曲の歌割りは決められてきた。
やはり新メンバー2人のパートは少ない。
だが、水春や桜井美里が歌ってきたパートの大半を、結城りなと葵るりが受け継ぐ時が来たようだ。

この日の『WINGS』には、これまでのような追い詰められたヒリヒリした空気、行き詰まる緊迫感がなかったように感じた。
ようやく、6人が対等なスタートラインに立ったんだ、そして『WINGS』の物語はいったん終わったんだ、そう感じた。

だが、この日のセトリに『リンドバーグ』は入らなかった。

週明け、翌月曜日、2月27日。
2週間に1回のshowroom定期配信で、唐突に
「来週の全国ツアー仙台公演から、ukkaワンマンライブでも、声出しが解禁されます」
と発表があった。
スターダストで、声出し解禁はukkaが先陣を切ることになった。
このことは、単に「世間の様子を見て、そろそろ声出しも解禁します」ということではなく、これまでの3箇所、それぞれにメンバーがステージで受け止めた声を聞いて、その声こそが運営を動かしたという側面もあったのでは? そう思う。


そして水曜日。あっという間に今年も3月になった。
コロナ禍以降、4回めの声出しOKの現場は、横浜のZEPPでのフェス、dot yell fesだった。

平日の、はやめの時間帯から開始の対バンフェスにもかかわらず、前方エリアでは500枚以上のチケットが売れていたという。
裏を返すと、ukka以外の人気グループも含めて、ひとやま何人のオタクが、スペースに押し込められた、若干「どうなの?」というライブだったようだ。
このライブの主催、yell株式会社は、.yell liveという配信メディアをひとつの主要ビジネスにしていることもあって、このフェスは2日間、ライブのほぼ全編が無料配信された。
現場ではクソイベ臭が、在宅としては神、そんな雰囲気の中、ライブは進んでいった。

奇をてらわず、いつものovertureとともに、そろりそろりと姿をあらわす6人。
ukkaサイドに立つのであれば、ZEPPの広いステージに”ふさわしい”荘厳な雰囲気で、あえて逆の立場に立つのであれば、直前のFRUITS Zipperの軽やかな『わたしの一番好きなところ』の軽やかさを理不尽に消し去るような登場。

1曲めが『リンドバーグ』だった。
イントロとユニゾンから、短めに切った髪を大きく弾ませる茜空。つづく川瀬あやめの歌い出し一音めから、一気にukkaの色に染まっていく。

  呼んでおくれよ \あやめ~/
  僕の名前を   \あやめ~/
  この世界が 燃え尽きてしまう前に

カメラが切り替わる。
村星りじゅが、コロナ禍まっただなかで桜井美里から受け継いだパートを、今日歌っているのは、結城りなだった。

 囚われた 心に
 解き放つ ステージのオブリビオン

結城りなの歌声の迫力・説得力に、何もいうことはなかった。
一曲めの30秒にして、ただただ現場に行かなかった自分を呪った。

熱狂のまま、2番に入る。

  教えてくれよ \もあちゃん~/
  僕の名前を  \もあちゃん~/
  この世界が 壊れてしまう前に

やっとこの時が来たとばかりに、ニコニコしながら自分の耳に手をあてて、客席の感性を聞き逃すまいとする姿がかわいい芹澤もあ。

そして、カメラが切り替わった先に写っているのは、いつになく険しい表情でマイクを握りしめる葵るりだった。
かつて水春が自由自在に、そして茜空がこれまでのバトンを壊さないようにと歌っていたパートだった。

  退屈な明日を拒んで
  夜空に僕らは飲み込まれてく

葵るりが声を絞り出しているのを取り囲むように、5人が中腰の姿勢で、思い思いの表情で踊っている。
泣いているのは葵るりだけだった。

去年の福島野外フェスの前後、葵るりは、グループを脱退することも考えていたという。
(『IDOL AND READ 33(2023年1月発売)』インタビューより)

ステージに何かが欠落しているとき、客席からできることは、精一杯手を伸ばすことだけかもしれない。
泣いていたように見えた葵るりは、『リンドバーグ』に続く『AM0805の交差点』の自パートで、ニコニコしながら後ろにメンバーをしたがえ、下手から上手を颯爽と歩いていった。
客席には、まばらながらも、白いペンライトがしっかりとステージへ向けられていた。

そんな風景を、画面越しにしか見なかったこと。
ただただ悔しい。

待ってろよ、仙台。

ukka Major Debut Spring Tour 2023
3/5(日) 仙台darwin
開場 14:15 / 開演 15:00
https://w.pia.jp/t/ukka/

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