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from a distance(2022/11/3 ukka 全曲披露ライブ「ALLOUT SECOND」#ukkaオールアウト2 )

(※以下の文中、敬称略で失礼します)

今日も、芹澤もあは最後まで笑っていた。
ときどき、眉尻を下げて少し困ったように見える表情を浮かべて。

2023年5月。春ツアーファイナル、恵比寿ガーデンホールで発表された”メジャーデビュー決定”の、待ちに待った報せ。
メンバー全員が、ステージ上で泣き崩れた春から、ひと夏を飛び越え、秋も足早に過ぎ去ろうとする中、いよいよ約束の11月がやってきた。
それ以来6ヶ月ぶり、メジャーデビュー前最後ともなるワンマンライブは、オリジナル全44曲を披露するマラソンライブ「ALL OUT SECOND」。
ukkaの6人にとって、通過儀礼ともいえる試練が用意されていた。

(※例によって、このライブの本編については殆ど書いておりません。ライブでどんなことがあったのかについては、全44曲のセットリストを片手に持ちながら、安心と信頼<写真70枚!>のナタリーさんの記事や、優良で有料<月額440円!>なスターダストWebのダイジェスト映像などなどをご覧ください)

2019年11月16日

グループ初のホールでのワンマンライブとして、当時のオリジナル全29曲を披露した『ALL OUT』。
2時間半を超えるライブ最終盤で、マネジャーの藤井ユーイチから、唐突に桜エビ~ずからukkaへの改名が告げられた。
川瀬あやめが小さくガッツポーズを、茜空が少し顔を曇らせたように見えた中、やっぱり芹澤もあは、まわりをキョロキョロしながらずっと微笑んでいた。
その数分後、ukkaの”day-0”のライブを締め括ったのは、ひとりだけステージに居座り、他のメンバーが舞台袖にはけたのを確認してから、大声で芹澤もあが放った「ばいびろーん」だった。

あの日から3年、ukkaを取り巻くいろんなことが変わり、近づき、そして過ぎ去って行った。
6→5→4、そして、→6
5人体制や4人体制では、いつしか全く歌われなくなった曲もいくつかあった。
そんな曲も一切合切まとめて面倒を見て、今日6人はどんなライブを見せてくれるのだろう?

会場入口に飾られていた「ファン一同」からのスタンドフラワー

またこの場所から

ALLOUTの会場、よみうりランドの中にある日テレらんらんホール。
絶好の行楽日和、園内では多くの人が、次々とさまざまなアトラクションの列に飲み込まれていく。
不規則にうねるような長い列を縫うように、ホールへ向かって歩いていく。
あちこちでukkaのTシャツやパーカーを着たファンが、今日販売されたグッズや生写真、あるいはチェキを見せあっている姿が目に入ってくる。
それにしても、11月にしては気温が高い。
青空を見上げた横では「レッツゴー、バンジー!」という、どこかしら、のどかな声が聞こえてくる。

らんらんホールの客席前方エリア、真っ平らな床の下はプールになっているそうで、普段はアシカショーも行われているとのこと。
いつもの目的に応えられるよう、客席後方エリアは、急勾配なすり鉢状につくられているのが、このホールの特徴の一つとなっている。
会場に入ると、客席ど真ん中、ちょうどホールの真ん中あたりに、小さめのステージが設営されているのが見える。
「お? サブステージか…」ライブ演出の意図を、あれやこれや想像をめぐらせて、開演前から楽しみが増える。

3年前は、舞台後方、開演前のカウントダウンを映し出していたスクリーンが、今回はステージ前にまでせりだしている。
画面に映し出されているのは、「ukka ALLOUT SECOND」のロゴと、ぼんやり浮かび上がっている、ふたつの椅子の画像。
画面の中に動きはなく、ただ静かに開場SEが流れている。
筆記体の"u"が、"w"にも見えるよねえ、wkkaじゃん、もしやまた改名? 今日またグッズいっぱい買っちゃったよ。そんな軽口もどこからともなく口をついて出る。

開演予定時刻通りの16時。

つかの間の暗転から、スクリーンの中で、ゆっくりBGMもなく映像だけが流れ始める。
白い壁に囲まれた部屋、カメラは三方向からだろうか。
ドアが開いて、向こうから、ひとり少し不安そうな面持ちで、村星りじゅがあらわれる。
部屋の真ん中まで進み、向かい合った2つの椅子のうち、向かって左のオレンジ色におずおずと腰をおろす。
「これから何が始まるんだろう?」
さまざまな観客の気持ちとそれぞれにシンクロするように、続いて、茜空がヘラヘラニコニコした表情で、川瀬あやめが期待に満ちたひときわ目を見開いた顔で、芹澤もあが楽しみながらもどこかオドオドした目を泳がせて、結城りながキャッキャ言いながら、葵るりが表情ひとつ変えずに、それぞれ別の空間で、同じ椅子に腰をおろした。

overtureが流れはじめた。
ゆっくりとスクリーンが上がっていく。

6人は既にステージに立っていた。
誰ひとりとして、笑顔は浮かべていなかった。
数日後の配信で明かされたところによると、暗がりの中、緊張感から芹澤もあは、人知れず涙を一生懸命にこらえていたという。

この6人で、またこの場所で3年ぶりの「ALLOUT」は始まった。

『Believe』から始まったALLOUT SECOND

ゆっくりとゆったりと『Believe』のイントロが流れ始める。
3年前と同じ曲からのスタートに、客席でも、その刹那、息を吸う音が聞こえたような気がした。(マスク越しだから、勝手な錯覚なんだけれど)
音域の高低差はそこまで大きくないながら、ゆっくりとしたテンポゆえ、途中のユニゾンの息が乱れると、すぐに観客にも伝わりやすい、実はなかなかにスリリングな一曲。
ライブで歌われなかった時期が長く(『Believe』が流れなかった舞浜の話)、この6人がファンの前で披露するのは、配信ライブやリリースイベントを含めても、今日が3回め。

夢の先に続く 路の途中で
いま わたしたちは 輝いてる
いま 確かにほら 輝いてる

Believe - 桜エビ~ず

アウトロがゆっくりと止まる。
結城りなは、歌いながらゲネプロでボイトレの先生から受けたアドバイスを思い出していたという。「すぐそばの、目の前にいる人に語りかけるように、音量を下げて”引いて”歌うことを意識する」
ステージで、6人は、それぞれの位置で言葉を息とともに吐き出し、そして、しっかりと板の上に立っていた。

あの日の約束 間違いにしたくない

3年前、水春が、このステージで、最後に涙ながらに語ったこと。

「今のアイドル界というのは、どうしても、売れるっていうか上に行くのが難しい感じがあるんですけど、それを破るのが桜エビ〜ずでありたいなと思っています。
だから、スターダストの中でも、あの怒られるかもしれないんですけど、ももクロさん以上を目指していかないといけないと思っています」

水春「ALL OUT」MCより

川瀬あやめが、とある配信で、なにげない調子で「そういえば、この間、水映と久しぶりに会ってご飯食べたよ」と明かしたのは、3週間前だった。

コロナ禍での日常を過ごすうち、普段の生活でもライブ会場でも、知らず知らず、心地良いディスタンスを取ることが当たり前のようになってしまった。
毎日会って、時には、口泡飛ばしながら口論することだって、帰り道でハンバーガーとシェイクを片手に、20cmの距離で顔を突き合わせながら、あてのない会話をするのだって、当たり前だった3年前。

「あの日の約束 間違いにしたくない」というパートを歌っていた水春は、今日はこのステージにはいない。
けれど、あの日の覚悟はまだこの場所には冷めずに残っている、と思う。思いたい。

多くは語らないながら、水映と「グループのこと」についても話をしたという川瀬あやめの言葉に、あの日、会場中の誰しもが確信して疑わなかった「上りつめる」夢だって、まだ息づいてることも思う。

間髪をいれず『MORE!×3』のイントロが流れる。
舞浜で6人のスタートを切ったこの曲が、号砲が切られて少し走ったあとにマラソンのスタート地点にたどりついたような、そんな不思議なファンファーレのように感じられた。
あと43曲。
走り切った先に、いまの6人の何かが見える、そんなスタートだった。

らんらんメドレー

最初のブロックが終わり、簡単な自己紹介MC。
「これからあと何曲あるのか、そんなことを忘れさせるくらい、皆さんと楽しい時間を過ごしていきたいと思います」
とやんわりとテンションを上げる村星りじゅ。

『恋、いちばんめ』から『can't go back summer』へと続いていくステージ。
いずれもヤマモトショウが携わった曲だ。
間に『オスグッド・コミュニケーション』が挟まる3曲。

いつしか「楽曲派」と括られるようになった一群のアイドルグループの中で、特にヤマモトショウが提供する楽曲は、いつまでも聴いていられるダンスミュージックの心地よさのなかに、ちょっとした音の引っかかりやうねり(ギミック)が入っている。
自身が音楽プロデューサーを手掛けるアイドルグループfishbowlでは、曲間を空けずに、ライブ独自の繋ぎ(ブリッジ)をアレンジして、客を踊らせる、踊り続けさせるのに長けている。

これとは対照的に、『オスグッド・コミュニケーション』の作曲ピオーネは、バンドサウンドを基本としてでひずみを入れてくる。
このあとに控えている『灼熱とアイスクリーム』のイントロギターや、『お年頃distance』の印象的なフレーズも、ピオーネならではのもの。
彼も、美味しい曖昧というアイドルグループをプロデュースしているが、曲間の繋ぎは、ヤマモトショウのように切れ目なく音で繋ぐのではなく、開放弦の鳴っている間に、次のイントロをかぶせる方法が多いように思う。

「次が6曲目なんでぇ…」
「もあちゃん!ノーー!シーー」
「数えたらキリがないんだから、みんなも数えちゃダメなんだから…ということで、こんな形でお送りします」
そんな茜空のMCに続いて始まった、11曲連続の怒涛の「らんらんメドレー」。

これがとにかく圧巻だった。
曲と曲との”音”のパズルを探すように、また振付のキメとなるストップモーションをあえて否定するように、アウトロからイントロと思いきや、アウトロからAメロやサビにつないで、目まぐるしく桜エビ〜ずとukkaを、るつぼに見せていく演出。
音も動きも止まらない、『はっぴースキップ☆ジャンプ』(2016)から『ウノ-ウノ』(2020)までの時系列を行ったりきたりする約15分間は、まごうことなく、彼女たちの技術の、いや熟練と試行の積み重ねの上にあるものだった。

この3年間、ライブの曲間に客席から声を出せない状況は、時に、アウトロとイントロが拍手でしか埋め合られない単調なルーティンであるようにも感じられた。
そのことは、もしかしたらTikTokやさまざまなショート動画が、フラッシュでスキマなく押し寄せてくる日常生活の余裕のなさに、いつしか大量に慣れてしまった悪癖なのかもしれない。
あるいは、数々のエンタメで「手数」「ギミック」がもてはやされることに、いつしか毒されていたのかもしれない。

ただ、この日の自分には、全曲をフルで聴きたい気持ちは湧かなかった。
ただただ圧倒的だった。
そして、その後ろに、考えたらめまいもするようなメンバーやスタッフの鍛錬が見えた。

真打昇進

怒涛のメドレーが終わり、いったん舞台袖に引っ込んだメンバー。
またスクリーンがおりてくる。
座って待っている村星りじゅが映し出される。

遅れてドアから入ってきたのは、歳頃合がずいぶんと上に見える男性。
落語家の入舟亭扇遊(69歳)だった。

落語界は、入門後、前座〜二つ目〜真打と修行を重ねて、少しずつ昇進し、おおよそ15年かけてようやく真打となること。真打となって初めて「師匠」と呼ばれるようになるけれど、何も努力をしないこと・停滞することが、後続が自分を追いつき追い抜いていくのを意味すること。
「どんどん新しい若いのが出てきますからねえ」
アイドルだってそうだ。淡々とした語り口に、ひたすら真っ直ぐなまなざしで聞き入る村星りじゅ。
デビューして7年間、一度も休まずにステージにずっと立ち続けた村星りじゅは、少しずつ少しずつ歩を進めてきた。
落語界と違って、アイドルは段位や階級が定められているわけではない。それぞれのグループやメンバーの技術に点数がつくわけでもない。

ただ、そこで見続けているファンの数が多いか少ないか。

はじめから目をひくようなパフォーマンスができたわけではない。あるいは、瞬きしている間に、大きく魅せ方が変わっていた、というタイプでもない。
7年間、ずっとひたすら積み上げてきたもの。
師匠が問うた「この仕事が好きですか? 芸事は好きじゃないと続けられないんです」いう質問に、笑顔で「歌って踊るのが、それを見てもらうのが好きです」と言い切った村星りじゅ。
この人の歩みには、いつも迷いがない。
次に行こう、明日も一緒に頑張ろう。

茜空が、この部屋で出会ったのは、大道芸人のGREGOだった。

誰かがあらわれるのを待つ間も、そして、そこのドアがいつあけられるんだろうと見ている間も、緊張したときに見せる、ゆるい笑みがこぼれる茜空。
ドアを開けて入ってきた、ずいぶんと長身の外国人(と思われる)に、さて、なんて声をかけようか?

“Nice to meet you.”
確かにそう聞こえた気がする。
“Do you speak English?”
GREGOが問いかける。
“A little”
いつになく小さな声で、片手の指先で2センチほどのスキマを作りながら、顔の表情だけで答える茜空。

「この人のことが好きだなあ」とはじめて強く思ったのは、いつだったろうか?
きちんと覚えていないけれど、ゆるんでいた表情にこちらの気持ちもゆるんでいる状態のときに、このクルクル変わっていく表情を追いかけてしまって目を奪われたんだったよな、たしか。

パフォーマーとして、プロとしての意見交換。
GREGOがいくつもの国で大道芸を披露してきたという話から、ukkaもいずれ(久しぶりに)海外でライブをしたいの、という話に及ぶ。
もしかすると、そんな時にもきっと武器になるだろう、茜空の表情、そして手足指先の先の先まで統率下に置こうとする強い意思。

「自分で納得がいかなかったパフォーマンスのときでも、ファンの人が褒めてくれるとき、どうしてもそこにギャップを感じる」
いつだって目標を高く持って、ときに自分をしゃかりきに追い込む茜空は言う。
「ファンの人は、演者が見えていない、いい部分が見えているんだから、受け止めたらいいと思いますよ。あなたはそれができるんだから」
確かそんなことをGREGOは言った気がする。

have a nice day.
エンタテインメントを生業とするふたりが交差した先に、画面越しに、また一つ茜空の目に、魂のカケラが宿った気がした。

川瀬あやめが、占い師のシウマが入ってきたことに、全身で喜びを表現する。

とにかく会いたかった〜!マジ〜?とキャッキャ笑いながら、大きな目を見開いて、画面いっぱいにアップでうつし出される顔。
かわいい。

外に向かって、チームのことを何か発信すること・言葉を吐き出すことが、結果的にチームをより一層強くしていく。
メジャーデビューが決まった以降、いつしかリーダーとして、グループの覚悟を外部で言葉に出す機会が増えた。
今まで出会えなかった人たちに出会いにいく1年にしたい、ukkaのことや自分のことをもっともっと世間に知ってもらいたい、そう言っていたのは、20歳の誕生日だっただろうか?

この3年間で、一番、外部での個人仕事が多かった川瀬あやめ。
出て行くたび、確実に何かを持ち帰ってきた。
「夢かあ、私の場合かなっちゃったんだよねえ、アイドルになれた時点でさあ」嘘いつわりのない、うそぶいた口調。
この日の川瀬あやめは、アイドルとしてだけではなく、パフォーマーとして、どんなに意地悪な見方をしたとて、まったく非のうちどころがなかった。
そのことが一番わかっている本人も、はっきりとそう宣言をした。

小さすぎるセンターステージ

転換映像の終盤とともに、暗がりの中、センターステージに向かうメンバーの姿が見える。
開演前にも、少し小さめだなと感じた急ごしらえのステージは、いまの6人にはより一層小さく見えた。
物理的な意味ではなく。

『時間。光り輝く螺旋の球。』の終盤、いつものように茜空のソロパート前で一瞬時がとまる。
大きなステージで、セットリストに選ばれることの多いこの曲。
両手で、時計の針が刻まれる様子をダイナミックに表現されるフォーメーション・振付は、かつて水春がメンバーとして初めて挑戦したものでもあった。
今日は、小さなステージで、いわば手のひらの懐中時計で時を刻んでいるように見える。
日々、ukkaにもいろんな物語が刻まれている。
大きな物語と、僕らの目には届かない小さな物語と。
時計の針は、職人の手を離れても、こうして時を刻み続ける。
それは、もしも近い将来手に負えないサイズになっても同じように。

サブステージでの、このブロックは3曲。
客席との境がほとんどない場所で、沸かせるというよりも、魅せるブロックをやり切ったメンバーは再び脇に去っていった。

そしてまた、スクリーンが静かにおりて転換VTRが流れはじめる。

何者

ニコニコと椅子に座って待っている芹澤もあが映し出される。
ドアを開けて入ってきたのは、後藤祐樹だった。

少しの驚きの表情とともに、芹澤もあの顔に浮かんだのは、親愛の情だった。
友達に接するような、それでいて久しぶりなよそよそしさを「ですます」調で表しながら。
父親が対談相手だということは、事前には全く知らされなかったという。
でもそんなことは感じさせない大物感というか、動じない鈍感力というか、頬を少し膨らませながら、話が始まる。

2006年に芹澤もあが生まれたとき、後藤祐樹は19歳だった。
本人がVTRの中で語った「いい思い出がなかった」わずか2年少しの短い芸能生活は、それから遡ること5年ほど前。

そんなことより、とにかくこのユウキという子は中学生なのである。見た目も子供だし、芸能界というものをどう考えているのか、歌手(というか、この子はほとんどラップ部分担当といった感じなのだが)という職業を選んだということはどういうことなのか、などという問い掛けはもちろん、「将来」についてさえ質問するのもあまり意味のないことに思えるくらい若い。

ナンシー関「耳残り」(2001/1/22)
-EE JUMP ユウキ “最終的には紅白歌合戦です”-

ローティーンの若者が、自分ではない大きな看板を背負って、芸能の道を進んでいくこと。
ミドルティーンになり、いつしか、まわりの大人の事情にも気づき始めたときに、自分がもしかしたら「何者」でもないのかもしれない、という不吉な予感に苛まれること。
そんな予感に抗ううち、ふとしたことにちょっとつまづいて、道が閉ざされること。
それでも、年齢を重ねても、折れずに「ほかのだれでもない何者」かでありたいという強い葛藤は残っていること。

まだ大人ではないのです

桜エビ〜ず  - ねぇ、ローファー。

転換VTRあけ、芹澤もあが、心なしか不安げにも見える姿で歌うソロパートを聴きながら、ふと「娘の前で、少しは大人になった自分を演じないといけない」かもしれない男親の気持ちを思う。

明日になったら、わかったような大人が、何者も目指さなかった大人が、外野からあれこれと言ってくるかもしれないだろう。
それもこれも飲み込んだ上で、ここでいま互いにタッグを組んで、堂々と芸能のメインストリームを歩んでいこうという覚悟。

ライブ中のこの瞬間に思っていたことを、芹澤もあは、数日後の配信で振り返って、
「VTRを見て、もあのことを応援してくれている人がどう思うんだろう、と思いながらステージに出てきたら、変わらずにペンライトを振ってくれている姿が見えた。みんなの顔を見ちゃったよ」
と語っていた。

信頼関係は、ふとしたことで崩壊する。
ましてや、遠くで別の生活を営んでいるとなれば、そしてそこに第三者が介在しているとなれば。

でも、今回のメジャーデビューが、この親子と取り巻く人たちにとって、関係を近づけるきっかけの一つになったんだとしたら。

この配信で、いくつかの高額ギフトを投げて、その日のランキング1位になったのは、後藤祐樹だった。
ランキングを読み上げながら、芹澤もあは、近くの”マミー”に、半ば雑な口調でそのことを報告していた。

もう子供ではないのです

桜エビ〜ず  - ねぇ、ローファー。

エースと台風

映像に戻る。
見ている側の少なからずの動揺とともに、画面は一人で待つ結城りなに変わった。
部屋に入ってきたのは、葵るりだった。


ライブでもなく、配信でもなく、カメラが取り囲む中での二人のおしゃべりは、わずか一年前の舞浜、自分たちの初ライブからの道のりに及ぶ。
「ドキドキして損しちゃったよね」
カメラがまわっている緊張感があるんだかないんだか。不思議な距離感の二人の会話が進む。

「るりが、歌もダンスも好きになっていく様子がわかる」
結城りなが言う。

結城りなは、この1年でukkaのエースの一人になったと言っていいのではないかと思う。
絶対的なボーカルの安心感。MCや配信での言語力の高さ。そして何よりukkaを、ukkaのファンを、心から好きだと言うことが滲み出ている笑顔。
結城りなが加入して、毎週30ないしは60分の音声配信をするようになって、見ているほうにとっては、舞台裏を言語化して伝えてくれるファンがひとり増え、より立体的になった気がする。

葵るりは、この1年、勢力を強めたり弱めたりしながら、ときに近づいたり離れたりする台風だった。
台風の中に吹き荒れる努力や根性は、うかがいしることは実は難しい。
ときに「沼」と称される、自己肯定感が強いように思える物腰は、メンバーで誰よりも長く芸能の仕事に携わっていることにあるのだろうか?
44曲を歌いきったあと、台風の目から、大粒の涙が流れた。
努力している舞台裏を明かさないのを、美学にしている彼女から、
「足を引っ張るわけにはいかないから、メンバーにもつきあってもらって、練習を繰り返した」
という言葉が明かされる。

「ライブっていいな、アイドルっていいな」
会場の誰もが思っていることを、涙ながらにやわらかい笑顔で口にする。
そういえば、彼女の推しが、昨晩久しぶりにブログを更新したんだっけ?
1年が経ち、ずっと葵るりがそうだったように、彼女からも勇気を活力をもらっている葵るり推しはたくさんいる。

オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

ライブは中盤から、そして終盤にかかっていく。
「そういえば、あの曲まだだな」ということを、そろそろ考え出さなくなってきた。
とあるMCのタイミングで、足が吊ったのか、それとも水分が足りなくなったのか、茜空が脇にはける。

茜空は、必ずしもいい出来ではなかった、悔しかったと後日、ブログ「ただそばに」で語っていた。

『キラキラ』で、渾身のロングトーンを真正面から受け取ったというのに。
『タリルリラ』で、「あそぼうよ」のささやきに翻弄されたというのに。
『エビバディ・ワナビー』で、「ALLOUTってなんですのん?」のアドリブに無粋なツッコミが口から出そうになったというのに。
そして、全編にわたって、いつものようにこっちはとにかく踊らされたというのに。

MCでの茜空は、いつになく”荒ぶって”いた。
「ALLOUT、2回目やるって聞いたときに、ホントふざけんなって思ったんですけど…ホントにこれ、ホントに大変だから」

メジャーインタビューが決まってから、雑誌のインタビューやメディアでのコメントで「どんなアイドルを目指しますか?」という質問に、繰り返し「高嶺の花の存在になりたい」と答えてきた茜空。
そのコメントには、必ずセットで「でも、SNSや数々の発信を通じて、いつもすぐそばにいるような、そう感じてもらえる存在でありたい」という補足が付け加えられていた。

踊ること、踊らされること。

茜空のステップは、ときに予定調和をはみ出すことがある。
それは、文字通り、ダンスのフォーメーションから一人だけ抜け出しているという形のこともあれば、ソロ歌唱パートでホームランと三振を繰り返すようなこともあれば、配信のカメラに向かっておよそ予想のつかない動きをとりこともある。
正しく踊ること、それは、ときに踊らされていることにほかならないように思う、いつも茜空を見るたびにそんなことを思い出す。

「(今日ステージに出て)ALLOUTってあったかかったなと思い出しました」
「みなさん、今日は楽しかったですか?」
と問いかける茜空。

この日のフロアは、いつになく観客層がまちまちだった。
ukkaを一途に古くからずっと応援してきた人、普段は他のアイドルグループを中心に追いかけている人、自分のようなアルバム「octave」あたりから通いはじめた人、コロナ禍以降にファンになった人、あるいはメンバーの友達や家族。
たぶん、ライブの楽しみ方や表現の仕方は、それぞれの層・ukkaを見てきた時期で違っている。
普段は交わらない層がごちゃ混ぜになる中、川瀬あやめが「塊のように手が伸びてきたの、久しぶりだったよ」と表現するくらいの会場の一体感。

正しく「踊らされている」中で、躍動する茜空は、そばにいるようにも、遠くにいるようにも感じなかった。
ただ、1000人の人間が、同じ空間で同じ空気を吸っているという実感だけがそこにあった。

「この6人になったことを、自分たちがひとつの正解にしていきたいなと思っています」
そして、
「わたしが、みなさんの光になりたいと思っています」
と言葉を紡ぐ茜空。

この言葉からさかのぼること、15分。
オーラス『リンドバーグ』で、ソロパートをメインステージで歌い終わり、客席の隙間を文字通りかき分けるようにサブステージの5人に合流した茜空。
彼女の視界360°に、久しぶりに「ディスタンス」ではない観客の姿が飛び込んでくる。
未曾有のパンデミックで、ずっと「ファンのそばにいる」ことの難しさ。
ローティーンからの10代のほとんどを桜エビ〜ずとukkaで過ごし、彼女は次の3月に20歳をむかえる。

アイドルになるつもりではなかった小学生は、ずいぶんと遠くまで歩んできて、そしていつでもファンのそばにいたいと願っている。
そして、やっぱり彼女には今しかない。

今日も、茜空は最後には泣いていた。

ばいびろーん

「以上、ukkaでした。ありがとうございました」

上手から並んでいる順番どおり、メンバーはそれぞれ舞台袖にはけていった。
芹澤もあも、今日はあっさりと「ばいびろーん」と言って去っていった。
最後までステージに残ったのは、村星りじゅだった。
深々とお辞儀をして去っていったあと、会場中には鳴り止まない拍手。

…に加えて、思い思いのオタクたちの声が響き渡った、と本当は書きたかった。そう、まだまだ、かつての喧騒が戻るのには時間がかかりそうだ。
耳の奥で、ふと、メンバーの名前を叫ぶがなり声が、残響のようにあるいは生霊のうめきのように聞こえてきた気がした。
《もちろんそれは、この日は空耳だったわけだけれど》

声には出せない中で、僕らは今日、このライブへの感謝を十分にメンバーに伝えきれただろうか?

3年という時間、ukkaはどこまで遠くまで来れただろう?
川瀬あやめは、後日の配信で、前回ALLOUTとの4つの違いをあげて、改めて「今まではできなかったことが、当たり前のようにできていること」について、ファンとスタッフへの感謝を伝えていた。
 ① イヤモニを作ってもらえたこと
 ② センターステージを作ってもらえたこと
 ③ 衣装が一つのライブで2種類用意してもらえたこと
 ④ ずっと同じライブスタッフが帯同してくれていること

ALLOUT SECONDの前、何人かのファンたちも、3年前と自分たちの立ち位置が変わっていることをつぶやいていた。
渡航制限が緩和されて久しぶりに海外からやってきたファンや、前回ALLOUT以来の久しぶりのライブというファンの姿もあったという。
そして、まだ出会っていない未知のファンたちを巻き込んで、ukkaはどこまで遠くに行けるだろうか?

ノスタルジーに浸っている暇はない、メンバーとチームukkaはどんどん先に行っている。
不確定そうな未来より、まずは11月16日だ。

「ukkaか、、、少しちゃんと追いかけてみようかな」
3年前、川崎行きの電車を待つ稲田堤駅のホームでふと思ったこと。
今年も、同じ場所で、頭の中には同じ文字が浮かんでいた。

素晴らしいライブをありがとうございました。

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