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全国で不足する産科医 現場は「4K」?ー⑦

分娩取り扱い施設は減り、産婦人科医は不足している。ようやく知った現実。

とっくに悲鳴をあげていた現場

 ネットで「産婦人科医 不足」と検索してみた。一番上に現れたのは、大阪府豊中市立病院の医師が書いた「産婦人科医師不足と医療崩壊」というタイトルの文献だった。

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 最初の段落には「産科・周産期領域においては(…)医療崩壊の危機という段階を超えてすでに崩壊のプロセスにあると認識されています」と衝撃的な言葉が綴られていた。私が無知すぎただけで、とっくに産婦人科医は悲鳴をあげていた…。出産を経験していながら、無関心でいたのが本当に恥ずかしい、申し訳ない気持ちになった。

医師総数は増加、でも産科医は微減…

 厚生労働省によると、1994年には産科・産婦人科を掲げる病院が2281施設あったが、2019年には1300施設に減り、診療所は5509施設(1993年)から3327施設(2017年)に減った。
 医師総数は、1994→2018年に、23万519人→32万7210人と、約1.5倍に増える中で、産婦人科医の数は1万1391人→1万1332人と微減していた。
 集約化に伴い、病院勤務医の数は増え、昔よりも医師の環境は改善されつつある。しかし、働き方改革のためには依然として人手は足りない。近年は女性医師が職場の半数近くを占める。女性は子育てや家族の介護などでのフルタイム勤務を離れる割合が多く、同僚の当直負担の問題なども顕在化してきている。
(※医師にも生活があり、世代に応じて生活スタイルに変化があるのは当然だということは念のために書いておきます)

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産科医に衝撃を与えた「大野病院事件」

 産科医が不足している問題について尋ねると、医療関係者はみな「大野病院事件」を挙げる。帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した福島県立病院の産婦人科医が業務上過失致死罪で2006年に起訴された事件だ。判決は無罪だったが、事件を機に産科の志望者が激減したという。

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 その頃、私は18歳。事件のことは記憶にないが、医療情報サイト「m3.com」の事件から10年を特集した報道によると、今も医師の9割を超える人が「大野病院事件を耳にしたことがある」と回答するほど、医療界の中では衝撃を残した事件だったらしい。

考えたいのは、患者と医師の情報の非対称性

 産婦人科医の訴訟(民事)リスクは高い。 
 裁判所の資料(16年)によると、診療科別の医師1千人当たり訴訟件数は産婦人科医4・8件で、形成外科に次いで2番目に多い。
 元公立病院事務部長の幸地東さんは「患者と医師の情報の非対称性に問題がある」という。 
 がんの手術で成功率90%と聞けば、みな大丈夫だろうと思う。この時、医師は「10人のうち1人は亡くなる」と伝えているのだが、術後に患者が亡くなれば、遺族は「何か間違いがあったのでは」と思ってしまう。

 幸地さんは「医師が必要と考えた医療行為で刑事訴追されてしまった。みな、新しい命が生まれてくることに敬意を持っていて軽々扱っているわけではない。逮捕の可能性があるとなって、気持ちが折れてしまった」と言う。
 事件後、医師が少ない病院ではリスク回避のために分娩取りやめが相次ぎ、大病院への集約が急速に進んだ。 

過酷な勤務体制、減る出生数

加えて、分娩は昼夜を問わない。産婦人科医は週当たりの勤務時間、当直回数共に一番多い(19年、日本産婦人科医会=表参照)

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 一方で、「出産が減り、成長が見込めない分野」(幸地さん)でもある。 
 19年の出生数は、1899年の調査開始以来最少の86万5239人。お客さんは減る一方なのだから、診療所が次々と閉院し、新規開業がないのも納得できる。 

産婦人科は「4K」?

 日本産科婦人科学会学術集会のホームページにも「従来から産婦人科医療は『きつい』『きびしい』『きたない』といった所謂3Kの診療科とされてきました」とある。

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 近年では「きけん」も加え「4K」だそうだ。そんな中でも産科医を選んでくれた医師たちに、心から感謝したい。
 でも、私にとって特別な「お産」がそんな風に思われているなんて、悲しいなと思ってしまったのも本音だ。

(第8回へ続く)

こちらの記事は、「朝日新聞・滋賀県版」「滋賀夕刊・長浜版」に寄稿しています。両紙に掲載後、随時noteを更新して参ります。ぜひ、ご意見・ご感想をお寄せください。

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