感染対策と看護倫理

がんは世間の騒ぎを待ってくれない
健康な人でもがん細胞は毎日数千個で生まれ、そして私たち自身の免疫で死滅させているといわれています。その免疫の攻撃をすり抜け、生き残ったがん細胞が塊となっていく。そう考えると明日は我が身と身を引き締め、健康意識を高めていく必要があると感じます。心身共に健康であるためには必要以上に恐れる必要はないといえますが、少しでもそのような意識を持たれる方が増えるといいなと思っています。
メディアはされど友人や家族間の会話でもコロナウイルスの話題で持ちきりの中、昨日がんの告知を受けた方、今日手術を控える方、明日から抗がん剤治療が開始になる方、そして寛解期を迎えた方…様々な段階にある患者さんがいらっしゃることと思います。手術や診察に毎日携わる中で病気は世間が落ち着くことを待ってくれないことを実感します。
さて私は看護師であるものの県内での感染者数がまだ少なく、勤務先が指定病院でもなく、加えて整形外科勤務のためま日々行われる手術と目まぐるしい入退院に追われる一般業務を行う毎日を送っているため、実を言うとそこまで敏感になっていないというところがあります。もちろん医療職なので外出を控える、他者との接触は最小限に。そして自分が媒介者遠ならないようマスクの装着を遵守するなどの予防意識はありますが、ふと外に目を向ければ日用品の買い物に出かけた際の人の多さ、そして未だにマスクを装着していない人が目立っており非常に驚いています(マスク不足が深刻なのも分かりますがあまりに意識が低すぎる)。ダイエッターはパーソナルジムに通っているし、美容意識の高い方はエステにも足を運んでいます。とはいえ過敏になりスーパーの買い物カゴは誰が触っているか分からない!と言ってディスポ手袋が品薄になっているという話題も考え物ですが、私の住む県内のこの意識の低さは前代未聞だと思います。特に若い世代の方。週末はまだ繁華街にもそこそこ人が出てきているとのことも聞きました。
毎日感染対策のカンファレンスが行われ、今後指定病院以外での受け入れ要請がかかった際の感染病棟発足にあたっての志願者を求められたり(持病のない独身一人暮らしなので、同様の立場の人はみんな地味な圧力を感じています)、もしそこへ勤務するとなると従事した者は一定期間院内に隔離される方針が考えられたりと、仕事上でのストレスは満載です。医療者差別問題、怖いです。患者さんが肺炎を起こす度にびくびくしています。

「家族に会いたい」
導入が長くなりました。私は元々外出を好まないことに加え、田舎住まいで娯楽施設が圧倒的に少ないことも相まってあまりプライベートに関しては今の生活にストレスを感じない方なのですが、とある問題が一つあります。家族に会うことが出来ない、ということです。今回先にコロナウイルスについて触れたのは、健康な人より、ましてや我々医療者以上に過敏になっているがん患者さんの声をTwitterで目にするようになったからです。
※がん患者さんが最も心配されているであろうコロナウイルス感染後の重症化については、
日本対がん協会よりhttps://www.jcancer.jp/coronavirus-qa
にて現役医師の方が疑問、不安に答えてくださっているのでそちらをぜひご参照ください。慎重になるに越したことはありませんが、どうか不安になりすぎないで※

一番最初のnoteで記載しましたが、私は乳がん体験者ではありません。しかし、かなり近しい関係である家族に乳がんの既往があります。実家か、帰りたくても帰れません。既に寛解を迎えていることもあり家族全員から「帰ってきておいでよ」と言われますが、他者との関わりが多い仕事に従事している自分が媒介となってしまってはいけないという意識もあり、また何かあれば医療者はすぐに叩かれます。自分の行動は慎まなければなりません。それでも、患者さんは家族に会いたいんだ、と実感しました。

緩和ケアと面会制限
私の場合は寛解期を迎えた人との関わりなので、現状理解してもらい今は会えないことを伝えています(寧ろこれは一人暮らしの私の方が孤独で会いに帰りたい問題)。
しかし、入院中で、終末期にある患者さんはどうでしょうか。私の勤務する病院でも「不要不急以外の面会禁止」から「原則面会禁止」となりました。この原則禁止、とは手術説明や手術当日は家族の同席と待機が必要となりますので面会者として来院可能ですが、最低限の面会のみとさせて頂くことになっています。また緩和ケア病棟入院中の患者の家族は可、となっておりますがこちらも現在に至っては最低限となりました。難しいのが、最低限の面会とは?という線引きです。がん患者さんは、家族と一緒にいたいという思いが強いのです。そして、ご家族の方も会いたいと思っています。患者さんとそのご家族の方の最低限と、感染対策を徹底している医療者の最低限は明らかに違うことが目に見えて分かります。私自身、家族が入院していたらきっと、何とかして面会に行きたい!と思います。
飛沫感染対策のために、食事時の面会は避けていただきたい医療者と、ご家族の方と一緒に食事を摂りたい方。病院食が喉を通らないから、持参された物を食べたい方。県外から来られた方の面会は控えていただきたい医療者と、不安で寝られていない様子だから休まれるまで側にいてあげたい県外にお住まいのご家族の方。どちらも最低限の面会時間といえます。病院によっても対応は異なるとは思いますので、もし緩和ケア病棟で従事されている方や内情をご存じの方がいらっしゃれば面会制限の現状を教えていただけると幸いです。
そして緩和ケア病棟に入院している人だけが、終末期を迎えているわけではありません。特例で緩和ケア病棟のみが面会可となっていたとしても、一般病棟で最期を迎える人の方も多いと思います。ご希望されても、入棟が難しいこともあります。私も県内の個人病院など自院以外の事情には詳しくありませんが、一般病棟で看取る終末期の患者さんのご家族の方は十分に面会が出来ていないのではないでしょうか。ご家族の方にもまた、面会することによって自分が媒介者となり余命を縮めてしまうのではと思い悩む方もおられると思います。
医療者としては感染対策に目が向きがちで、がん患者さんのお部屋に限らず術後の身の回りのお世話をどうしてもしたいと一定時間以上のご面会をされている様子を見ると「大丈夫かな…」「早く帰宅してもらえないだろうか」「看護師で介助するのに」と思ってしまいます。実際のこの問題に直面している看護師の方は多いのではないでしょうか。そして、患者さんご自身やそのご家族様も、思い悩んでいるのではないでしょうか。答えは出ていないし、こうしたジレンマはなくなりません。
それでもぜひ、したいこと、悩み事があれば医師や看護師に相談してください。私たちは患者さんを主体として出来ることを精一杯考えます。時にはやるせなさや機関の制限に苦しむこともありますが私は、我々医療者にが見る世界と、患者さんにとって見えている世界は全く違うものと認識して、その人それぞれの立場に寄り添うことを忘れずに明日も仕事に励もうと思います。

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