サブウーファーを作った②

 前回は丸々サブウーファー作成に至った動機を書いてしまったので、やっとここから設計の話に入る……と言いたいところなのですが、その前にサブウーファーについての情報収集の話をば……

餅は餅屋、サブウーファーはカーオーディオのプロショップ

 彼を知り己を知れば百戦危うからずと孫子は言ったものですが、当時の私はサブウーファーについて「きっと低音がボンガボンガ出るものなんだろうな」程度の認識しかありませんでした。当然こんな程度の知識でサブウーファーの設計ができるはずもないので、インターネットで先達の知恵を収集し始めたのでした。

 そこで意外だったのが、サブウーファーの知識や作例というものの多くがカーオーディオに関係しているということなのです。特に今回自作したようなパッシブサブウーファーなどはまさにカーオーディオの牙城というべきなのか、ここら辺の話はホームシアターともピュアオーディオとも一線を画すようで、いちいちカーオーディオの専門用語を調べるような有様でした。

(ところでこの知識的偏りは、音作りへのそれぞれの姿勢の違いが反映されていると言えます。カーオーディオは、自動車という音を聴くには絶対的に不利な環境が前提になっていますから、ソースに極力手を加えないいわゆる「原音再生」より、多ユニットとDSPを駆使した積極的な音作りに抵抗がないのでしょう(というより、そうせざるを得ないのです)。対照的にピュアオーディオでは聴取環境を最適化できるので、ステレオ音源を忠実に再生することが大命題となります。そうなると音声信号をフィルタリングするサブウーファー、特にステレオ信号を合成する単体サブウーファーというものが敬遠されるのも無理からぬ話です。またホームシアターではサブウーファーは必須装備とも言え、最初からサウンドシステムに含まれていることも多く、やはり単体で自作するような需要はあまりありません。)

 ちなみに既製品のサブウーファーを導入する選択肢も当然あったのですが、ピュアオーディオやホームシアターではサブウーファーはあくまでアドオンという位置づけが多く、手軽さを訴求するためにフィルタやパワーアンプが組み込まれたアクティブ式がほとんどで、私の求めるところとミスマッチを起こしていました。一方カーオーディオ向けの完成品サブウーファーはパッシブ式が多いものの、トランクに設置する前提なのでデスクトップ周りでは使いにくく、カーペット巻き仕上げではメインスピーカーのSC-E535とちぐはぐになってしまいます。

 こうした経緯から、主にカーオーディオ系の記事や作例を参考にしつつサブウーファーを自作しようと、そういう心積もりになったのでした。

密閉 or バスレフ

 サブウーファーのエンクロージャー構造は、密閉とバスレフの2種類があって、それぞれに一長一短があります。ここら辺の話はいろんなところで言及されているのであまり細かくは言いませんが、密閉式は周波数特性が素直で設計・工作が容易だが音圧は稼ぎにくくアンプのパワーも必要、バスレフ式は狙った帯域の音圧を稼げるが設計や調整が難しいといわれています。今回は密閉式を選んだのですが、それというのもバスレフの性格はともかく音圧を出したいという需要には合致しているのでしょうが、SC-E535との繋がりや聴くジャンルを考えると、兎も角低音が欲しいということでもないので無難に行くことにしたのです。また後でも触れますが、群遅延の面でも密閉式が有利なのだそうです。

スピーカーユニットの選択

 もともと工作は好きで、多少木工の自信はあったものの、とは言え初めてのスピーカー工作でバスレフを選択するほどの蛮勇はなかったので、エンクロージャーの形式はわりあいすんなり決まりました。ユニットの選定も似たようなところで、あまりT/S特性の話なども分からなかったので、こうした記事のおすすめユニットをそのまま使うことにしました。当初はコスパの良いP2Dx-10を検討していたけれども、F₀の低さとMms(振動系質量?)のずば抜けた重さからP3Dx-10に鞍替えしました。また低音再生能力からいうと口径は大きいに越したことは無いので、12インチ級も検討したのですが、振動版直径30cm、ユニット直径で35cmにも迫るとなると流石に置き場が無いだろうということで、10インチ級で我慢することにしました。

公称インピーダンスの話

 スピーカーのインピーダンス低いとパワーアンプからの電流も増えるので、結果的に出力が大きくなります。サブウーファーの駆動には手元にあるCP500Xを使う予定だったので、その出力に合ったインピーダンスでないといけません。P3Dx-10の定格入力は500WなのでCP500Xをブリッジ出力させて8Ω500W、あるいは片チャンネルのみ利用して4Ω250Wのどちらかが候補になります。ブリッジ出力もメリットデメリットがあるようですが、特にサブウーファーでは少々の歪率の改善よりダンピングファクターが半減することの方が心配だったので、4Ω片チャンネル250W駆動としました。どうせ500Wどころか250Wも鳴らし切らないしね。

 ちょうどデュアルボイスコイル(普通コイルが1つのところを2つにしてある)のP3D2-10は駆動コイルを直列につなぐと4Ωとなるのでこちらを選択。TSパラメータがP3D4-10(P3D2-10の8Ω版)より微妙に良かったのもこの判断を後押ししました。

スピーカーユニットと推奨容量

 スピーカー一般の話として、ユニットが大きくなればエンクロージャーも大きくなります。もちろんそれはユニットを取り付ける面積が必要だからということもありますが、それよりエンクロージャー内の体積を増やすことで振動板の動きの抵抗を減らすことが主目的でしょう。なので大口径のスピーカーは、正面の面積だけでなく奥行もたいてい増えています。

 もともと頭にこういう知識があったもんですから、初めてP3D2-10の推奨容積を見たときは目を疑いました。25cm口径のウーファーのメーカー推奨容積が16Lというのは、ピュアオーディオ的常識で考えれば明らかに容量不足です。実際、メーカーの公表しているティール&スモール(T/S)特性によれば(低音の音圧が落ち始める”肩”が最も低い周波数まで伸びる)平坦容積は27Lで(これでもかなり小さい方ですが)、その半分程度の容積を推奨するメーカーの意図がいまいち分からなかったのです。

振動系等価質量(MMS)と最低共振周波数

 そこで改めてT/S特性をよく読んでみましょう。先ほどちらっと触れたMMSという数字がキモです。MMSというのは振動系等価質量、大雑把に言うとボイスコイルが動かすコーンと空気の重量を合計したものです。普通この数字はサブウーファーで100g程度ですが(軽い方が小さな電流で動かせるので一般的には好まれる)、何を血迷ったのかP3D2-10では243gもあります。MMSが重いとそれだけ動かしたり止めたりするのに力が必要になりますから、余計な出力のパワーアンプが必要になるわけです。また一般に最低共振周波数f0はMMSが大きければ下がりますから、確かに重ければ低音再生能力は有利ですが、とは言え他のサブウーファー用ユニットを見ている限りでは25cm級ならば120gもあれば十分なようです。

 ではなぜこんなに極端に重いかというと、エンクロージャー容積を減らすためなのです。ここでやっと最初の話に戻ってきます。密閉式エンクロージャーではスピーカー内の空気はバネの役割をしますが、エンクロージャーが小さければそれだけ空気バネは硬くなります。硬いバネほど最低共振周波数は高くなりますから、同じユニットを大きいエンクロージャーと小さいエンクロージャーに取り付けたのでは、小さいエンクロージャーの方が低音再生能力は低くなります。しかし限られたスペースを有効活用する必要があるカーオーディオにおいて、低音再生のために大きなエンクロージャーを積むにしても限界があります。そこで硬いバネでも共振周波数を下げる方法を考えなければいけません。バネが硬いならバネ下重量を上げれば周期は伸びるってそう言えば高校物理でやったような気がしますが、ロックフォードフォズゲートの中の人は思い付いちゃったんですね。ならばMMSを重くしてしまえば良いって。なんと単純明快な解決策でしょう。私はそういうバカ正直な解決方法大好きです。

 とまあ謎が解けたところで今日のところはおしまい。

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