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イェイツ「再生」を思い返すなど

一時期、ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」を愛読していたのだが、そのシリーズの中で『拡がる環 (The Widening Gyre)』という作品があった。

この作品の題名の由来、それが、アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの詩、「再生* (The Second Coming)」の冒頭にある『めぐりめぐって環は拡がり、鷹は鷹匠の声が聞こえない、世は崩れ去り、中心は保たれない。』というフレーズからきており、また作品中で印象的に使われていたので、イェイツの詩集を落手して読み、時折この印象的なフレーズを想い出すようになった。
(*「再臨」と訳しているものもあり)

最近起きている様々な事象、それらに通底しているのは、今まで権威や常識、当然の習慣とされていた”中心”が”崩れ去り”、”中心が保たれない”世界が表れた、ということではないだろうか?と思う。

この詩が書かれたのは1912年と仄聞する。アイルランドは長年の飢饉に苦しみ、餓死や移民(主にアメリカへ)による人口減少が続いて疲弊し、イギリスから独立しようとする機運が高まっていた時期である(イースター蜂起は1916年)。

これが預言の類と言いたいわけでは無いが、人類は、こういう「天地晦冥(てんちかいめい)」のような出来事に、数世代ごとに出くわしてきたのだろうし、今がまさにそういう時期なんだと、納得するしかないのだろう。

そしてこの、今起きている「天地晦冥」が、「再生」につながればと思うのだ。

TURNING and turning in the widening gyre
めぐりめぐって環は拡がり、
The falcon cannot hear the falconer;
鷹は鷹匠の声が聞こえない、
Things fall apart; the centre cannot hold;
世は崩れ去り、中心は保たれない。
Mere anarchy is loosed upon the world,
剥きだしのアナアキイは世界にあふれ出し、
The blood-dimmed tide is loosed, and everywhere
血塗れた潮は拡がりつづける、とどまることなく。
The ceremony of innocence is drowned;
清めの儀式は忘れ去られた。
The best lack all conviction, while the worst
優秀な人々は一切の信念を失い、悪意は
Are full of passionate intensity.
熱情をもっていきり立つ。

Surely some revelation is at hand;
確かにある黙示は間近に迫ってきている。
Surely the Second Coming is at hand.
再生は間近に来ているのだ。
The Second Coming! Hardly are those words out
再生! その言葉が発せられると、
When a vast image out of Spiritus Mundi
世界の精霊が発する巨大なイメージが、
Troubles my sight: somewhere in sands of the desert
私の視界をぼやかす。 どこかの砂漠の砂の上で
A shape with lion body and the head of a man,
人頭を持つ獅子が、
A gaze blank and pitiless as the sun,
太陽の如き空白で冷酷な睨みを利かせつつ、
Is moving its slow thighs, while all about it
ゆっくりと歩き始めているのだ。
Reel shadows of the indignant desert birds.
その砂漠の上で鳥の影が円弧を描く。
The darkness drops again; but now I know
またしても暗黒が降りてくる。そして私は知る、
That twenty centuries of stony sleep
二千年の無表情な眠りは、
Were vexed to nightmare by a rocking cradle,
揺れ動く揺り篭の為に悪夢に悩まされることを、
And what rough beast, its hour come round at last,
そして、凶暴なる野獣が、その時が巡ってくれば、
Slouches towards Bethlehem to be born?
世に這い出ようと、ベツレヘムに向かって、身を屈めているだろう事を。

William Batler Yates "The Second Coming"
ウィリアム・バトラー・イェイツ「再生」




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