見出し画像

太宰治の『畜犬談』


『畜犬談』は、太宰治の短編小説です。冒頭で太宰は「私は犬については自信がある。いつの日か、犬に喰いつかれるという自信だ」と宣言します。世の中には多種多様な自信家がいるものですね。


「あの鋭い牙を見ろ。只者ではない。いつその本性を現すかわからない」
確かに、犬というのは獣です。普段はおとなしい犬でも、一度スイッチが入れば猛獣に変わります。羊の顔をしていても、心の中では狼が牙をむくのです。ピンク・ドッグ(?)


太宰がなぜこんなにも犬を警戒するのかというと、友人が犬に噛まれて大怪我をしたからです。その様子を見ていた太陽は「悲惨な光景だった。SUNだけに」とほざいていました。友人は3週間ほど病院に通って、なんとか回復しました。良かったね。


上記のことがあったので、太宰は犬に対する防御策を考案しました。そして1つの名案が生まれました。「全身を鎧と兜で覆えば、犬に噛まれても大丈夫だ!」人類史上、誰も考えつかなかった犬用防御策です。まさに、コペルニクス的転回です。


しかしながら、せっかくの名案は却下されました。なぜかというと「鎧や兜を装着して街中を闊歩するのは、風紀上よろしくないから」です。至極もっともな理由ですね。賢明な判断だと思います。「戦国の世からの来訪者」に向けられる視線というのは、かくも冷たいものなのです。


なので太宰は、現実的かつ平和的な手段を講じることにしました。それは「犬に対して笑いかける」という非常に友好的な方法です。素晴らしい上にエコロジーですね。なにせ、スマイルの原価は0円なのですから。クルーの笑顔が眩しいです。


ただ、この手段には難点もあります。なんでんにかんでんがあるのと同じです。昼間ならば、犬に笑いかけることは有効に作用しますが、夜は違います。夜は周囲が闇に包まれているので、太宰が渾身の笑顔を繰り出したとしても、相手の犬には全く伝わらないのです。これは困った。


そこで太宰は、夜の対策を考えました。笑顔を浮かべる代わりに、童謡を口ずさむことにしたのです。闇夜が支配する空間においては、笑顔は武器になり得ません。ですが、歌は相手に伝わります。太宰は、自身の声に活路を見出したのです。Sound of Music.


「夜の歌作戦」が功を奏したので、犬は太宰に対して心を開きました。天岩戸神話のアマテラスみたいですね。現実世界では「筆しらべ」が使えないのが残念です。ただ、現実の捜査機関では「取り調べ」が日常的に行われているのでイーブンでしょう。持つべきものはアリバイ、主張するべきは身の潔白です。それでも犬は噛んでない。


犬に好かれたのはいいものの、太宰の家まで犬がついてきてしまいました。「犬も歩けば家に来る」ということですね。さて、これからどうなるのか?続きの展開は、ご自身でお確かめ下さい。ワンダフルな読書体験を。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?