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小鳥が残したもの


どれぐらい昔かわからないほどの昔、ある山奥の村に、1人の青年が住んでいました。ある日の朝のことです。青年がいつものように目を覚ますと、見知らぬ小鳥が枕元で鳴いていました。「いったいどうしたんだい。なぜ鳴いているの」青年は小鳥にやさしく話しかけました。
 
小鳥は青年の指をチョンチョンと軽くついばんでから、おもむろに羽を広げました。その羽は、鮮やかな青色で覆われていました。「きれいな羽だね。自分が誰かもわからなくなるほどきれいだ」そう言って青年は、小鳥の羽をやさしく撫でました。小鳥は照れたように「チチチ」と控えめに鳴きました。
 
小鳥が青年のもとへ来てからというもの、青年の心は浮かれっぱなしでした。小鳥がいつも側にいるということが、青年にはたまらなく嬉しかったのです。「君が僕のもとへ来てくれて、僕はとても嬉しいんだ。いつまでも側にいておくれ」青年はいつものようにやさしく小鳥に話しかけてから、ゆっくりと眠りにつきました。
 
あくる日の朝、青年が目を覚ましたら、小鳥の姿は消えていました。青年は家の中をくまなく探しましたが、小鳥の姿はどこにも見当たりません。「どうしていなくなったんだろう。僕がなにかいけないことでもしたのだろうか」青年は自分を責めましたが、いくら自分を責めても、小鳥は戻ってきません。青年がどんな行動を起こしても、小鳥がいなくなったことは確かなのです。
 
「小鳥はもういないんだ。僕の前から消え去ったんだ」青年は悲しそうな表情を浮かべながら、それだけの言葉をなんとか絞り出しました。小鳥がいなくなったことを、やっとの思いで受け止めたのです。青年の心の中には、小鳥と一緒に過ごした毎日が、まるで宝石のように輝いています。その輝きは、青年の心をいつまでも明るく照らし続けたのでした。


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