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映画「君たちはどう生きるか」ネタバレあり感想


君たちはどう生きるか
ネタバレあり感想
勢いままに書き殴りです。ご容赦下さい。




ジブリの最新作なのに広告を一切しないという異常事態。
わかっていることといえばタイトルと鳥男のイラスト、124分の冒険活劇ファンタジーであるということだけ。
むしろこの情報さえも本当の内容を隠す隠れ蓑なのではないかと疑ってしまう。
タイトルさえも本当は違うんじゃないか。
情報完全秘匿での映画公開に胸が騒いで仕方がなかった。


映画はサイレンの音から始まった
軒並らぶ木造日本家屋の映像とともに炎の音と映像が流れる
「宮崎さんついに東京大空襲を描くんだ!
冒険活劇ファンタジーってひっかけだったんだ!」
と思った。
高畑監督の『火垂るの墓』への宮崎さんのアンサー作品が始まるのかと衝撃だった。
何より作画、カット、その後の映像全てがすごかった。
火事の状況を知るために家中を上に下に人が動き回る。
階段を駆け上がる姿を正面から描写してダダダダッと迫ってくるカットは
ジブリではいままでにあまりない描写で「おおっ」と思った。
そして人の動きが早い。
目で追いきれないほどビュンビュン動き回る、このスピード感がより緊急事態であることが伝わってくる、観客の心拍数が上がる。

少年が着替えて外に出ると、町中は人と炎でかき混ぜたよう
炎のゆらぎと人の輪郭がどんどん曖昧になっているのが
「これどうやって描いてるんだ!?」とドキドキした。
『風立ちぬ』の緻密な群衆の描写とは対照的であり前作を凌駕しているのではと思うほどだった。
この時に、この作品は主人公の主観あるいは記憶、思い出に基づいた描写の作品なのかなと思った。

火事で母が亡くなり、東京から父と田舎に引っ越すことになった少年。
東京を離れる際、町中を戦車が行進している。
この戦車がなんだかリアルではなくて、こんな戦車あるかな?と思った。
田舎のバスも到底入りきれない人数が詰め込まれていて違和感があった(少年の主観の描写なのか?)
この作品がリアルな戦時中を描いた作品なのか、もしくは昭和の日本を舞台にしたファンタジー世界なのかわからなくなった。

学校の黒板で主人公のフルネームがわかる、
主人公の牧真人。
田舎暮らしが始まる中、作品はどんどん不穏な空気が伝わってくる。
それは庭の池に住み着く青鷺の怪しさがそうさせる。
窓から覗く青鷺が大トトロの笑顔の様にニヤリと歯を見せ笑ったときに
「これは本当にファンタジー作品なんだな!」と確信が持てた。

怪しい塔に迷い込んだ、なつこおばさんを助けるために進む真人。
大量の本棚が朽ちかけた様な入り口、うまく説明できないけど、あの雰囲気はとーっても好き。
冒険が始まるワクワクした気持ちになった。
情報制限のおかげでシーンが変わるごとに全て新しく見るものばかりで
「今、まだ観たことのないジブリの新しい作品を観れている!」
という感動が逐一あり、良い経験ができた。

塔の中は何でこんなことが起こるのかよくわからない摩訶不思議な世界だったけれど
例えるなら和製『不思議の国のアリス』だと思った。
なつこおばさんは白ウサギ
白ウサギを追いかける真人はアリス
青鷺はチャシャ猫
インコはトランプ兵
インコ大王はハートの女王
タバコ呑みで行き先を教えてくれるキリコはイモムシ
ヒミは赤の女王


さて、1番今作で難解だったのが
「大叔父様とあの世界は何なのか?積み木の意味は何か?」
という点だと思う。
これは私もまだ明確な解釈と説明ができていない。
今私の拙い頭を捻って考えてみたことは

宇宙からの飛来物内部には強力な磁場が発生していた。
大叔父は磁場に気がつき、外部と遮断するため塔を築く。
塔内部では現実世界とは時間や時空を超えることができ、大叔父はここにユートピアを作ろうと考えた。
鳥は大叔父が鳥好きで持ち込んだのか、塔の窓などから入り込んだのかどちらか、またはその両方だと思う。
しかし、磁場はとても不安定な空間なので磁場の狂いを安定させるため積み木を使っている。
(少し形は違うが、ギリシャ神話に出てくる天を支えるアトラスのお話が思い浮かんだ)
磁場が強力とはいえ、大叔父様も寿命が近い。
自分の代替わりをしてくれるよう真人に頼む。

大叔父様は外の世界で人と関わることをやめて自分だけの美しい世界に閉じこもった人
真人にも同じ楽園で過ごすことができると誘うが
真人は冒険を通して気に入らない奴とも頼り頼られあって関係を築くこと、母親との和解と決別、新しい家族への本音を打ち明けることを経験して
「外の世界で友達を作る。」
と決断する。
真人はこう生きると決めた。
君たちはどう生きるか。


そんな感じの解釈です。
あとは気がついたことを羅列します。


1.随所に見られる過去作品へのオマージュ

田舎の屋敷内、使用人のおじじが座る囲炉裏の背景が、『千と千尋の神隠し』に出てくる釜爺のボイラー室の壁一面の薬箱に似ていた。

『紅の豚』の死んだ飛行艇が飛んでいく空の平原の対となる、死者の船が集まる海の平原
木造のガリオン船の様だったので真人の世界より時代が古い

『もののけ姫』のこだまたちを連想する、小さな生命の源のわらわらたち(ジブリ作品にいきなりサンエックスのキャラが入ってきた!?と思うくらい可愛かった、前情報無しで観れて嬉しかった要素の一つ)

屋敷のおばあちゃんが『トトロ』に出てくるカンタのおばあちゃんと似ている。


2.随所に見られるアート作品へのオマージュ

ペリカンが突撃した「お墓」とされる場所は
ベックリンの『死の島』にそっくりだった。
ベックリンには『生の島』という対になる作品もあるが、キリコさんが住む船島が生の島ということだろうか。

ベックリン「死の島」



母親からの贈り物の本の中表紙に描かれたミレー『種まく人』

ミレー「種まく人」



大叔父様が住む創造主の世界はマグリットの『ピレネーの城』を感じた。

ルネ・マグリット「ピレネーの城」



大叔父様につながる光の回廊は何かの作品のオマージュかもしれないと思ったけど、わからなかった。


3.汚さと生臭さ

今作では"あえて"なのか汚さと生臭さが強調されるシーンが多かった。

まず食事シーンが汚い。
父親の口の中に飯を入れたまま話す姿
あまり美味しくなさそうなキリコさんのシチュー
(でも、水道から水を汲んで飲むシーンの水の雫の滴りはとても美しかった)
豪快というよりは付きすぎなバタージャムパン

池の鯉と蛙に全身纏わりつかれるところ
巨大魚の解体と溢れ出る血と臓物(これはとても好きなシーン)
インコの大群と糞 


4.その他
木村拓哉さんの声の演技が良かった。
男前で独善的で、でも家族を愛してるお父さんが合っていた。
小ネタだけど、捜索に出る時にチョコを持っていくのが良かった。非常食大事よね。

若キリコさんの船の操縦シーンは登場して助けに来てくれる所から帰り道は脚で漕ぐところから全て良かった!
動きが美しいかっこいい!

インコのおっかなさが振り切ってて良い、インコが刃物持ってるだけであんなに怖いなんて。ホラー作品よりもゾクゾクした。


おわりに。
調べたところ今作は「失われた時を求めて」をモチーフにしてるとの情報もあるので、色々調べた後は解釈が変わるかもしれない。
とりあえず、観終わった後の熱を盛りつけもせず鍋ごとテーブルに出した感じの感想でした

まだ観ていない人のネタバレを踏んでしまうのが怖くてなかなかリアルでは話せないので、視聴済みの方のご意見があれば感想お待ちしています。

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