手術から1年が経った

2016年10月31日は経過観察のための通院日だった。
口内の視触診と首のリンパの触診によると異常なしとのこと。でも、あと半年くらいはリンパをきちんとみておかないといけないらしい。たしかに、以前の診察でも、最初の1−2年の再発が多いと言われた。5年間再発がなければ通院終了となる。

2015年10月に初期の舌がんが見つかり、手術をしてからちょうど1年経過したことになるので、ざっと振り返っておこうと思う。この1年の間だけでも心境の変化がとても大きかったから、あとから読んだときに、この頃はずいぶん深刻な気分だったよね、と思えたらいい。

病気が見つかってから手術するまでは、とにかく手術をしてしまうことを目指し、他のことはあまり考える暇がなかった。病気が見つかってから手術するまで、半月程度しかかからなかった、という時間的な状況が大きく影響していると思う。もしも長くかかっていたら、その間もっといろいろなことを考えて不安になっていただろう。

退院して職場に復帰した直後は、2週間くらい微熱が続きとても不安だった。医学が進歩した今でも、がんのしくみが正確にはわかっていないとはいえ、免疫機能がきちんと働かずに、遺伝子に異常のあるがん細胞の増殖を許してしまうことがよくないらしいと見聞きした。今回の病気を経験するまで微熱が続くという経験がなかったので、体の疲れや心理的なストレスで免疫力が下がっているのではないか、そのせいで熱が出ているのではないかと思うと恐ろしかった。

退院後すぐに、経過観察のための定期的な通院が始まった。頻度は4週に一回が基本。
検査がなければ診察は10分程度で終わることがほとんど。嫌だと思うこともなく、どことなく懐かしい場所に行くような感覚もあった。

3月、不意をつかれる形でフラッシュバックのようなものを経験した。きっかけはささいなことだったのに、自分ではコントロールできない不安感に襲われ、体中に乳酸がたまったみたいに重くなる感覚を味わった。このとき経験した不安感がその後も(今もと言えるかもしれない)尾を引き、2ヶ月くらい心身の不調が続いた。このとき初めて、病院に行くのがこわい、いやだなと感じた。
不安感があまりに強すぎて、医師などが運営する患者会による自立訓練法(自律神経を整えることを目的とした瞑想法のようなもの)のクラスに参加してみた。その後、継続して参加することはなかったけれど、自助グループのもつ効果の一端を実感した。いざとなったらあそこに行けばいいと思える場所があるのは心強いのではないか。

7月、職場で嫌なできごとがあった。自分に直接関わることじゃなかったのだけれど、それがきっかけで、自分が職場復帰したときの上司の言動に対する憤り、憎しみ、悲しみの感情がよみがえり、2ヶ月くらい苦しかった。自分がこんなに強い負の感情に支配されているという状況が病的にも思われた。時間の経過と事態の推移と共に、だいぶ落ち着いてきた気がするけど、許せていない。

この1年、病気のことが頭を離れなかった。音楽を聞いても、本を読んでも、映画を見ても、人と会っても、病気のことを抜きにして感じたり考えたりすることができなかった。手術する前はそんな風になるなんて想像していなくて、「手術すればけりがつく」くらいの認識でいたけど、甘かったな。こんなにいろいろなことが怖く不安に感じるなんて思いもよらなかった。

自分がいなくなることを具体的に想像したことで知ってしまった不安感は、退院直後の頃に比べればだいぶ和らいだように思う。
テレビでよく見かけたジャーナリストが2016年はじめにがんで亡くなった。そこまで思い入れのあった人ではなかったはずなのに、彼ががんで亡くなったという事実や、彼が生前にがんと共に生きることについて遺したことばにぐらぐらと揺さぶられた。
そのあと、知人に脳腫瘍が見つかったときも、どうかと思うほど揺さぶられた。
どちらも、過度に自分を重ねてしまっているなと思いつつ、そんな風に感じるように変化してしまった自分に驚き、こういう自分にも慣れていかないといけないのだなと思った。
さすがに1年経過した今では、そこまで揺さぶられることは少なくなったけれど、なにかにつけ「がん」という文字は目が拾ってしまうし(「がんばる」という文字列すら拾ってしまう)、著名人のがんの報道に触れると必要以上に追ってしまったり、本人の心中を想像してしまう傾向はまだ変わらない。

ちょっとした体の変化や不調に、これまで以上に敏感になった。また何かのがんなのではないかと極端な想定をしてしまう。敏感になりすぎて、むしろそれが体に悪いのではないかとすら感じる。早く病気に気づけば、今回の舌がんのように早く手を打てるのだからいいと思う反面、病気をする怖さをもう味わいたくないという、腰のひけた気持ちもある。

手術から最初の1−2年での再発がもっとも多いという。あまり先のことを考えず、次の1年も無事に過ごせるといい。

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