見出し画像

エンジニアリング:経営 = 51:49

(この記事は Livesense Advent Calendar 2020 掲載のために書かれています)

私はソフトウェア領域のエンジニアリングと人事・組織改善の掛け算領域でアドバイザーをしており、いわゆる「経営者」というかたから仕事を依頼されたり、場合によっては経営会議のような場に参加することもあります (リブセンスではこの 2 年半、執行役員会に参加し全社経営に関わってきました)。

その際、常に心がけているのは「経営、あるいは会社都合」と「エンジニアリング、あるいはエンジニア」が対立的な状況になった場合は、少しだけエンジニア (エンジニアリング) の方を優先するということです。2 社で合弁企業を作る時、ほぼ対等で作るんだけど、最後意見が拮抗した場合どちらが優先されるかを明確にするために、どちらかが 51% の株を持つということをするようですが、それとちょっと似た話です。自分の場合、経営とエンジニアリングであれば、51 % をエンジニアリングの方にしています。つまり、どっちも同じくらい大事なんだけど、ちょっとだけエンジニアリングの方を大切にしているということです。

というのも、大半の経営メンバというのは自然と会社都合を優先しているので、私のような立場は、エンジニア、エンジニアリングの都合というものを明確化して、綱引きとしてそちらの方の重要性を伝え、結果、エンジニアやエンジニアリングのコンディションが良くなることで、会社の経営も良くなっていく、という役割を果たす必要があるからです (つまるところ、エンジニアリングは経営に内包されるものなんですが)。

では具体的にどういう時にそれが活きるか?

今までリブセンスでやってきたことだと、3 年前、エンジニアの工数の 10% はエンジニア自身の判断で使う、というルールを提案して、経営会議で決議したことが挙げられます。事業によっては、短期的な事業数値達成ばかりが優先され、技術負債の返却やフレームワークのバージョンアップが後回しにされていました。そこで全社的に、せめて 10% の工数はそういうエンジニアリング独自の施策実施に充てようと決めています。つまり事業運営が 100% にならないように、一部エンジニアリングを優先させたということです。

今では技術負債返却や、長期的なエンジニアリング改善はその 10% の枠にとらわれず業務としてふつうに行われており、10% の工数はより各自のチャレンジングな取り組み、時には失敗するようなことに使おうということになっています。いま何をすべきか、いま何をしたいか、自分で考えるチャンスが常にあるというのは、なかなかいいことだと思います。

あと、社内のエンジニアリング・マネージャから時々聞いてきたのは「メンバーと 1 on 1 をしていると、メンバーのキャリアの方向性、つまりはやりたいことと、自部署の方向性が合わない。こういう場合どうすればいいのか?」という質問です。これも、自部署の都合を優先するなら、各自のキャリアの方向性には向き合わず、部署の課題を伝えて説得して、それにがんばって取り組んでもらう、というようなアプローチになりがちです。

ただ、理想状態を考えると、エンジニアは各自、自分のキャリアの方向性を明確にできていて、その方向性と、会社での仕事が重なり合っているからこそ、100〜120% の力が出し切れる、という方がよいはずです。また、それにわざと目を向けないようにしていると、ならそれがちゃんとできる会社を見つけようと社外に出て行ってしまうこともよくあります。それくらいなら、その人のキャリアに沿った取り組みができるよう、社内で異動をした方が全社最適の観点 (これも経営のひとつの機能ですね) でもより良い状態にできます。場合によっては、自部署でそのエンジニアがやりたいことと、事業改善の重なりを見つけられるかもしれません。

ということで、エンジニアリング・マネージャをしている人は、この 51:49 の法則を意識してみると、いろいろと良い方向に持っていけたり、迷いを減らせたりすると思います。あくまでも会社都合の奴隷にならないように! 逆説的ですが、奴隷にならないことによって、会社を良くしていけます。

一方で、自分が経営と現場の板挟みになって、51 の方の権益の代表になり続けると孤独でつらくなります。ですので、経営もエンジニアリングを自然と理解する状態にする、エンジニアリングも経営のことをある程度理解している状態にする、というように両者の対話、理解を深める機能も重要です。そもそも、「◯◯対××」みたいな構図、対立関係がよくありません。役割は分担していても、両者がたくさん対話することで、気持ちとしてはひとつのチームとして運営できていること、同じゴールを追っていることが重要です。51:49 の意識を通して実現すべきことは、本当はそちらの方です。

この著者の他の記事を読む:
* 1on1.md
* エンジニアリング・マネージャの技術との関わりかた、あるいは折り合いのつけかた

→ Livesense Advent Calendar 2020 の他の記事を読む

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?