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片想いの北方領土交渉〜佐藤優と今井尚哉の美味しい関係〜

・それまで「官邸官僚」に批判的だった佐藤優がいきなり今井尚哉と北村滋を褒め称えた。

・「影の総理」とまで報じられた今井尚哉をほめあげる佐藤優の真意が計りかねるところがある

・佐藤優は「日ロ経済協力」を推進する路線を維持することを政府に訴えるために今井尚哉をほめあげることにしたのではないか。

佐藤優は9/9、発行された有料メールマガジン「インテリジェンスの教室」の中で唐突に今井尚哉と北村滋を褒め称えた。該当部分を引用する。

安倍第2次政権の外交は、前期と後期に分けて考えることができる。前期は、谷
内正太郎国家安全保障局長、兼原克信内閣官房副長官補らが側近となっていた
時期で「自由と繁栄の弧」外交を展開した。日本が、米国、西欧、トルコ、イ
ンド、東南アジア諸国などと連携して、イラン、中国、ロシアを同時に封じ込
めるという戦略だった。率直に言って誇大妄想的だ。その結果、日本と中国、ロシアの関係は悪化した。ロシアとの関係では、対ロ
強硬派である原田親仁(前註ロシア大使)が政府代表に任命され、交渉を担う
ようになったため北方領土交渉は袋小路に入ってしまった。
3.-(2)
このような現実離れした外交政策を展開する人が徐々に権力の中枢から遠ざけ
られた。それに変わって官邸主導外交で大きな役割を果たすようになったのが
今井尚哉首相秘書官、北村滋国家安全保障局長だった。
3.-(3)
今井氏、北村氏は官邸官僚と呼ばれ、一部のマスコミはあたかも安倍首相の使
用人のようだと非難するが、不当な評価だ。官邸官僚と呼ばれる人の中には、
人格的、能力的に疑問符がつく人がいることも事実だ。しかし、今井氏も北村
氏は別格だ。
民主党政権のとき、今井氏は資源エネルギー庁の次長として、北村氏は野田政
権の国家安全保障局長として時の政権を全力で支えた。今井氏も北村氏も、自
分が仕えるのは国民の民主的手続きによって選出された時の政権であるという
認識を強く持つ。いわば民主主義国家日本に誠心誠意使える国士型の官僚だ。

「官邸官僚」というキーワードを好んで使い、事実上流行させたのは佐藤優その人である。

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佐藤優が急旋回して今井尚哉を褒め称えたのは、第二次安倍政権が退陣する中で空白のぽっかりあいた権力のなかで北方領土交渉を安倍政権路線のまま維持したいという願いが込められていたように思う。その後にもこう書いてある。

これに対して、石破茂氏が次期首相になれば、事態はかなり混乱すると思う。
石破氏は、安倍政権の「逆打ち」を政策として推進することによって自己の権
力基盤の強化に腐心するであろう。北方領土問題に関しては、冷戦思考の「四
島一括返還」を主張する袴田茂樹新潟県立大学教授を招いて勉強会を行ってい
る。
これまでの石破氏の北方領土に関する発言を見る限り、交渉経緯をよく理解し
ているとは思えない。ロシア側も石破氏が首相になった場合、日本の対ロ政策
が硬化するのではないかと警戒し、精力的に情報収集活動を行っている。
7-(2)
石破氏は、党内のみならず、財界の基盤も弱い。石破氏としては、検察を味方
に付けて、森友学園・加計学園問題、桜を見る会の問題など「安倍政権の腐敗
と汚職を徹底的に追及する」というポピュリズム的手法に訴えて、自らの権力
基盤を拡大することになるであろう。日本の内政は著しく不安定になり、外交
どころではなくなる。コロナ危機から脱却できない状況で内政の混乱は何とし
ても避けたい。

今井尚哉が主導して日ロ経済協力をまとめ上げたとの報道が正しければ、今井尚哉亡くしては佐藤優-鈴木宗男-東郷和彦の「2島+α」路線は頓挫してしまう。ロシア側の対日感情改善のためには日ロ経済協力3000億円が必要不可欠である……佐藤優はそう考えてるのかもしれない。

ちなみに、佐藤優は北方領土交渉について、今までより悲観的な物の見方をするようになっている。

ロシア側はこれまで、平和条約を締結すれば、歯舞群島と色丹島を日本に引き渡し、歴史的経緯と日本の国民感情にも配慮して、二島の引き渡しに加えて、国後島と択捉島に関しては、日本を優遇する特別の措置を講じるという立場を示してきました。しかしながら、ここにきてロシア側の交渉のスタンスは明らかに変化し、安倍首相の退任によって、こうした姿勢はさらに強まる可能性がでてきました。つまり、現在、日ロの間には、平和条約こそないが、外交・経済分野では安定した状態にあり、なんら問題は起きていないという認識なのでしょう。

佐藤優-鈴木宗男がこれまで10年くらい訴えていたことは、ロシアの対日感情を改善することが北方領土を日本に近づけ交渉を有利にすることになるという「経済協力先行型」の論法だった。

しかし、新憲法による領土割譲の禁止や、ロシア側の閣僚達からの「北方領土に米軍基地が置かれないとも限らない」というイチャモンに近い言い掛かりにより、一向に対日感情は改善されなかった。その中でも日ロ経済協力を追求していく最後の砦が今井尚哉である。

しかし第二次安倍政権が志半ばで突然倒れたから、急いで北村滋と合わせ今井尚哉を素晴らしい国民の宝に仕立てて留任させ、決まりかけた日ロ経済協力を既成事実として推進し彼らの願う「ロシア側の対日感情改善による北方領土交渉の進歩」を追求したいと言うことだと思う。

ところで、今井尚哉は首相補佐官を辞任することになり、数日後内閣官房参与に起用されることとなった。これは毎日新聞や朝日新聞が菅義偉内閣樹立前から飛ばしていた記事のとおりで既定路線だが、月刊誌「選択」には気になる書きぶりがあります。以下引用します。(月刊誌「選択」2020年10月号のP44)

「内閣参与に残った二人の明暗 今井尚哉は「冷遇」だが飯島勲は重用」
菅義偉政権の発足後も内閣官房参与として残った今井尚哉氏と飯島勲氏の明暗が永田町で話題だ。首相政務秘書官だった今井氏の参与就任は、菅政権に対する安倍晋三前首相の監視役。それは菅氏も承知で「今井氏は個室も与えられず、雑居の参与室で大部屋俳優扱い。武士の情けで公用車だけはつけてもらった」(官邸官僚)。という冷遇ふりだ。一方、飯島氏には菅氏側近から直々に「参与再任」の連絡があったという。

"影の総理"とまで呼ばれた今井尚哉氏の「官僚の夏」は終わりを迎える、後はおとなしく内閣官房参与として与えられた名誉職にしがみつくしかないのかもしれない。ある官僚の、キャリアパスの、終わり。

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