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【第2話】世界樹の迷宮Ⅱ マイギルド創作話 【第1階層編】

※本記事は、世界樹の迷宮ⅡHDリマスターをプレイしたときの体験をもとに脳内設定を膨らませて書いたものです。
※プレイ時に浮かんだ情景を一度アウトプットしたいと思って書き始めたのでほとんど自分用です
前話はこちら

・メンバー簡易紹介・ギルド名「フライングフィン(Flying Finn)」

第1階層クリア時のパーティ。

サーロイネン(Sahloinen):元魔物のガンナー。前回世界樹から落ちて彷徨ってた
ミヒンパー(Myhinpää):ドクトルマグスの歌好きなあんちゃん。前回サーロイネンを解呪した
カカリスト(Kakaristo):ブシドーのようなアルケミスト。前回ギルドを結成した
ハリュー(Hariu):サーロイネンの呪いを擬人化したカースメーカー。前回生まれた
ヴァスティラ(Västilä):おっさんバード。前回出てきてない
※前話登場順



The tower/灯りのない展望塔


塔・Ⅰ


ハイ・ラガードの背後にそびえ立つ世界樹、その上層で彼らは戦っていた。


それは、サーロイネンが街へ降りてくるよりも数年前の出来事だった。


彼らは、世界樹の頂点を目指すという意味の込められた「フライングフィン」と名乗っていた。
対峙していたのは、黒いオーラを纏った見たこともない強大な魔物。情勢は芳しくなく、ひとり、またひとりと地に伏していく。
後衛で支援役を担っていた男は立て直しを図ろうと、守護の効果をもたらす舞曲を奏でようとする。
「何やってる!今は先に敵の強化を打ち消すのが先だろ!でないと・・・」「ここで封じを入れれば安全を確保できる!早く速度の補助をかけてくれ!」
そのギルドはパーティメンバーそれぞれが個性的で強力な個人技を持っていたが、予想外の窮地に指示系統は混乱に陥っていた。

ただただ必死で声を張り巡らせる。

頭の中で考えていた進行、指先の神経に行き渡らせた楽譜、聞こえてきた旋律、
ここまで連れ添った仲間たち、彼らの名前、出自、得意技、
鮮やかな緑に照らす日射し、ひらひらと舞い落ちる火の粉、粉雪、薄紅、
過去、現在、未来、、、
手にかけた弦がふつと切れるが如く、全ての繋がりが穏やかに崩壊していった。

駆けつけたカカリストが死角から氷槍を穿ち魔物を撤退させた時には、彼は声にならない声を発しながら、楼閣だったものの砂粒を色のない瞳で拾い集めているだけだった。



数日間、仕事や研究の合間を見つけては見舞いに行っていたカカリストだったが、ついに彼の声を再び聞くことはなかった。
ただ一度目にしたのは、高速で何かを考え呟いているような唇の動き・瞬き少なく、大きく開かれた瞳孔・漏れ出でて頬を伝う汗。
つくづく自分勝手な人間だなと思うところではあるが、それでも普通でない思いを持っていた相手がそんなふうになっていくのを認められなかった。
彼を解放したいという小さな思いから、一緒に部屋を抜け出して星を見に行った。

次の日、彼はすでにハイ・ラガードを後にしていた。


・ ・ ・


Västilä・Ⅱ


どことも知れない辺境の小さな街
踊り子や歌い手が演目を披露するステージ付きの酒場で、彼はサポートとして弦楽器の演奏を担当していた。
ここでの主役はあくまで彼ら・彼女らで、自分は言われた通りに演奏をこなしていれば良かった。


「いい腕してるじゃない、歌は歌わないの?」
「はは、ありがとう、でもごめんね、おじさん歌はちょっと、、、」
「あら、自信ないのかしら?こうして話していてもなかなかいい声だと思うけど?」
自らをおじさんと称した控えめな中年の男性はにこやかに、照れ笑いを作りながら、「君みたいなかわいい子にそう言われると弱いけど・・・いや、やめとくよ。」それに・・・、という言葉が喉まで出かけて、作った表情がわずかに剥がれかけた。(それに、俺みたいなやつが歌う資格なんかないしな・・・)
彼はその手に持った弦楽器の腕は確かだが、声楽にかけては、どう頑張っても音が出せないでいた。それでも今は、自分にできることをやっていけばたとえどこへ行ってもやっていけるさと考えていた。


やれやれ、あのことを思い出そうとするなんて、今日はまいったな。
滞在している宿の扉を開けると、常に天然の笑顔を振りまく女将さんがこちらに気づき声をかけた。
「おかえりなさーい。あら、ちょうどよかったです。ヴァスティラさんが出ている間に手紙が来ていたんですよ」
彼女は一通の書簡を差し出す。
「でも不思議ですよねー。ヴァスティラさん、いろんなところを転々としながらお仕事されてるって聞いていたのに、これ、直接ここに届いたみたいなんです」

それはまさに青天の霹靂だった。

手紙の内容は、ある街の宿屋の部屋番号・・・簡素と表現することすら具体的な表現に思えるその書簡、使われている紙、筆跡、最後に彼女と空を見上げたときの匂い、、
目を見開く。差出人はただひとりしかあり得なかった。
この数年何の音沙汰も無かった彼女。突然の招待状には、彼は動かないわけにはいかなかった。
手紙から目をそらし、まぶたを閉じてゆっくりと息をはく。
(俺は、この時のために生かされてたのかな)

かつて塔がそびえていた場所には星が見えた気がした。

ハイ・ラガードへの支度はすぐに終えられた。




The star/アステリズムを結ぶ


女帝・Ⅰ


皇帝ノ月XX日
フライングフィンを結成してから半月が過ぎた。4人パーティであることと、結成前夜の出来事からのリハビリを兼ねていたこともあって牛歩な進みだった。5人目を呼ぶまではせいぜい1、2階で体をあっためておくに留めておこうと思っていたが、例の3人(人?)を引き止めるのには苦労した。

巫医の歌手ミヒンパーはモチベーションが高く、半月前から自分の歌の力を試せるのが楽しくてたまらないらしい。まあ、それだけに5人目を引き合わせるのが楽しみではあるのだが。

人ならざる銃士サーロイネンはどうにも行き急いでいる感じを隠せないように見える。仲間の能力を確認しながらも、今日はここまでにしようと提案すると決まって驚きの声を上げる。

そして生後半月とでもいうべきハリューは、誕生のきっかけとなった2人によく同調しているようで、サーロイネンのそばによく寄り添っており、ミヒンパーの歌声を楽しんでいた。(戦闘に関係なくても歌うのでサーロイネンは早くも呆れてきていたが。)
また、調査情報から推測した通りハリューにはカースメーカーの適性があるようで、まだパーティも不完全な中、搦手の呪いを駆使して第1階層としては十分な連携を見せてくれた。

Kakaristo


「なに書いてるの?」
急に声をかけられて柄にもなくすっとんきょうな声を上げてしまいそうになった。。。代わりに自分でもわかるほど顔には出たが。
表情を戻して振り返ると、一体どこから入ってきたのか、先ほど戦いぶりについて認めたばかりの彼、ハリューの姿があった。
一見無表情そうだが、顔を覗かせる仕草や声の調子からは、何かを追い求める者には必要な、混じり気のない好奇心の核があった。
さすがは、ただ伝説の城だけのために数ヶ月執念深く待っていただけのことはある。
まったく、おどかさないでくれ、、、と言いかけたのを素早く飲み込み、その神出鬼没の性質に感心を示し、ハリューの得意分野を再確認する。

相手に×××るにはまず存在を認めること。

ハリューからさらに有益な情報を引き出そうとするも、まだ顕現して日が浅く、戦い方を自覚するところまでではないらしい。
そのかわり、自分でパーティメンバーの戦略を考えてみたい、と言い出した。
ブレインを自負するのは驕っているだろうか。それでも、事情のまったく異なる相手の考えることには、その自負よりも大きな好奇心があり、聞いてみることにした。


…聞いた答えは、提案したのが彼でなければ突拍子もなさすぎて真剣に受け止められなかっただろう。
確かに、確かにそれならばどんな敵にも勝てるだろう。ただ、彼方が本当にそんな動きをし、此方が本当にそんな運に恵まれることがあるのならば。
毎戦闘全ての敵の行動を封じれる?・・・
非現実的な存在から放たれる言葉だったからこそ、そんな非現実的なことをを信じてみたい、試してみたいという思いが頭から離れなかった。

…封じたところでわたしが敵の弱点を解析し、サーロイネンの術式弾と合わせて一気に叩く、敵の意識を飛ばしたところに物理術式を叩き込む…か…
いや待て、わたしが術式を使うと公言したことは無いが?まあ、聞かれなかっただけで隠すつもりもないし、これから呼ぶあいつは知っていることだから問題ないか。。。
どうやらハリューには見抜かれているようで、やはり目を離せない奴だと、強敵と対峙したときのような温度を肌に感じた。

(先程の続き)
自分のことだけ書かないのもアンフェアな気がするので書いておこうか。
ハリューの指摘の通り、わたしはアルケミストの身でありながらブシドーのような身なりでいて、技の繰り出し方もブシドーのそれに近づけたものになっている。

なんでそんなことをしているかって?
小さい頃から世界樹の街エトリアに名を馳せた氷の剣士に憧れがあり、自分もいつかそうなりたいという気持ちと、結局アルケミストの適性しかなかった現実との間を埋めるため、
いや、無理やりにでも現実を変えるためにこんなことをしている。
そのために彼女を連想させるような氷と斬撃の術式を磨き、空気中の水分を術式で操ってよりブシドーに見えるような擬装まで施している。
この刀も杖をそう見えるようにしたものにすぎない。

ただタネがバレてしまえばやっぱりアルケミストでブシドーにはなれないので、ハリューには自分の努力が届かない領域を示されたように感じ苦笑するしかなかったな・・・

Kakaristo(ハリュー達が寝静まった後で)

・ ・ ・


Myhinpää・Ⅰ


今日の探索が終わり宿に戻る途中、2,3日に一度は酒場に寄って歌の練習と披露をするのが習慣になっている。大柄な酒場の店主はどうやらカカリストとコネクションがあるようで、良さげな仕事を回してくれて助かっている。
鼻歌まじりに注文した酒を楽しんでいたときに声をかけられてから音楽の話で意気投合し、酒場BGMとして貢献してくれるならと、他の冒険者も利用できるささやかなスペースを用意してくれた。


今日は既に先客がいるようだ。弦楽器の音だけが聴こえてくる。
店主はこちらに気付き、ギルド名と名前を呼びかける。
そのとき、弦楽器の音が曲の途中でピタリとやみ、先ほどまで楽器を弾いていた白髪の男性が一瞬驚いたような顔を見せ、すぐに親しげに歩み寄ってきた。
「君が、フライングフィンのミヒンパーかい?」
喋りの声からしても、歌えばいい声を出すに違いないとミヒンパーは確信した。
男は軽い調子で話を続ける。
「おじさんはヴァスティラってんだ。聞いたよ。ここの難しい店主をオトシてこんないいスペースもらっちゃって。ぜひ一曲どうかな?」
自分の歌の理解者が増えるのは願ってもないこととばかりに二つ返事で引き受ける。ここではお互い語らうよりも魂をぶつけ合う方が早かった。


Västilä・Ⅲ


なるほど、あの人が彼をギルドに入れたのもわかる気がする。
音程や技術はまだ未熟ながらも、たとえ誰に言われなくても自分が好きだから、で歌うことができる、そんな熱意と楽しさを感じる歌声だった。あの人にも似たところを感じるものがあった。彼女、夢を見ることを体現するような人だった。。。自分にもそんな頃があったかなあ、と物思いをしながら、何本かの線の上で指をあそばせる。
これから再び歩むことになる塔への同行者の第一印象は、まだまだもっと知りたくなる、発展の余地を感じさせるものとなった。
セッションを終えて酒場の灯りをあとにしながら帰路につく。

「あれ、おっさんもこの宿だったのか」とミヒンパー。
「ああ、奇遇だねえ」
フロースの宿の扉を開くと、女将ハンナの仕切る、溌剌としながらもどこか安心感のある空気に包まれる。
「あらおかえりなさい、まあ!久しぶりだねえ!元気してたかい?こんなしょぼくれになっちゃって、まったく心配したよ?あんたがいなくなってから・・・」「ああ、ありがと、ありがと。女将さんは変わらず元気でよかったよ。いつまでもそのままでいてくれるとうれしいな」
安堵と緊張が入り混じった心持ちで階段を上がる。
時間が経てば変わるものもあるし変わらないものもある。変わった方がいいものもあれば、変わらなくていいものもある。
「おい、そこは俺らの・・・」ミヒンパーの言葉を尻目に次の扉を開く。利用しているギルドの名前が掛けてある札には、Flying Finnと書かれていた。
額の斜め方向をひとしずくがつたう。覚悟して開けると、白雪のような彼女の姿があった。「やあ、遅くなった。」と声をかける。

「なーに格好つけてる」言葉とは裏腹に彼女はいたずらっぽく余裕のある笑みを見せる。ヴァスティラはその表情に相対するように、降参、とでも言いたげなはにかみを見せるのであった。




The moon/ゆがんだ水月


Västilä・continued


…緩んだ頬が再度引きつる。敵意のような鋭い感情が背に突きつけられるのを感じる。
背後から声がした。

「その部屋は私たちのギルド:フライングフィンが使っている。部外者が何の用だ。」
少しにやけた顔のままのカカリストが、呼応するように首を傾けて自分の背後の人物に返答した。
「部外者ではない。彼がフライングフィンのヴァスティラだ。ちょうど5人集まったタイミングだ、顔合わせをしておこう、サーロイネン。それにミヒンパー、ハリューも。」
振り返ると銃士の出で立ちをした中性的な人物が、睨み顔をわずかに残したまま、少し困惑するような表情でいた。彼がサーロイネンと呼ばれた人物だった。もう1人の姿が見当たらないと思って少し視線を落とすと、サーロイネンの服をつかんで後ろから様子を伺うようにこちらを観察しいている子供の姿があった。ハリューだ。
忘れられては困るとばかりにミヒンパーが口を割る。「なに扉開けたまま突っ立ってんだよ、5人目ってんなら、次の階の探索を始めてもいい頃だろ、カカリスト?ほらみんな入った入った。」

改めて、各人の職業や得意なスキルの情報を共有したが、先程のサーロイネンの困惑顔にも頷けた。アルケミスト、ドクトルマグス、ガンナー、カースメーカー、そしてバード。パーティを組むのに必須と言える前衛向きの職業が1人もいないのだ。以前旅の途中に寄った別の世界樹がある街のギルド長なんかが聞いたら呆れることだろう。とはいえ彼女の考えることだ、悪態をつくサーロイネンをミヒンパーとなだめて、なんとかもう少し様子見をしてみようという気にさせた。

ここまでの低層階の探索はかろうじて中衛と言えるドクトルマグスのミヒンパーが1人で務めていたという。
で、自分のポジションは、100%本意というわけではないのだが、余っている前衛に立つことになった。
(まあ、カカリストには有無を言わさずやらされそうだし、あとの後衛2人も不安定そうで前に出させられないし、さっきのミヒンパーと並んで前衛を張るというのも悪くない気もするかな。)
心の中で自分を納得させるための文言を並べつつ、明日の探索からの隊列が決まったのだった。

・ ・ ・


Sahloinen・Ⅰ


これまでの中で動機という観点からギルドを組むとしたら彼女が一番だとは思っていたが、戦略や編成には疑念がまだ拭えていない。
今日も古跡ノ樹海 5階へ続く階段を発見したはいいものの、前衛に加わったヴァスティラもせいぜい壁が一枚増えた程度で、バードとしての能力強化の本領を発揮できることは少なかった。
特に、この辺りで最も注意すべき魔物のイビルアイは、中衛職の彼らには少々荷が重かったようで、回復薬や蘇生薬を使い切ってアリアドネの糸で街に戻る、を繰り返した4日間だった。


「ヴァスティラは加入して早々だが、我々のギルドは明日から哨戒任務のため、3日間樹海に篭ることになった。各自準備をするように」
この面々と、カカリストのその言葉にはさらに耳を疑った。この不安定なパーティでそのようなことをするなど、、、
カカリストも、大公宮や酒場との関係を取り持つ接待のため無碍にはできないという。馬鹿馬鹿しい・・・

それにあの呪い師ハリューだ。一流のカースメーカーはその身から発する呪言によって敵になにもさせずに勝利を収めるというが、まだ慣れていないのか、敵を搦めるのにも無駄が多く、よく援護に回ってやらねばならないことが多かった。
それでも、自分の中から生まれた存在という確信があったこともあるが、この世界樹の頂点には、いや、もしかしたらその先にも、自分はこの存在とともにいなければいけないと、そう感じさせる本能的な何かがあった。

・ ・ ・

また、日が昇ってくる。樹海での3日間が始まりを告げた。
攻撃力の高い敵は先手を打って潰し、1階にもいるような敵だけ残ったときは倒しきらないようわざと戦闘を長引かせた。ミヒンパーのスキル:精霊の守りで時間を稼ぐためだ。
時間をかけているうちに敵の動きを見切るのにも慣れてきて、フォーススキルの運用も視野に入れられるようになってきた。
だが、使うのはまだだ。私のフォーススキル:至高の魔弾、ハリューの黄幡の呪言、カカリストの超核熱の術式は、イビルアイなどの遭遇してすぐの対処が必要な敵用にとっておき、再度フォーススキルを貯めるまでは精霊の守りに加えてヴァスティラの最終決戦の軍歌やミヒンパーの太古の巫道で時間を稼ぐ、というカカリストの極端な作戦を徹底した。極端なパーティには極端な作戦を、ということなのだろうか。

最初は今回の任務のためだけに合わせたような作戦だと思ったものだが、やることがあまりにも単純明快ではっきりしているため、どの戦闘においても互いが互いの役割をはっきり認識している、逆に連携の取りやすいパーティにも思えてきた・・・?あの女に乗せられすぎだろうか。少し緊張が緩む。

あの女といえば、彼女が連れてきたヴァスティラだ。再び怪訝な顔になる。
彼の不可解な点に、戦闘中に歌を歌わないというところがある。彼は吟遊詩人ではなかったのか?
代わりに弦楽器の腕は確かなもののようだが。いつもミヒンパーが代わりに巫術の効果が出過ぎない程度のボリュームで歌を歌って合わせていたのだった。

そんなミヒンパーは、巫術の発現方法が歌唱というのはフォーススキルにおいても変わらないようで、この3日間で何度か太古の巫道を聴かされた。間違いない、これはあの日、初めて彼らと会ったときの曲だった。
確かに回復と抵抗力に作用し、癒しと活力のみなぎる術だとは思えたが、それの何がハリューに作用したのだろう。引き続き注視していく必要がある。
…だからといって戦闘に関係ないところでも歌い続けるのはどうにかならんのか。調子が狂う。

・ ・ ・

・・・しかしてカカリストという女は置かれた状況を最大限に活かすようで、ハリューを通じてサーロイネンの様子を耳に入れては、上記のように樹海の攻略だけでなく仲間のことにも興味を持ち始めたとみてほっと一息ついたのだった。

・ ・ ・


Myhinpää・Ⅱ


今日も探索の終わりに寄った酒場から、ヴァスティラと2人で帰ろうかというところで、シトト交易所で店主と素材のやり取りをしているカカリストを見かけた。店主以外にもなにやら見知らぬ一人と一緒にいるようだ。


彼女は取引を終えてこちらに振り返る。隣の女性と一緒にこちらに歩いてくる。彼女の友人だろうか。
金髪で髪の長いアルケミスト風の女性だが、どうみても刀にしか見えない得物、そしてなんだか生気の無さそうな目をしている。
自分がなりたいからという理由だけで、アルケミストでありながらブシドーの格好をしているようなカカリストのことだ。交友関係もさぞユニークなものなのだろう。
「なあ、あの女はカカリストの知り合いか?おっさんも昔あったことあんのか?」
横に立っていたヴァスティラに話を振る。彼も昔はカカリストと交友があったと聞いていたが、詳しく聞いたことはなかった。

そんな彼は何か言葉を紡ごうとして息が詰まったような間をおき、鼻から息を漏らす。最近は見慣れてきたが、こんなふうに飼い殺しにしてきた言葉が一体いくつあるのだろう。
ただ、隣で歌っているときも、言葉の代わりに巧みな楽器捌きで全力を尽くし痛いほど貢献してくれる彼に無理にでも歌えとは言えなかったのだった。

カカリストは歩み寄ってきて、いつもの余裕ありげな顔から少し照れ臭さを滲み出して、隣に立つ者の紹介をする。
「こちらはユバスキュラだ。うちのギルドの一員で採集部隊の担当をしてくれている。」
うちのギルドにまだメンバーがいたのは初耳だ。刀を持っていて腕の立ちそうな佇まいだが、採集部隊・・・?
「ああ、それは・・・」カカリストはひとけのないところに3人を誘い、ユバスキュラのひたいに手をかざす。なにやら聴き慣れない術式を唱えたかと思うと、目の前の人影の解像度が粗くなり、ぱりぱりと色が剥がれ落ち、その中から木目が顔を覗かせた。
「お、おぉ・・・」木でできた人形にカカリストの得意な氷と雷系の術式でガワをかぶせ、冒険者に見せかけている、彼女曰く「人形兵」とのこと。
以前旅をしていた地で人づてに、冒険者としてひとりでに動く無機物や、死者の魂を冒険の伴とする者たちの噂を聞いたときは半信半疑だったが、世の中には信じがたいこともあるものだと感心していた。

ユバスキュラには、俺たちの探索パーティとは別に単独で採集を任せてギルド運営の安定化を図るつもりらしい。もし魔物に襲われても最低限の武器の扱いはでき、もし倒されたとしても術式の解けた木片に戻るだけで、カカリストが術式を唱えれば元に戻せるという。
しかしその力にはまだ不足が多く、せいぜい迷宮の1階をうろつかせるのがやっととのことだ。

カカリストが気を緩めて喋り続けているところにやっとヴァスティラが口を割った。「まだ、つづけてたんだねえ。」その声はワントーン下がっていた。
カカリストはいつもの余裕のありそうな表情に戻り一息つく。「まあな。赤字にするようなことにはしないから、安心してくれ」そう言って、まだ用事があるから、と一人と一体はその場を後にした。

・ ・ ・

「俺はいいと思うな。ワクワクするし、うまくいけば、樹海で助かるヤツも出てくるんじゃないか?それに、まだ続けてた、ってことは、おっさんがいたときぐらい昔からあの研究に情熱を注いでたんだろ?応援してやったら?」とミヒンパー。
「・・・考えとくよ」とヴァスティラ。

その飼い殺しにしている言葉を引っ張り出すのには、いいタイミングを見失ったまま宿に到着してしまった。。。


ああくそ、何が歌の道、だ。
ベッドに転がり込んだミヒンパーは、故郷を離れた日のことを思い出す。あの日理想とした場所には、今どれほど近づけているだろうか。
迷いをシャットアウトするかのように目を閉じ、別の面に目を向けてみる。イメージトレーニング。哨戒任務ではフォーススキルの扱いを少し学ぶことができた。あのとき歌った歌、サーロイネンとハリューに初めて会ったときに歌ったものと同じ感じがした。これからの探索にも役立てていければ…

次に目を開けたときには朝日が昇っていた。




The sun/天の光は全て星


永劫・Ⅰ


初めて何かを知覚してからはずっとサーロイネンと一緒だった。
今とは違う高さから見えた景色、紡ぐ呪いの言葉、手に触れる銃器の装飾の冷たさ、それらを以て「彼」が何をするも、「私」が何をするも同じことだった。疑問を抱かないのは当然のことだった。
初めて銃以外の得物を手にとった。知っている口調が私以外から発せられるのを聞いた。目線の高さに垂れる長い黒髪を見た。
その持ち主はサーロイネンといった。

彼の考えることはいまだに共有できていたが、いくら近くとも彼とのあいだにはヴェールのような隔たりを感じていた。
私にだけ一瞬見せるあの安堵のような笑みなど、まさしくその隔たりの証左であった。

もはや彼と私は同じではなかった。
では何となら同じなのか?
そう思って他の仲間たちを観察してみることにした。

私の顕現のきっかけとなったミヒンパーと、最近よく一緒に音楽を楽しんでいるヴァスティラ。私も彼らの音楽を聴いていると、もっと聴いていたい、もっとここにいたいという活力が湧いてきて好きなのだが、彼らが演奏している酒場に一人で行こうとするとサーロイネンに止められてしまう。
サーロイネンもところ構わず歌うミヒンパーを少し鬱陶しく思ってきているようだ…彼ら二人には、恥ずかしながらも親のような感情が芽生えてきている。仲良くしてほしい。

ミヒンパーは初めて本格的に迷宮に挑み技を磨くのにそわそわしてよくヴァスティラが制止しているのを見る。この間は、危うくFOEの目の前に躍り出そうになったり、可愛らしくも恐ろしい小動物にアリアドネの糸を盗られそうになったりしていた。見ていて飽きない。

カカリストはサーロイネンと同じく、樹海を踏破するためならなんでもやるような気概を感じる。なぜか彼女の指示する作戦は結果的にいつも上手くいく。何やら普通でない、大抵の術師なら知ろうともしないことに手を出しているみたいだ…
今となっては正直彼女らに従って世界樹の頂点を目指すのが正しいのかわからない。
それでも彼女を信じたいところがあるとすれば、それは何で身を固めようとも自分の思い描いた姿で生きたいというもう一つの気概であった。自分でも説明するのは難しかったが、これには心の底から共感できたのだった。

そしてこの書き物は、そんな彼女のことをもう少し知ろうと思って始めた、カカリストのマネである。

Harju

・ ・ ・


Västilä・Ⅳ


・・・百獣の王、キマイラとはすでに一度対峙したことがある。かつて場違いな強さを誇り第1階層をわがものにしていた魔獣が再び第2階層への道に立ちはだかっていた。

なんでまた・・・!
そう思うのも束の間、臨戦態勢に入る。
相手はカカリストもサーロイネンも得意とする氷属性を弱点とする魔物。前々からこの局面には有利なパーティだなんてうっすら思ってはいたが、カカリストは狙っていたのだろうか!?
しかし、数年のブランクと、当時とは全く状況の異なるこのパーティ。あのとき守ってくれていた前衛の代わりに、聖なる守護の舞曲を演じつつ、隣に並んだミヒンパーとともにひたすら防御や回復の姿勢に徹していた。
この戦法には、ハリューの力祓いの呪言が相乗効果となって助けてくれた。先日の哨戒任務と併せて、ここ数日は防御型のスキル構成を中心とするようカカリストから指針が伝えられていた。確かに、自分のやるべきことが一つに集中できると、仲間の得意なことに目を向ける余裕が出るような気がする。

攻撃はカカリストとサーロイネンに任せており、自分も隣に立つミヒンパーも攻勢を支援する暇はほとんどなかったが、ハリューの軟身の呪言が補ってくれ、形勢は明らかにこちらに傾いていた。
やがて、正面に3つ並んだ羊、獅子、羊の顔が力無さげにそろってうつむく。ここを好機と見たか、視界の端でサーロイネンが習得したてのチャージアイスを構えるのが見えた。視線を戻す途中、紫色の線が不敵に伸びていくのが見えた。
キマイラのもう一つの顔、尻尾から伸びた蛇頭は、油断したサーロイネンへ不意打ちをする構えだった。
まずい、今のサーロイネンがあれを喰らったら・・・!
「迷うな、ヴァスティラ!」背後から勇ましい叫びが上がる。
同時に何か理解したらしいミヒンパーも、満足げな顔をして叫びをあげる。
そうだ、守護の舞曲はもう間に合わない、間に合ったところでオーバーキルする威力なのは知っている。ならば。。。


ミヒンパーはサーロイネンに鬼力化を掛けた。わかってたとばかりに、猛き戦いの舞曲を重ねる。後ろからは先ほどの勢いのままカカリストが幻影の刀を振り上げると、空中から氷の刃が飛び、蛇頭の横顔に間一髪突き刺さった。ハリューの足違えの呪言が効いてきていたようだ。
不意打ちも届かずそこに立ち尽くすだけになった獣は、サーロイネンにとってはいい的だった。こんなところで立ち止まってはいられない、とこれまでの鬱憤を晴らすかのようにその魔弾は4つの頭を繋ぎ止める胴体を冷たく貫いた。

耐え忍ばなければいけない局面・ヒヤリとする瞬間はあったものの、なんとかキマイラを退けたフライングフィン。
「なんだ?拍子抜けしたか?」とカカリスト。

ミヒンパーたちの戦いぶりを確かめる心づもりで踏み込んだ第1階層だったが、確かめられていたのは俺の方だったのかもな…
そんな思いを隠すように、「ハハ、やるねぇ彼らも。やっぱり若い子たちは敵いそうにないよ」と、苦笑で返した。

あのときより個人としてではなくパーティとしてスムーズに戦えていた感はあった。
ミヒンパーはまだ見ぬ次の階層への興奮冷めやらぬといった感じ、サーロイネンはいつもの鋭い眼差しを変えず、できて当然・すぐにでも次の階層へ、という表情、ハリューは自分たちのしたことの大きさを掴みきれずといった面持ちでぼーっと虚空を眺めていた。


一見地味に見えるが確かに戦い全体にわたって着実なサポートをしてくれたハリューに感謝の言葉を伝えた。さっきまで無と言った感じの表情だったのがパッと明るくなり、「こちらこそ、素敵な演奏をありがとう。楽しかった!」
ちょっと驚いた。さっきまで決して油断できない樹海の番人と戦っていたというのに、まるで大きな会場で子供たち相手に演奏を披露した後のような気持ちになった。ミヒンパーは身をかがめて「おう、サンキューな。お前の呪言もバッチリ決まっててカッコよかったぜ。」と返す。自分はそれを見てただはにかんでいるだけだった。
「サーロイネンも、力が湧いてくるいい歌だったって!」とハリュー。当のサーロイネンはすでに次の階層への階段に足をかけていた。

こうして、また一歩、「あのとき」に近づくのであった。




The judgement/星図の更新


Kakaristo・Ⅱ


あのとき」、
あんな思いをする人をこれ以上出させない。その一心で打ち込んでいるものが、カカリストにはあった。

・ ・ ・

Jämsä、Laukaa、Vekkula、Halttula、そしてJyväskylä、よし、全員全部位一応はそろったか。


火鳥ノ月××日、それはちょうど、あの黒い影が街に降りてきた時期だった。。。


1階の探索は少しできるようになってきたが、その矢先にこれだ。補修したばかりの武具や義体にはまだ呪いの症状が残っているようだ。そんな攻撃をする魔物がいる階層まで送ってはいないハズだが…それに銃弾が掠めたような傷、近くで戦闘していた冒険者の流れ弾が当たったか…?いっそ捨てるか…いや、それだと赤字まっしぐらだ…今でも厳しいのに…
悩んだ末、厳選して新調の必要そうな装備1つのみ買いに行くことにした。
ユバスキュラを連れてシトト交易所に赴く。店番の少女エクレアと話しながら刀の品定めをしていった。まだ幼いのにしっかりした娘さんだ。まったく、あいつにも見習ってほしいものだ。。。

品揃えをもっと近くでみようとかがんだとき、ギィィと木板の軋むような音がした。それも自分の頭の上からだ。続いて金属がカタカタと震える音がする。どちらもユバスキュラから聞こえてくる音だった。
立ち上がる自分を不思議そうに見上げるエクレアには、用事ができたと言ってその場から少し移動する。次第にユバスキュラの動作がぎこちなくなり、音の出る頻度も増してきた。もう少し同じ方向に進むとそれらはおさまった。
不思議なことがあると解明せずにはいられない。カカリストは三角測量の要領で、街の人たちの中に、ユバスキュラの反応する人物が一人いることを見出した。


あれは、カースメーカーだろうか?

カースメーカー、呪い、、、いつも半目がちなまぶたが一瞬持ち上がる。ユバスキュラの震えや音の出ている部位は、どれも呪いのような症状がまだ残っている部位だ。それに薄らすぎて気のせいかと思っていたが、この硝煙のような匂い、、、
「そうか、、、彼らが、、、」
口角をわずかに上げたまま、その黒い影とすれ違った。

仕切り直して刀を新調し、仕事場に戻る。
次の日カカリストはユバスキュラ以外の4体とともに冒険者ギルドに赴き、黒い影とともにその4体を古跡ノ樹海1階へと送り出したのだった。

・・・

つづく(つづくようにしたいと思います)



References

・前話


・前話を書いた時に考えてたこと


・プレイヤー目線の記録




実体験

余談

まだキャラクターや設定起こしが多めの回で、迷宮内での出来事はあっさりめに書きました。
実際プレイ時には、ほんとにこのパーティで行けるかな?と一層で試しながら序盤を進んでた感あったので、プレイヤーの心境的にはサーロイネンやカカリストと近かったと思います。

同じような理由と、全てのイベントを文章にするというつもりもないので無理にねじ込まなくてもいいかなと考えた結果フロなんとかさんの出番は無くなりました。。。これ生存ルートにならないですか!?

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