変な会

変な会があった。
場所は新宿。
見知らぬ者同士がとある飲食店前に集まって、まるで旧知の仲のように挨拶を交わし、食事を共にする。
そんな会だ。
ルールはひとつ。
久しぶりに会った雰囲気で語り合うこと。
それだけだ。
敬語でもタメ口でも構わない。
人物設定はその場でそれぞれだ。
だから最初に振られた言葉で瞬時にキャラを設定する必要がある。
例えば「あっ!ご無沙汰しております!先生!」と言われたら、かつての恩師を演じ始めねばならない。

「おぉ〜!食いしん坊の丸田君!相変わらず丸々としているね!」

相手は食いしん坊の丸田君を演じねばならない。
つまり即興の芝居のようなものである。
それは店内に入ってからも続く。
「ささっ、先生!先生は上座へ!」
「お〜、すまんね。」
食事が運ばれてきてもそれは変わらない。
丸田君は恩師に料理を取り分けていく。
話が弾んでくる。

「そういえば丸田君、昔、学校でやらかしたことあったなぁ〜。あれ、何だったっけ?まぁまぁな騒動になったよなぁ。何だったっけ?」

こうなったら大変だ。
即興で答えなければならない。
まるでアドリブで急に話を振られた芸人状態だ。
額から脂汗が滴り落ちる。
まずい、間を開けたらスベる。
空気がおかしくなる。
この会は楽しい会だ。
何とかせねば!

「あ〜...ありましたねぇ〜、そんなこと...あの〜...あれですよね?学校のトイレで...先生が入ってきて...ねぇ?先生、あれなんでしたっけ?」

よし、うまく切り抜けた。
恩師に話をおっ被せてやったぜ。
うまく逃げ果せた。

形勢逆転。
今度は恩師がピンチだ。
恩師は心の中で思う。
「こいつ、余計なことを...」

「なぁ〜...あれ何だったけなぁ!でも大騒動になったことだけは覚えてるよ!ガハハハハ!」

勢いで乗り切った恩師。

こんなやりとりが数十人の間で交わされる変な会...
見も知らぬ人となぜこんなことを?
現代は心寂しい人ばかりです。
かくいうわたくしも友達なぞ一人もおりません。
そんな人々の心のオアシス...
それが「変な会」なのです。
心寂しい人たちが集い、ひとときの人間関係を愉しむのです。

さて、そろそろお開きのようです。
皆さん、帰り支度を始めました。
そして、一人、また一人と店を後にしてゆきます。
残ったのは私。
どうやら会のお代は全て私のようでございます。
薄情どもめ。
あいつら、友達でも何でもねぇ。

わたくしは心寂しく店を後にしたのでした。

#日記 #エッセイ #コラム #変な会



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