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『幽霊バスター(になりたくない)』: 短編小説
高橋誠(たかはしまこと)27歳。コンビニでアルバイトをしながら、漫画家デビューを夢見る青年。そんな彼には人には言えない秘密があった。幽霊が見えるのだ。
「はぁ…また来たよ」
レジに立つ誠の目の前で、半透明の老紳士がゆっくりとシャドウボクシングを始めた。右ジャブ、左ストレート。誠は無表情を保ちながら、客の会計を進める。
「298円です」
「あの、すみません」客が小声で言う。「私の後ろで踊っているおじいさん、見えますか?」
「申し訳ありません。お客様の幻覚かもしれません」
誠は平然と答えた。見える人を見つけた幽霊は、まるで犬のように尻尾を振って近寄ってくる。そんな面倒は御免だ。
仕事を終え、帰宅途中の誠。すると、交差点で信号無視をする幽霊少女と遭遇。彼女は車に突っ込んでいき、ドライバーを驚かせようとする。が、当然突き抜けてしまう。
「もう、気づいてよ!」幽霊少女が叫ぶ。
誠は首を振り、歩みを速める。すると、後ろから「待ってー!」と声が。振り返ると、幽霊少女が必死に追いかけてくる。
「やれやれ…」誠はため息をつき、急いで近くの居酒屋に逃げ込んだ。
店内では、カウンター越しに幽霊のバーテンダーが、実在のバーテンダーの動きを真似ている。客たちは、グラスが宙に浮いて動くのを不思議そうに眺めている。
「幽霊さんたち、もう少し常識を…」誠は小声で呟いた。
数日後、誠はついに漫画のネームを持って編集部に行く決心をした。エレベーターに乗り込むと、そこには全裸の幽霊サラリーマンが。
「うわっ!」思わず声が出る。
「あ!見えるんですね!」全裸幽霊が嬉しそうに近づいてくる。
「いや、違います。蚊です。蚊に驚いただけです」
誠は必死に言い訳をする。が、全裸幽霊は諦めない。彼は誠の周りをくるくると回り始め、奇声を上げたり変顔をしたりと、あの手この手で誠の反応を引き出そうとする。
「…」誠は額に汗を浮かべながら、必死に平静を装う。
エレベーターが開くと、誠は矢のように飛び出した。編集部に到着。担当編集者に向かって話し始める誠。
その背後では、全裸幽霊サラリーマンがモノマネショーを繰り広げていた。シャドウボクシングに始まり、バレエのピルエット、そしてついにはムーンウォーク。
編集者は誠の表情の変化に気づき、「どうかしましたか?」と尋ねる。
「い、いえ。ネームを見てください」誠は焦って答える。
ネームを見終わった編集者が言う。「面白いですね。でも主人公の設定がちょっと非現実的かも。幽霊が見える青年?そんな人、実際にいるわけないですよ」
誠の背後で、全裸幽霊サラリーマンが大爆笑する。
「はは…そうですよね」誠は苦笑いを浮かべた。
家に帰る道すがら、誠は考える。「幽霊が見える」という設定が非現実的だって?まったくだ。こんな「才能」、誰が望むというんだ。
そう思いながら歩く誠。すると、前方から幽霊の老婆がよたよたと近づいてくる。誠は深いため息をつき、くるりと方向転換。遠回りでも、幽霊のいない道を行こう。
明日はきっと、幽霊の出ない一日になりますように―そう祈りながら、誠は夜の街を歩み去っていった。
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