私は私しか見ていなかった

職場の人に「彼女いる?」と聞かれた彼は、いないと答えたらしい。
彼がこういうことがあったよと聞かせてくれたけど、私はそれを聞きたくなかった。心の準備ができなくてと言う彼を目の前にして、私は心を騒つかせていた。

”いると答えてほしかった”

職場恋愛だから言いづらいかもしれないけれど、私の存在を隠してほしくなかった。2人だけが分かっていればいいと思ったけど、少しだけ心の距離を感じてしまった。

”いると答えてほしい”という想いは私の「欲」に過ぎないし、私の価値観であったり職場での立ち位置であったり、彼への思いやりは欠けていた。

彼には彼の考えがあるのかもしれない。
職場では仕事に集中したいという想いがあるのかもしれないし、ただただ私の存在を周囲に知られたくないのかもしれないなと。

かもしれない、じゃなくてはっきりと聞いてみればいいのか。

”周りに言っても恥ずかしくない彼女になるぞ”と思ったけど、私の好きな本にはこう書いてあった。

『もはや誰かに説明する必要性さえ感じないし、そうすることも不可能だと思えるほど、途方もなく孤独にさせられたから好きになった』
『私たちは分かり合えないままでいい。誰とも分かり合えないまま、黙って愛し合いたいのだ。』

ーいつか別れる。でもそれは今日ではない Fー

この文章を読んで、忘れかけていたとても重要なことに気付かされた気がした。”誰かから見た私たち”なんて考える必要はないよなと。

私は今まで何を求めていたのだろうか。
私たちは誰かに知ってもらうために恋愛をしているのではない。
彼は私のことが好きで、私も彼のことが好き。
そう感じるだけで、本当はそれだけで十分幸せだ。

私は私しか見ていなかった。



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