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冬のまつりは花火が似合う5

東京駅から地下鉄に乗り換えて、仕事先のバーを目指す。14番出口を出て…ん?あれ?違うな。やばい。迷った…。

俺は携帯の地図アプリを起動させて、住所を入力する。上京して3日…東京の街は迷路みたいだ。いまいち方向感覚を掴めずに右往左往する。

こんな時、地元ならみんなが優しく教えてくれるのに…そんな事を思いながら歩いて行くと突然目の前にイルミネーションの街路樹が広がる。

「はあ…」
あまりの美しさに動けない。高層ビル群の中に突如現れた光の海。

そうだ!写真、写真。地元の友達や親に送ってあげよう。携帯を取り出し何枚も夢中で撮り続けた。

「良かったら、撮りましょうか?」

ふと、柔らかな声が聞こえた。

小柄な女性がニッコリと微笑み、その手を差し出す。黒いコートに、パープルのタイトスカート。グレーのブラウスは上品な光沢を放っている。パールのピアスはさりげなく、小さな貝殻のような耳によく似合っていた。

お礼を言い、イルミネーションと一緒にカメラに収まる。携帯を返してもらう時にパチっと静電気が走って指が触れた。

暫く光の渦の中で、見知らぬ女性と空を仰ぐ。

俺は気づかれないようにそっと彼女を見た。
少し肩の開いたブラウスから綺麗な鎖骨がのぞく。そこに小さなホクロを見つけた。
そのホクロを指でなぞる自分を想像する。
想像するだけ、そんな事本当はしない。
分かっていても、やめられなかった。

華奢なネックレスの下に見つけた小さなホクロを忘れられずに、12月の慌ただしい日々は過ぎていった。

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