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冬のまつりは花火が似合う 1

東京の冬は早い。
イルミネーションが点灯し始め、街を無邪気に照らし始めるのを見るとまた冬がやって来たと実感する。

地下鉄メトロ14番出口のエスカレーターを登ると目の前には、煌びやかな日常が溢れている。
無機質なオフィス街の中に現れるクリスマス一色の街並みに、私は暫く立ちどまる。

地方出身の私には、見慣れない光景だったはず。
でも時間の流れと共に、それは当たり前の何度目かの冬の光景になってしまった。

何度見ても美しい光の中、立ちどまる私の隣で無邪気な声が聞こえる。

「すげー!めちゃくちゃキレイー!」
iPhoneのシャッターを切る音が、連続で聞こえる。
ふと目をやると、フワフワとした黒髪の背の高い男の子が夢中で写真を撮っている。

「すげー、すげー」と独り言を言いながら、角度を変えて何枚も撮る姿がなんとも微笑ましくてつい声をかけた。

「撮りましょうか?」
「え!いいんですか、ありがとう」

にっこりと笑って携帯を差し出す、その白くて大きな手。短く整えられた爪。黒いモッズコートのボタンは外れていて、暖かそうなセーターが彼の体を包み込んでいる。肩からは楽器のケース。アルトサックスが収まる大きさだ。

私は何故だか、その何気ない姿から目を離せなかった。クラッシックなスタイルの眼鏡の奥にある美しい二重。綺麗に伸びた鼻筋。少し伸びた髭。
若くて、生命力に溢れた波動を感じる。

「はい。上手く撮れたかな?見てみて」
携帯を手渡した時、少しだけ手が触れる。
冷たくて、白い雪のよう。パチっと静電気が起きる。

「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
静電気の痛みのはずなのに、私には小さな感情の揺れが雷みたいに感じた。
「大丈夫。冬ですからね!」
明るく返す笑顔が、とても気持ちいい。

「凄いですね、上京したばかりで初めてのイルミネーションに興奮しちゃいました!綺麗ですね」
嬉しそうに一気に話す姿が可愛らしい。
私もね、昔はそうだったよ。嬉しくて楽しくて。

私達はしばらく、黙ってイルミネーションを見上げていた。キラキラと輝く光が降り注ぐ特別な季節だ。

そっと隣を見る。
背の高い彼の肩から首筋を見上げてみる。

ステキな子だな。。。
不意に湧き上がる感情に蓋をして、私は夫の待つマンションに戻らなくてはと心の声をしまった。


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