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塩畑大輔さんによる「すぐに使える、スポーツの熱気が伝わる記事の書き方」を紹介します!

スポーツ記事の「描写」はプログラミングーー。

スポーツライター歴15年のクリエイターはこう例えます。
一体、どういうことなのでしょうか。

7月19日開催した「スポーツ好きのためのnote sports meeting」。
今回は東京五輪開幕直前の特別企画として“スポーツの熱気の伝え方”というテーマとさせていただきました。

元日刊スポーツ新聞社の記者で、7月からnote株式会社に入社したnoteディレクターの塩畑大輔が、講義形式で「より伝わる書き方」について語ります。

ぜひ、冒頭のアーカイブ動画と合わせてご覧ください。

はじめまして。塩畑大輔です。

実はこのたび、noteに入社しました。今日が初出社となります。
今回は初仕事として、スポーツ記事の書き方についてお話をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

時間にも限りがあります。
せっかくの機会ですので、すぐに実践できそうな書き方のコツに絞って、自分なりのやり方をお話しいたします。

ポイントは2つです。

①15年やっている記者が変えずに使ってます
「記事を4分割 構成のひな形」

②読者の脳内でドキュメンタリー映像を再生させるために
「プログラミングとしての描写」

記者1年目に教わった「定石」

まずは「①記事を4分割 構成のひな形」の方からお話をさせていただきます。

僕は新卒でスポーツ新聞社に入り、3年目から記者になったのですが、その時に先輩から教わった基本的な構成です。
教わってから15年以上がたちますが、実はいまだにこの構成に当てはめて記事を書くことがほとんどだったりします。

いわば、スポーツ記事的な「起承転結」を簡単につくる方法です。
原稿を大まかに、4つのパートに分けて書いています。

<1>ハイライト
<2>現在
<3>過去
<4>未来

実際の例をみていただきながら、説明をしていきます。
本当に今も使っているということで、最近書いた記事を例にします。

元西武ライオンズ投手で、ボートレーサー挑戦が話題になっている野田昇吾さんについて書いた記事です。

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読者を記事の世界にいざなう「接点」

まずは<1>。
「ハイライト」と位置づけたパートです。こちらは…

●書き手が見聞きした中で最も印象に残った場面
●読み手にとって最も希少価値が高いであろう場面

例に上げた記事の中では、冒頭の喫茶店の場面がこれに当たります。

半年前までプロ野球で活躍していた選手が、20キロも痩せた姿で現れる。
取材の中で最も印象的な場面。そして、長年の取材の中でもこのような形の再会は、なかなかありませんでした。

おそらく読者の皆さんにとっても、希少価値がある場面だと思います。
「この記事は、めったにみられない景色を見せてくれる」という印象を、最初に持たせることができるのではないかと思い、この場面を書き出しに選びました。

インターネット上には、本当にたくさんの記事や作品があります。
その中から、自分が書いた記事を読者に選んでもらうには、やはり工夫が必要なのかなと思っています。

その意味で、まずはタイトルやバナー写真はとても大事だと感じていまして。
そして次が、記事の冒頭部分、です。

読者と記事の世界との接点。
そんなイメージで、書き出しについて考えています。

「自分ごと化」の究極形

スポーツ記事と相性がいい文章の構成として、冒頭を「描写」で入る形があります。

記事を読み進めてもらえない理由は、いくつかあります。
そのひとつが、読者に「記事が取り上げる世界が自分と縁のない世界」「共感の余地がない世界」と受け取られてしまうことです。

スポーツは、ジャンルの中でさらに興味関心が細分化されているところもあります。
スポーツを不要不急と位置づける方も少なくありません。ともすればあらゆる記事が「他人ごと」になってしまう。

だからまずは記事冒頭で「自分ごとかも」「共感できそう」と感じさせられるかどうか。
記事を読み進めてもらう上で、最初にして最大のハードルはそこだと感じています。

「自分ごと化」や「共感」をはかる方法はいくつもあります。

その中でも「記事の世界の中に読者を立たせてしまう」というやり方は、究極形のひとつなのかなと。
緻密に描写をして、あたかもその世界の中に読者がいるかのように感じてもらう。スポーツは、描写の対象になる場面がとても印象的であることが多いので、自分ごと化や共感に「特別な場面をのぞき見できている」という満足感も加わるように思います。

逆に、冒頭から事象や概念の説明をしてしまうと、どうしても読者は記事の世界を俯瞰することになってしまいます。
そのジャンルの記事を読む強い動機づけを最初から持っている人でないと、記事を自分ごと化するのは難しいのかなと。

読者を安心させるために

次は<2>。
「現在」と位置づけしたパートです。

これは時制そのものというよりも、主人公や事象の「現状」を伝えるパート、と考えていただけるといいかなと思います。

つまり、取り上げる主人公や事象がどんなものなのかをわからせるパート、です。
<1>のハイライトの描写にとりあえず引き込まれた読者を、記事の世界に本格的に合流させてあげられるかは、このパートにかかってくると考えながら書いています。

野田さんの記事でいうと…

>昨年11月。
野田さんは西武ライオンズから戦力外通告を受けた。

から始まる部分になります。
なぜこの記事は野田さんを取り上げるのか。きちんと必然性を分からせられれば、読者は安心して記事を読みすすめてくれるのかなと。

記事のコア。記事のアイデンティティ

3番目は「過去」のパートです。

ルーツ、背景を掘り下げることで、取り上げる主人公や事象の価値を高めるパートと位置づけて書いています。
本人などが明かした過去のエピソード、あるいは書き手が長期的に見届けた上で打ち出す解釈などが、ここに入れる要素としては考えられます。

野田さんの記事では、医療機関に恩返しをしたいと考えるようになった理由をつづったあたりになります。
こうした要素には取材の方向性、洞察力、解釈など、書き手の個性がはっきりと出てくるものと思います。

つまり、このパートこそが記事の「核」であり、記事のアイデンティティになります。

メッセージ性あっての読後感

最後は「未来」のパートで締めくくっています。

取り上げる主人公や事象の未来、もしくはそれらに書き手である自分が託す期待、といったあたりを書き込みます。
記事を書くことで世の中に発信したいメッセージを、ここに込めています。

野田さんの記事では一番最後のチャプターです。
さらに言えば、人生初のアルバイト経験の描写あたりから、ほぼ未来のパートに入っていっています。

ネットメディアの編集者の皆さんとお仕事をご一緒する中で「インターネットの世界では、メッセージ性はより大事なものになっている」というご意見を聞くことが何度もありました。

同じ主人公、同じ事象を取り上げる記事も、世の中にはたくさんある。
その中で「多くの記事の中で、この記事を選んで読んだことに必然性は確かにあった」と読者に感じさせられるかどうかは、その記事ならではのメッセージ性にかかっている。

そうやってよりよい読後感を演出できてはじめて、ページビュー数が書き手にとって最大限プラスに働く。逆に文中でストレスを感じさせて途中離脱されたり、読後感を演出できなかったりすると、せっかくのページビューがファン獲得につながらない。

そんなお話をうかがい、個人的にはとても納得をしました。

いい記事こそ防ぎたい「初期離脱」

記事を4分割するイメージをもっておくことは、取材にもプラスに働くように感じています。
スポーツの試合をみたり、アスリートの話を聞いたりしている最中から、記事にはどういった要素が必要なのかを、なんとなく逆算できる。

個人的には、取材中はほぼずっと「<1>のハイライトの部分をどういう場面にするか」を考えています。

いくらいいエピソードや解釈を中盤以降に書き込んでいても、序盤に記事から離脱されては台無しです。だから執筆を始めても、とにかく冒頭のところを突き詰めて考えます。

今回のテーマである「伝わる記事の書き方」のポイント2つ目も、そこに大きく関わるものを選びました。

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描写とは「プログラミング」である

読者の脳内でドキュメンタリー映像を再生させるために、
「プログラミングとしての描写」を心がける。

大げさな言い方に聞こえてしまうかもしれません。
でも、情景描写にはプログラミングのような側面があると、僕は感じています。

その世界に自分が立っているかのように、読者に感じさせる。
それをよくある言い方に置き換えると「目に浮かぶような描写」ということになるかと思います。

それは記事の世界を脳内で映像として再生できている、ということなのかなと。
つまり、いい描写というのは…

「脳内で映像を再生させるのに必要な要素を過不足なくインプットし、再生する方向性も指示できている文章」

と言えるのではないかと。
これが「プログラミング」にたとえさせていただく理由です。

プログラミングの「4つのコツ」

プログラミングというイメージを持ったことで、見えてきた「コツ」のようなものもあります。

①指示を小分けにする

センテンスを長くする、つまりいくつもの指示を1つのセンテンスの中に詰め込んでしまうと、読者は指示を処理をしきれなくなってしまいます。
センテンスを短くして、1つずつ、着実に指示を伝える。そうやってはじめて、読者は脳内で、書き手がイメージしたものに近い映像を再生できるのではないかと思います。

②事細かに指示をする

漠然とした指示だと、読者ははっきりとした像を脳内に結ぶことができません。だからできるだけ、ディテールまで書き込む。

③受け手がわからない指示の仕方をしない

プログラミングは表記ルールに沿った指示をして初めて、エラーを起こさずに処理が進みます。記事も一緒かなと。独特すぎる表現や抽象的な描写は、読者の脳に処理エラーを起こさせる可能性が高い。仮にエラーを起こさなかったとしても、処理に手間取る分、ストレスを感じさせてしまうリスクがあるように思います。

④視座をコロコロ変えない

どこから見た景色なのか。
それは脳内で再生させたい映像の根幹です。これがコロコロ変わってしまうと、書き手のイメージ通りに映像が再生される可能性はかなり下がってしまいます。

個人的には書き出しから文末まで、可能な限り同一人物から見た景色に描写を統一するように心がけています。そうすると、主語を省略できて、文章がすっきりするという効果もでてきます。

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記事を書く上で最も大事なのは…

長くなりましたが、僕が記事を書くときに考えているポイントを2つ、お話をさせていただきました。
ただ、混ぜ返してしまうようですが、最後にもうひとつだけ申し上げておきたいことがあります。

それは、この2つのポイントはあくまで「コツ」「手段」でしかない、ということです。

記事を書く上で最も大事なもの。
それは「熱量」ではないかと思っています。

記事にたどり着いてくれる読者は、記事の世界を積極的に面白がろうとしてくれています。
それに負けない「熱」を持って、スポーツを追い続け、記事を書けているか。そこは記事を公開したときに必ず、真っ先に問われる部分だと感じています。

誰よりも競技を好きになり、誰よりも面白がれる。
それこそが、スポーツライターにとって一番大事なことだと思っています。