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週刊文春村井さん×EKIDEN News西本さん「メディアの視点で考えるSNSのつづけ方」読者が読みたくなる記事&仕掛けとは

記事を買ってでも読みたくなる仕掛けづくりが、やがてコンテンツを光らせる」「ツイートづくりはバナーと似ている。ほぼ日での企画やコンテンツづくりの経験が、いま生きている

そう語るのは「週刊文春 電子版」のコンテンツディレクター村井弦さんと、Webメディア「EKIDEN News」代表の西本武司さん。記事をより多くのひとに読んでもらうためのSNS活用術について、おうかがいしました。

SNS活用で、読者が感じるハードルを打ち砕く

ーーWebメディアの運営に携わるようになるまでの経緯や、自身がSNSをビジネスで活用するようになったきっかけを教えてください。

村井 僕は雑誌『週刊文春』編集部で記者として4年勤めたあと、月刊の『文藝春秋』の編集者として、「文藝春秋digital」のnote立ち上げに携わりました。そのとき、SNSの活用を思い立ったんです。

文藝春秋の記事は、論文や論考など、長文で難しい内容のものが多く、ネットで読んでいただくにはハードルが少し高い。そのため、みなさんに「文藝春秋digital」に親しみを感じていただくための仕掛けが、必要だと考えたからです。

そこで、「文藝春秋digital」の記事をいくつかピックアップし、SNSでみなさんにていねいに解説することをはじめました。僕個人が顔を出して話した方がわかりやすいだろうと、TwitternoteVoicyをつかい、文章と音声で伝えることにしたんです。

株式会社文藝春秋編集部・電子版コンテンツディレクター 村井弦さん

「公園橋博士」から、公式メディアへ

西本 僕はあることを機に、箱根駅伝にハマってしまって。選手たちがふだん出場している数々の競技会に、出向くようになったんです。そこで、撮った写真や大会の記録をTwitterで発信しはじめました。箱根駅伝を目指す永遠の大学生「公園橋博士」の名で。

「公演橋博士」は、箱根駅伝を目指す永遠の大学生。架空の「寛政大学陸上競技部」部員だ

その後、「EKIDEN News」というメディアを立ち上げました。そうしたらいつの間にか、その活動が注目されるようになって。当時勤めていた「ほぼ日刊イトイ新聞(以下、ほぼ日)」を辞めて、いまはtwitterInstagramnoteで、駅伝について発信しています。

EKIDEN News代表 西本武司さん

SNSはひととつながるときの潤滑油

ーー個人での発信をはじめて、よかったことはなんですか。

村井 仕事ではじめてお会いするライターや専門家たちとのコミュニケーションが、前よりも円滑になったことですね。僕がTwitterやnoteに書いた記事が、自己紹介文みたいな役割を担っていて。

とくに、2019年に書いた「文才の有無に関係なく、誰でもそれなりに整った文章を書くコツ」というnoteは、けっこうたくさんの方に読んでいただけました。実際に会う前から相手が僕のことを知ってくれていると、非常に仕事が進めやすいです。

西本 僕がよかったと思うのは、SNSを通じて同じ駅伝好きなひとたちと友だちになれたこと。2013年には、Twitterで知り合ったひとたちとOTT(オトナのタイムトライアル)というトラックレースの大会をはじめました。2018年にOTTを一般社団法人化して、僕はいま、代表理事を務めています。SNSで「会社人」とは違う「新たな自分の顔」が生まれた感覚で、おもしろいですね。

情報を的確かつ端的に伝える「タイトルと淀川」

ーーSNSで発信するときのテクニックや工夫を教えてください。

西本 ツイートは、バナーをつくるのと同じ感覚で作成します。

バナーづくりで1番大事なのは、「タイトルを読んだだけで企画の内容がすべてわかる」こと。そして、「短い紹介文で企画の魅力を余すことなく伝える」こと。この2点です。

ほぼ日ではこれを、「タイトルと淀川」と呼んでいました。タイトルで受け手に内容を一発でわからせ、さらに紹介文で、映画解説の淀川長治よどがわながはるさん(映画解説者。1960〜1990年代に活躍。独特な口調で映画のストーリを解説し、人気を博した)のように、伝えたい内容を的確かつ端的に、伝えたい相手にいかに届かせられるか。これらがキモだという意味です。

それに対してnoteは、共感し合った親しい友人とちゃんとわかり合うための場所。僕が本当に言いたいことを書くのがnoteです。

一方、Instagramは、海外とつながるためのツールという位置づけ。世界陸連などの国際的な団体にとっては、TwitterよりInstagramの方が圧倒的に優先順位が高い。ですので、世界とつながりたいならInstagramで発信することはとても重要です。

Instagramには、さまざまな大会で自分が撮った選手たちの写真を載せています。こうすることで、日本のマスメディアでは大きく取り上げられない選手たちも、海外に広く紹介できるんです。

また、noteの長文記事を翻訳ツールで英訳し、掲載することもあります。実は日本の駅伝は、中国、台湾といったアジア圏内でのファンも多いのです。最近では、タイやインドネシアからの反響も大きい。駅伝や陸上を通じて、世界中の「同好の士」とつながりたいと思っています。

読者をコンテンツにいざなうブリッジとは

ーーネットで有料記事を読んでもらうために、どんな工夫をされていますか。

村井 「文藝春秋digital」では、読者とコンテンツの間に橋をかけ、たどり着きやすくする仕掛けづくりに力を注ぎました。

とくに効果があったのが、記事を書いた筆者同士の対談イベント。ウェビナーです。「話がおもしろかった!」と思った多くの方々が、その筆者の記事を買ったり、雑誌の定期購読会員になってくれたりしました。

西本 僕は読者の「感情を動かす」ことを意識しています。

たいていのことがググればわかる時代。知識が得られたときよりも、胸がドキドキしたとか、「自分も頑張ろう!」と励まされたとか、感情が動いたという体験に対して、ひとはお金を支払ってもいいと思うのではないか?と考えるからです。

僕は文章がうまい方じゃないけれど、読者の感情を動かすことなら、長い文章を書かずに写真とキャプションだけでもできることがある。

たとえば大迫すぐる選手を撮ったこの写真。大手メディアなら正面から撮ると思います。

でも僕は、大迫くんの左足のつま先を見せたかったんですよ、後ろから。人生最後のフルマラソンのレースで、本当に身体がキツい最後の400mでも、つま先からスッと一歩を踏み出している。彼の美学やすごさが、この1枚で伝わると思っています。

大迫傑選手の左足のつま先が路上に触れる、まさにその瞬間をカメラで切り取った

村井 表側じゃないところにスポットを当てる。これは、マスメディアの方法論から抜け落ちてしまっている大事な部分ですね。とくに最近は、表の面だけでは満足できないひとや、裏面にこそ価値を置くひとがふえている気がします。

大切なことから書く、頭に30人を住まわす

ーーnoteを書くときに心がけた方がいいことを教えていただけますか。

村井 普遍的なテーマを選んだ方がいいと思います。その方が、より多くのひとに読んでもらえる可能性があるので。

そして書くときは、1番大切な点を冒頭にもってくること。誰かが発した、すごく印象的な言葉を鉤括弧に入れて文章を書き出すのも、おすすめです。どちらも、文章の流れをつくりやすいと思います。

記事を書き終わったら、第三者の視点で読み返す。つねに読者の視線を意識することが、読まれるnoteを書くためには必要だと思いますね。

西本 僕は、自分が一番書きたいことから書けばいいと思っています。たとえば、「料理がうまかった」ってことが言いたいなら、まずそれを書く。書いた上で、それがたとえば「自分のおかんにきちんと伝わるかな?」と考えると、味や食感などもう少し説明する必要があることがわかってきます。

僕は頭の中に30人くらいのひとがいて。自分が書いた記事を読み返しながら、この表現だと嫁は興味をもつだろうな、嫁のおかんにはわかりづらいかな......と、それぞれのひとがするであろう反応をイメージしながら、文章の核を決めています。

書き終わる快感、友だちができるたのしさ

ーー最後に、SNS初心者が発信を続けやすくなるような、アドバイスをお願いします。

村井 とくにnoteについて言うと、まずは記事を1本ちゃんと書き終えてみましょうと伝えたいです。書き終わって、それを世の中に出したという気持ちよさを感じると、「もう1回書いてみよう!」という気になれると思います。

西本 SNSを通じて友だちをつくるのがいいんじゃないでしょうか。その際、会社人の自分とSNS上の自分を、全部統一する必要はなくて。

なぜなら、同じことを書いても、TwitterとFacebookとInstagramとでは、プラットフォームの特性によって受け手の反応が違うからです。

実際、伝えたい内容によってSNSをつかいわけているひとも多いのではないでしょうか? ご飯を食べに行くときも、マクドナルドとフレンチレストランに行くときとでは、身なりや身振りが違うように。

いずれにしろ、ビジネスで仕事相手と本当に仲良くなるのは、仕事の顔がはずれて、お互いの魅力に気づいたとき。そうなったときにこそ、そのひととのビジネスが、本当によくなるんだと思っています。

※敬称略

登壇者紹介

文藝春秋本館前で

村井弦むらいげんさん
株式会社文藝春秋『週刊文春』編集部・電子版コンテンツディレクター

2011年に株式会社文藝春秋入社。『週刊文春』編集部配属。2015年に『文藝春秋』編集部に異動となり、2019年より「文藝春秋digital」プロジェクトマネージャーを務める。同年、『文藝春秋』のサブスクリプション「文藝春秋digital」をnoteに開設。2021年に『週刊文春』編集部に戻り、サブスクリプション「週刊文春 電子版」のコンテンツディレクターとなる。

カメラマンとしても活躍する西本さん

西本武司にしもとたけしさん
EKIDEN News代表

1994年、吉本興業株式会社(現・吉本興業ホールディングス)に入社。明石家さんまや島田紳助のマネジャーやプロモーション部門などを経て、2000年にほぼ日刊イトイ新聞へ。在職中に箱根駅伝に魅了され、箱根駅伝好きの仲間たちとWebメディア「EKIDEN News」を立ち上げる。一般社団法人OTT代表理事を兼務。書籍『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド! 2022』監修。

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interviewed by 徳力基彦 text by いとうめぐみ


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