サッポロビール・土代さんと東急ハンズ・本田さんに聞く、顧客の声からヒットを生む方法とは? #等身大の企業広報
だれもが自由に発信できる現代において、インターネット上では会社や商品・サービスに対するさまざまな声があふれています。一個人から寄せられた感想や要望を、企業はどのように受け止め、生かしていけばよいのでしょうか。
今回の「等身大の企業広報」は、お客様との共創によるビールづくりに挑戦しているサッポロビールの土代裕也さんと、Twitterアカウントの「中の人」としてソーシャルメディア戦略に関わっている東急ハンズの本田浩一さんにご登壇いただきました。「顧客」と「つくるひと」の境界が曖昧になってきている世の中において、どのように顧客とコミュニケーションをとっていけばいいのか、みなさんのヒントになれば幸いです。
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ビールを通じた予期せぬ偶然の出会いを届ける
━━土代さんが担当されている「HOPPIN' GARAGE」は、サッポロビール初のD2Cビールブランドなんですね。
土代さん はい。HOPPIN' GARAGEはもともと商品開発の一環で立ち上げたんですが、その後新規事業として本格的なD2Cブランドに育て上げるため、私が事業グロースに関わる業務全般を担当しています。
HOPPIN' GARAGEはお客様との共創によるビールづくりを展開しています。一言で言うと、「ひと」が持っているストーリーをもとに多様性にあふれるビールをつくり、そのストーリーも味わいながらビールをたのしんでいただくという、これまでにないビールの体験を届けるブランドです。
━━そのストーリーの起点はどこにあるんですか?
土代さん 起点はお客様というか、社外のひとですね。おもしろいことをやっているひとに我々のほうから声をかけたり、逆に「こういう想いでビールをつくりたい」と声をかけていただくこともあります。
魅力的な人々の人生ストーリーと当社の醸造技術を掛け合わせた「ストーリーブリューイング」製法で新作ビールをつくり、ストーリーブックとともに2ヶ月に1回定期便としてお届けしています。イメージとしてはビールつきの定期雑誌に近いです。ただビールを届けるだけではなく、ビールを通じた予期せぬ偶然の出会いを届けることが狙いです。
想いを発信することで、共感の輪が広がっていった
━━具体的な事例をご紹介いただければと思います。2021年10月に発売された「IGUSA(イグサ)」は畳のパッケージが印象的ですが、畳が原料というわけではないですよね?
土代さん 「何枚分の畳が入ってるんですか?」と聞かれたこともありますが(笑)、畳そのものではなく、畳につかわれている「い草」という植物を原料に使用したビールです。このプロジェクトは熊本県出身の同級生のおふたりの「熊本の復興を応援したい」という想いが発端となって実現しました。
熊本の復興のためにビールで何ができるか、おふたりと一緒に考えながら、熊本県の特産品であるい草の粉末をビールにつかってみようということになりました。おふたりの想いをnoteなどで発信することで、い草の産地であるJAやつしろさんに連絡をとったり、BRIDGE KUMAMOTOさんとコラボさせていただいてブルーシートバッグ(※)をつくったりと、共感の輪が広がっていきました。
伝えたいことを伝えるのではなく、
お客様の側に立ったツイートを
━━本田さんは東急ハンズの公式Twitterの「中の人」としてソーシャルメディア戦略に関わっています。東急ハンズ公式Twitter担当者として『共感で広がる公式ツイッターの世界』という本も出版されました。
本田さん 2009年に会社から公式Twitterの立ち上げを任され、運営がはじまりました。公式アカウントをやっているので、どうやってSNSを売上やマーケティングとつなげているのかという質問をいただくことが多いんですが、自分のなかではマーケティングというよりブランディングに近いと思っています。東急ハンズという会社がどんな会社なのかを知ってもらうためのコミュニケーションツールとしてつかっているようなイメージです。
━━企業の公式アカウントなのに個人の考えを等身大で発信したようなツイートが話題です。大雪の日の以下のツイートは大きな反響を呼びました。お店側がお客様に「お店に来ている場合ではない」と。
本田さん この日、タイムラインを見ていたら、ほかの小売店さんの「お足元が悪いのでお気をつけてお越しください」というツイートが並んでいたんです。でも、一般の消費者の感覚だと、大雪の日にわざわざ買い物に行かないじゃないですか。そんな思いをオブラートに包んでつぶやきました。
こちらが伝えたいことを伝えるのではなく、お客様の側に立って「フォロワーのみなさんがいまどういうことを言われたらうれしいか」を考えています。そのなかから東急ハンズとして発信してもいいものを選んでツイートしています。
女子高生の切実なツイートからはじまった
「グリーンノート物語」
━━Twitterをつかった具体的な事例としては、視覚過敏の女子高生のツイートが元になった「グリーンノート物語」が反響を呼びました。
本田さん 視覚過敏で白い紙がまぶしくて見づらいという症状をお持ちの女子高生が「グリーンノートをつくって販売してほしい」とTwitterで投稿して、拡散されていたんです。
それを見て何かできないかと思いつつも、当時の自分は商品を直接仕入れたり売ったりする部署にはいなかったので、商品を調達しているバイヤーにツイートを共有しました。するとバイヤーもそのツイートをすでに知っていて、とあるメーカーが在庫していたグリーンノートをすべて集めてきたと言うんです。
困っているひとがいてみんなが助けたいと思っているということで話題になっていたツイートなので、商売絡みではまったくなかったんですが、バイヤーがそこまでがんばって集めてくれたと聞いて、私もTwitterの担当者として力添えしたいなと思って。そこで、女子高生のツイートにリプライしてグリーンノートを探してきたことを伝え、店頭でも販売することにしました。
このグリーンノートの反響は大きく、約1ヶ月で3300冊も売れるヒットとなりました。最終的にはこの商品を東急ハンズのプライベートブランドとして発売することになりました。
数ではなく、取り組みによって
世界観を伝えることが大事
━━Twitterがきっかけで直接的な売上につながった珍しいケースですね。ふだんの効果測定はどのようにされていますか?
本田さん Twitterというツールなのでいいね数やリツイート数が話題になりますが、バズるのはたまにしかないので、それよりもインプレッション数が落ちないように気をつけています。忘れられないようにするためには、定期的に投稿するということが大事です。ですので、必ず毎日1ツイートはしています。タイムラインに東急ハンズのロゴが上がらない日をつくらない、と心がけています。
━━自分の会社のロゴを1日に1回Twitter上の空間に置く、というぐらいの感覚で続けることによって、逆にいい意味でのハプニングも増えるということですよね。土代さんは効果測定はどのようにされていますか?
土代さん 見ている数としては、KGIは売上、KPIは定期便の会員数です。ただ、数をたくさん売ることだけでなく、取り組みによってHOPPIN' GARAGEの世界観が伝わることを大事にしています。ヘラルボニーさんとのコラボではアートグラスを制作し、ブランドとしての「個性」と「多様性」の大切さを発信しました。HOPPIN' GARAGEはこのように、多様な価値観を認め合える世の中をつくるために、多種多様なひとと出会えるビールをつくっています。
お客様の状況を知るため、アンテナを広げておく
━━視聴者の方からいただいた質問にお答えいただければと思います。
質問:ユーザーアンケートから分析される際、何に注目されますか? またインサイトを見出すポイントがあればご教授ください。
土代さん HOPPIN' GARAGEでは、商品開発のためのアンケート調査は行っていません。チームメンバーが、まずは個人として強く共感できたひと、ビールをつくってでも世の中に伝えたいひとを見つけ出して、そのひとへの取材を行います。あえて言うなら、個人を対象にしたデプスインタビューからヒントを見つけてくる感じかもしれません。
我々はひとのストーリーからビールをつくっているので、そのストーリー次第なんです。ビールを買ってくれたひとにとって、「そんなひとがいるんだ」「そんな考え方もあるんだ」と思ってもらえるかが大事だと思っています。従って、そのひとや、ストーリーがあまりにも知られているものは避けるようにしています。
ただ、知名度が高いひとやストーリーであっても、HOPPIN' GARAGEオリジナルな切り口で新しく伝えることができる要素があれば、その限りではないので、我々らしい編集の視点や切り口を持つことが大切になってくると感じています。そこにHOPPIN' GARAGEとして伝えたいものであるかどうかというブランドとしてのエッセンスを重ね合わせてストーリーを探しています。
本田さん 自分が情報を提供している側だという立ち位置でいると見逃すことが多いと思います。自分のところに直接舞い込んでくる情報よりも、他社さんやフォロワーさん同士で話題になっていることのほうが参考になるかもしれません。
あとはエゴサーチで得る情報や、タイムラインをただ眺めていることで入ってくるニュースなども大事です。もちろん直接のコミュニケーションも大切ですが、もう少しアンテナを広げておいたほうがいいと思います。店頭でも接客が上手な店員は、キョロキョロしながらお客様の状況を見ているんです。それをSNS上にも応用するイメージです。
━━ありがとうございます。今日は「顧客の声からヒットを生む」というテーマでお送りしましたが、最後に視聴者に向けて、まず何からはじめたらいいのかというアドバイスをいただければと思います。
本田さん 最初に自分がTwitterの運営を任されたときは、「Twitterをつかって会社の情報発信をしなければ」と受け止めてしまったため、無茶振りだと思ってしまったんです。でもそうではなく、自分の所属している会社なりブランドなりの1ユーザー、ファンの立場でやってみると、すんなり入っていけるんじゃないかなという気はします。
土代さん 我々の場合はお客様と一緒にものをつくるということがベースになっているので少し特殊ではありますが、「顧客」と「つくるひと」という境界が曖昧な世の中になってきていると思います。市場がどんどん飽和してきているなかで、もう一度カテゴリーの価値とか、「そもそもビールってなんだっけ?」ということを考えるのが必要なのかなと。そこに会社のブランドというか根っこの部分を掛け合わせるのがブレイクスルーを生む1つのきっかけになると思います。
━━おふたりとも、本日は参考になるお話をありがとうございました!
登壇者プロフィール
次回の「等身大の企業広報」イベントは、4月26日(火)13時から開催予定です。「社内報を公開するメリットとは?」をテーマに、SmartHRのたけべともこさんと、エン・ジャパンの清水朋之さんにお話しいただきます。オウンドメディアや広報を担当されている方はもちろん、人事や経営企画など、社内コミュニケーションに携わる方、ぜひご参加ください。