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ファン800人を抱える有料マガジン運営のコツは「大好きなものを推す」。ゲーム批評家・Jiniさん

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回はゲームジャーナリスト・批評家のJiniさんにお話を聞きました。

ジャンルや国の垣根を超えてゲームを遊び、一歩掘り下げた批評を発信するJiniさん。

2014年に設立したブログ「ゲーマー日日新聞」は5年弱で3000万PVを更新。TBSラジオ「アフター6ジャンクション(通称アトロク)」に準レギュラー出演するほか、書籍、テレビ等、さまざまなメディアで活躍しています。

noteでは、月額課金制の定期購読マガジン『ゲームゼミ』を運営。ゲーム好きに向けた本気のゲーム論を語り、2021年3月現在の有料購読者数は800人を超えてます。


コンテンツが評価される場所としてnoteを選んだ

Jiniさんがゲーム批評をはじめるきっかけとなったのが、2013年に発売されたサバイバルアクションゲーム『The Last of Us』。

「私自身ゲームが大好きなんですが、『The Last of Us』で遊んだときにすごく感動して。ただたのしいだけじゃなくて、こういうゲームがつくられる時代になったんだ、と感じたんです。私たちゲーマーはこの作品から何を見出すことができるのか。この作品は今後どう歴史の中に残っていくのか。ゲームの文化的価値を一歩掘り下げて書いてみたい、と思ったのがはじまりです」

インターネット黎明期にあふれていた「テキストサイト」を読み漁っていたというJiniさんは、自分も文章でネット文化に組み入りたいとブログを開始。それから6年以上経ち、今も続く「ゲーマー日日新聞」は、多くのPVを獲得する人気ブログとなっています。

一方でJiniさんは、PV数が指標となるGoogleの仕組みにブログが依存せざるを得ないことに不満があったと言います。そしてそこにnoteをはじめた理由があるのだとか。

「ブログのアクセス数の8割はGoogleからの流入です。読まれるためには、AIが判断するGoogleの検索エンジンに引っ掛からないといけない。そのために工夫をするわけですが、そこに最適化したコンテンツをつくっていくと、読者が求めるものや自分が書きたいものとはかけ離れていく現状があって。

Googleの指標以外で、ちゃんとコンテンツを評価してくれるプラットフォームを探していた中で行き着いたのがnoteでした。noteであれば、PV数が少なくても、本当に読みたいと思っている人に深く届けられるし、お金を払ってもらっていることがその証明になる。

インターネット黎明期を知る深津さん(CXO)や加藤さん(CEO)をはじめ、noteのクリエイターを大事にする思想にも共感しました」

知的好奇心を満たす「おもしろいコンテンツ」のつくり方

2018年5月からnoteをはじめ、有料記事を50本販売したのち、2019年2月に定期購読マガジン『ゲームゼミ』を始動。まず、480円という価格設定はどのように決めたのでしょうか。

「ビジネスノウハウであれば、投資の感覚でお金を払いやすいと思うんですが、ゲーム批評はそうじゃない。だから、ビジネス系の定期購読マガジンでよく見かける値段設定よりは安くしました。ただ、“ゲームメディアは経済的に成立しにくい”という定説はひっくり返したいと思っていましたね」

マガジンの購読者を増やすための施策は、ひたすら「おもしろいコンテンツをつくる」ことのみ。

「インターネットの評価は『借財』だと言っている人がいて。つまりフォロワーは借り物であって自分の物ではない。そのひとの意思で、いつだってフォローを外すことができるので。だからフォロワー数を増やすことのみを目的にした施策は意味がないし、そこにぶら下がっているのも怖い。自分でおもしろいコンテンツをつくり続けるしかないと思っています」

では、おもしろいコンテンツをつくるために意識していることは?

「どんな記事も読み手を意識してつくること。noteの記事はゲームに熱意と関心があるひとにとって、お金を払うことに納得がいく厚みのある内容であると同時に、新しい価値観を提供できるものにしたいと思っています。

間口を広げていけるように、テーマは特定のゲームやジャンルに絞ることなく、eスポーツまで広く設定しています。その都度、流行や時事性は意識しますが、書き出すのはいつも自分の気持ちが高まったとき。多いのは週末、土曜にゲームで遊んで熱量を高めたまま日曜にnoteを書く。気持ちが盛り上がると筆が乗るんですよね。

とはいえ、1本につき長ければ1週間悩むときもあるので、事前に構成はつくります。大事なのは構成を見たときに、自分が『おもしろい』と思えるかどうか。納得したうえで書き出すことができれば、おもしろいコンテンツになると思います。あとは、いい文章を書く」

Jiniさんにとって、「いい文章」とはーー

「僕が書きたいのは、読んだひとの知的好奇心を満足させることができるもの。僕にとって、文章を書くことはゲームで遊ぶことと同じようにたのしいことなんですよ。元々『国語』の読書感想文が苦手だった自分が、文章を書くことは6年以上続いている。続けられるのは、書くことが目的ではなく、書きたいものがあるからだと思います」

読者一人ひとりに深く届けられている実感がある

『ゲームゼミ』開設から2年。Jiniさんはnoteにブログとは違う手応えを感じていると話します。

「ブログの場合、広告を貼ることでPV数が収益につながるんですが、noteの場合、コンテンツをおもしろいと思ってくれたひとがお金を払ってくれる。インターネット上で、本や雑誌に近いやり方で、読者に直接届けることが可能になっています。

ブログのPV数は、クリックして1秒で去った人も10分かけてじっくり読んでくれたひとも同じ『1PV』としてカウントされちゃうけど、noteのマガジン購読者は一人ひとりちゃんと読んでくれていることがわかる。だからこそ、読者を見て自分が書きたいことが書けるし、狭く深く届けられている実感があります」

2020年はJiniさんにとって、書籍の発売、ラジオ、テレビ出演、メディアへの寄稿と活躍の幅を広げた年でもありました。

「背景には、コロナ禍の自粛生活も相まって、ゲームがカルチャーとして爆発的に広がり、年齢や国家の垣根を超えたみんなの共通言語になりつつあるという時代性があると思います。その流れの中で、カルチャー情報の語り手として声をかけてもらえるようになった。

依頼はブログ経由もありますが、noteからも多いです。noteはクリエイターが集まるコミュニティでもあるので、noteで活躍していることがポジティブに捉えられやすく、ひとの信頼にもつながっていると感じます」

おもしろいゲームの魅力が理解されないのが悔しいから、書き続ける

Twitterで行ったアンケートやコメントから分析すると、『ゲームゼミ』の読者は6割が20代、2割が10代、と若い世代が中心となるそう。

「僕がミレニアル世代なんで、同世代が多いですね。批評の持つ訴求力がかつてより失われた時代にも関わらず、中高生、小学生にも『読んでいます』と声をかけられるのが嬉しいです。やっぱり僕より下の世代、若いひとたちがこれからのトレンドをつくっていくと思うので、彼らに『俺たちの考えも理解してくれる』って思われるひとでありたいですね。

僕のファンで100%理解してくれるひとというよりは、意見が違っても、一緒に考えていけるひととコミュニティをつくっていきたいです」

一方でJiniさんは、自分のコミュニティから一歩外へ出て、マスメディアなどを通じて、ゲームに理解がないひとたちに向けた発信もしています。

「僕は元々社交的な性格じゃなくて、飲み会で上司に御酌するみたいな文化が苦手だし、ましてテレビに出てしゃべるのは得意じゃないと思っていました。でもそれより、多くのひとに文化としてのゲームの魅力を知ってほしいという思いを抱いて皆の前に出ると、スラスラ話せる。だから今は、オタクであることと社交性があること、一見相反することの真ん中をいこう、どちらも持ち合わせていこう、と思っています」

Jiniさんがやりたいことは、昔も今もこれからもブレずに、ゲームの文化的な価値を伝えること。

「ゲームってめちゃくちゃおもしろいカルチャーなんですよ。しかもひととひとがつながれる。オンラインで離れた場所でもできるし、千差万別の経験を交換することもできる。世界のいろんなところで分断が起きている今、こんなにもポジティブにひとがつながれるメディアがほかにあるでしょうか!?

僕はただ、おもしろいゲーム、おもしろい作品がいかにおもしろいかを語りたいんですよ。良し悪しを超えた先に、作品から伸びる文脈、文化のおもしろさを伝えたい。おもしろすぎて理解されていないのが悔しいから、書いてるんです」

Jiniさんが初の単著としてゲーム批評ではなく『好きなものを「推す」だけ。共感される文章術』を上梓したのは、同じようにゲームに魅力を感じているひとたちに語ってほしいから。

「どんなことでもそうですが、一人が声を上げただけでは耳を傾けてもらえない。ゲームがおもしろいことを知っている同世代や若い世代のひとたちには、自分だけが知っている魅力、経験を自分の言葉で紡いで発信してほしいですね。そのためにできることがあれば僕もやっていきたいと思っています」

好きなものを、推す。純粋な情熱があふれるJiniさんのnoteは、ゲームという文化への扉を開けてくれます。


■noteクリエイターファイル
Jini

ゲームはカルチャーだ。 3000万回読まれたゲームブログ「ゲーマー日日新聞」編集長、出演:TBSラジオ「アフター6ジャンクション」、NHK「あさイチ」他、著書:『好きなものを「推す」だけ。』
note: @j1n1/magazines
Twitter: @J1N1_R

text by 徳 瑠里香

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