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南伊豆に移住して、宿をつくってマンガを描きはじめた。肩書きを超えて創作をするイッテツさんの原動力

noteで活躍するクリエイターを紹する #noteクリエイターファイル 。今回は、南伊豆を拠点にマンガを描くイッテツさんにお話を聞きました。

静岡・南伊豆で、地域の魅力を発信するメディア『南伊豆新聞』と、1対1で地元のひとの暮らしを体験するプログラム『南伊豆くらし図鑑』を運営し、宿「ローカル×ローカル」を開業したイッテツさん。

noteでは、南伊豆の魅力を伝える活動の延長線上にあるマンガ『ローカル×ローカル』を中心に発信しています。

『ローカル×ローカル』は、東京で編集者として働き、地方にネガティブな印象を持っていたイッテツさんが南伊豆へ移住するまでを描いた、2017年の夏からはじまる物語。

同作は「幻冬舎×テレビ東京×note 第2回コミックエッセイ大賞」にてcakes賞を受賞。6月22日よりcakesにてリメイク版の連載がスタート。その後、物語の続きを発表予定です。

究極のローカルは自分。「都会 or 地方」ではなく「個人×個人」の関係性を

2018年の春、友人からの誘いをきっかけに、地域おこし協力隊として東京から南伊豆に移住したイッテツさん。暮らしはじめる前までは、地方移住にも地域おこし協力隊にも“偏見”を持っていたと振り返ります。

「僕は鹿児島出身ということもあって、地方の現実を知っているので、“移住したら人生変わる”的な幻想は持っていなくて。むしろ、都内でバリバリ働きたい気持ちもあったので、地方に行くこと=“都落ち”するみたいなイメージでした。仕事ではあるけど、どこかプロジェクトの一環みたいな感じもあって。つまり、3年経ったらまた東京に戻ったり、あわよくば鹿児島で仕事ができればいいなと思ってたんですが、なぜか今、宿をはじめることになりまして。自分では本当にこんなことになるとは思っていなかったです(笑)」

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執筆スペースにもなっている宿のフロント

イッテツさんの移住当初からの任務は南伊豆の「関係人口」を増やすこと。つまり、移住と観光の間にある“「またきます」の関係をつくっていくこと”。そのためにメディアでの発信と体験プログラムの提供をしてきました。

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ローカル×ローカル 4話: 関係人口って何?』より

南伊豆で3年、「関係人口を増やす」活動をするうちにイッテツさんにどんな変化があったのでしょうか。

「実際に来てみたら、地元のひとたちはクリエイティブでおもしろい。彼らの魅力を伝えたいと思えるから、都内で暮らす友だちに『おもしろいひとたちがいるからちょっと会いに来てよ』と遊びに誘うような感覚で仕事をしています。漁師さんの船にのせてもらい海で朝日を見て、獲った魚でBBQ!みたいな体験ができるし、観光誌には載らないディープな場所に行けるから友だちにも喜んでもらえる。

東京で会社勤めだったころの僕は、仕事とプライベートを完全に切り分けた『オン』と『オフ』がありました。いわゆる“仕事用の顔”というか。良し悪しではなく、僕の場合、たとえば友だちと関わるようにもっと本音で付き合える環境に身を置きたかった。南伊豆にきてから、知り合いに『助けて』『手伝って』と頼ることができるようになって。自分がこれまで培ってきた関係や新たに生まれた関係が仕事にもつながるので、たのしいです。

でもこれって、地方だからできるというわけでもなくて。『ローカル』って地方って意味だけじゃなくて、局所とも言い換えられますよね。『究極のローカルは自分』。僕が尊敬する編集者の一人、 藤本智士さんの著書『魔法をかける編集』に書いてあった言葉なんですが、本当にその通りだなと。『ローカル×ローカル』は、あなたとわたしの一対一の関係性。そうなってくると、都会か地方かはどうでもよくなってくる。都会 or 地方の二択で考えなくてもよくない?って思うようになったのは、ここにきてからの大きな変化ですね」

総評を分析し、描き方を研究。対策して臨んだコミックエッセイ大賞

マンガ『ローカル×ローカル』は、「都会 or 地方」と二項対立で考えていたイッテツさんが場所に縛られない「個人×個人」のつながりのおもしろさに気づいていく物語でもあります。

この作品はどのようにして生まれたのでしょうか。

「コロナで仕事がストップしてしまったので、宿づくりを進めながら、空いた時間でマンガを描きたいなと思いまして。もともとnoteはやっていたので、狙うはコミックエッセイ大賞だろうと。やるなら本気で対策をして挑もうと、第一回の総評を読んで、過去のcakesクリエイターコンテストの受賞作を振り返る動画も観て研究しました。『特異な体験か、役に立つことか、圧倒的な文章で見せるか。だけど、週刊まえだーさんみたいな突き抜けた狂気もほしい』と審査員のみなさんが話していて。自分には何が描けるかなぁと悩みました。でも、よく考えたら自分の移住するまでの流れは特異だし、ひとによっては役に立つかもしれないなと。テーマを決めて描きはじめました」

分析内容が書かれたA4用紙数枚にわたる“対策ノート”も見せてくれました。

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それまでマンガは描いたことがなかったというイッテツさん。マンガの描き方はネット上の動画や記事から学んでいったそう。

「もともと編集の仕事をしていたので、まずはあらすじを箇条書きでエクセルに書いていって、それをベースにネームを描く。ネームは『東京ネームタンク』さんのYouTubeで学びました。1話だけでは弱いと思ったので、連続性のある物語がいいだろうと、2週間に1話ずつ描いていった感じです」

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1話と2話を描き進めるなかで、さらに先の展開を考えようとしてつくったネーム。ここからタブレットで描いていったそう

とはいえ、描いたマンガを投稿するには少し心理的なハードルもあったと言います。

「めちゃくちゃ緊張しました。自分の体験をマンガにするなんて、シンガーソングライターでいうところの『初めて作詞作曲してみました。みなさん聴いてください!』って言うようなものじゃないですか。だからはじめてアップした日は怖くてスマホを半日放置してなるべく見ないようにしていました(笑)。結果的に友人たちもいい反応をくれて、noteでもおすすめに選んでもらえて、これは続ける価値があるかも、と描き続けることができました」

タグ付けするだけで応募できる「第2回 #コミックエッセイ大賞 」。『ローカル×ローカル』は見事、cakes賞を受賞。イッテツさんはcakesでの連載権を手に入れました。

「受賞の連絡をもらったときは、本当に俺宛かなって何度も確認しました。なんか焦りましたね。cakesは『左ききのエレン』とかめっちゃ読んでる(リメイク版も集めています)ので、僕のマンガが載るなんて信じられない。今でもホントかな?って。緊張しています。

過去の僕みたいに、都心だけで働き続けることにどこかモヤモヤしている人に届いたらうれしいですね」

「なりたかったけどなれない」とあきらめていた漫画家へ

そもそもイッテツさんはどうしてマンガを描こうと思ったのでしょうか。

「コロナになってできることがなくなって、どうしようかなって思ったときに、僕を南伊豆に導いた友人のヤノモトに『マンガ描いたら?』って言われたんです。彼は僕が絵を描くのが好きなのを知っているんで、『南伊豆新聞』をつくってたときも『4コママンガ描いたら?』って言ってくれて、編集後記に載せてたんですよ。僕に描けって言ってくれる彼は、編集者ですね」

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マンガにも登場する、友人であり仕事のパートナーであるヤノモトさん。イッテツさんは彼に誘われて南伊豆への移住を決めた。(『ローカル×ローカル 1話:ワクワクはどっち?』より)

ヤノモトさんの言葉に背中を押され、対策をするほど本気で創作に取り組めたのには理由がありました。

「実は僕、漫画家になりたかったんです。学校のクラスにひとりくらい絵が好きなやつがいるじゃないですか。修学旅行のしおりとか文化祭でも絵を描くような。そいつでした。絵が好きで美術大学に進学するんですが、就職に有利なデザインコースに進みました。漫画家なんてなれるわけないと思っていましたし……。大学時代、ある意味一番ショックだったのは、今ジャンプで連載している先輩との出会いでした。たまたまバイト先も一緒だったんです。彼は漫画家になるって宣言して、ずっとマンガを描いていて。そのとき思ったんです。『あぁこういうひとが漫画家になるんだな』と。当時はSNSもなかったので、漫画家になるにはアシスタントになるしかない。おれには一か八かでその世界に飛び込む勇気も才能もないってあきらめたんですよ。漫画家は、なりたかったけどなれないと思っていた職業でした。

こうしてマンガが描けるようになるなんて自分では本当に思ってもみなかったことで。ヤノモトとnoteのおかげです」

自分のことをよく知る信頼できるひとの言葉を受け止めて、ローカルメディアの編集長となり、宿のオーナーになったイッテツさんは、憧れていたマンガを描くようになり、肩書きを超えて仕事の幅を広げています。

『ローカル×ローカル』を体現しながら、メディア・宿・マンガで伝えていく

イッテツさんが歩みはじめた漫画家としての道も、マンガ『ローカル×ローカル』の物語も、まだまだはじまったばかり。

「『ローカル×ローカル』は構想としては100話くらいあって、いま発表しているのは登山で言うところの麓。まだ移住もしてないですから(笑)。なんとかおもしろいかたちで完結して、3年くらい描き続けることで絵も上達させて、自分が気になることをマンガで表現できるようになりたいですね。ちなみにnoteで連載しているもう一作の『夜は静かです』は、筋トレ的にその訓練として日常で感じたことを即興的に描いています。『ローカル×ローカル』はcakesやnoteで最後まで描き続けようと思います」

これからやっていきたいことは?

「僕はいつか地元の鹿児島で仕事をしたいと思っていて、今はそのための種をまいているような感じなんです。東京と南伊豆と鹿児島と、全国3〜4拠点くらいに『そこに行けば誰々がいる』っていう自分の関係人口をつくっていきたいなあと。これからも都会か地方かではなく、個人と個人の関係性、『ローカル×ローカル』を自分で体現しながら、メディアや宿、マンガでも伝えていきたいですね」

7月6日には、連載開始を記念して真鶴出版を運営する川口 瞬さんとのトークイベントも開催します。

■noteクリエイターファイル
イッテツ

鹿児島出身。マンガ『ローカル×ローカル』『夜が静かです』を描いています。東京の出版社で編集者を経て、2018年地方へ移住。ローカルメディア『南伊豆新聞』『南伊豆くらし図鑑』を運営。2021年宿「ローカル×ローカル」開業。

note:@murasakitotetsu
Twitter:@murasaki10tetsu

text by 徳 瑠里香


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