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室内楽公開リハーサル 初体験 -後編-

前編の続きです。

会社は(一応)フルフレックスなので、当日はテレワークを早めに切り上げて会場へ向かいました。

開場時間の5分前くらいに到着。
すでに5〜6人並んでいましたが、ほどなくYさんもご登場。

私の後ろに並ばれて、お話ししている間に開場となり、中に進む私が振り返ると、立ち止まってミュージックダイアログの顔馴染みのスタッフの方と談笑されているYさん。

私はYさんとは別に、1列目の真ん中やや上手寄りの席に陣取りました。

開場は目黒区の施設らしいのですが、平面のスペースに椅子が100席以上はあったでしょう。

あれよあれよという間に席が埋まっていきます。
学生と思しき若い方から、年配の方まで幅広い客層です。

手渡されたプログラムのQRコードから、著作権切れ楽譜サイトにある、今日のモーツァルト 弦楽五重奏曲 第5番 二長調 K.593の楽譜にアクセスして、始まるのを待ちます。

おや?
木製のチェロのエンドピンストッパーがあります。
これはよくあるものなのでしょうか。
私は初めて見るので写真をパチリ。

床の保護以外に、音響的な効果もある?
ご存知の方は教えてください。


プログラムを読むと、当初の目当てだったチェロの加藤文枝さんは、やはり今日は演奏はせず、リハーサルの解説を担当されるようです。

演奏する方々がちらりほらりと登場し始めます。
公演ではなくリハーサルなので、服装も至ってカジュアル。

撮影禁止とはどこにも書いてなかったので、演奏前の音出しの様子をパチリ。

後ろにあるスクリーンに、解説のコメント(テキスト)がリアルタイムで表示されます。

この日の演奏者は、

1st Vn.  篠原悠那さん
2nd Vn. 杉並千花さん
1st Va.  山本周さん
2nd Va. 大山平一郎さん(右から2番目)
Vc.        矢部優典さん

プロフィールを見ると…
ヴィオラの大山先生(実際、演奏者の方も先生と呼んでいました)は、若くして英国の音楽学校を卒業し、1972年から、かのマールボロ音楽祭をはじめとする国際音楽祭にヴィオリストとして何回も呼ばれる。
クレーメル、ルプー、マイスキー等の著名演奏家と共演。
1973年 カリフォルニア大学助教授に。
1979年 ジュリーニ!率いるロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の首席ヴィオラ奏者に選ばれる。
1987年 プレヴィン!から同楽団の副指揮者に任命される。
その後、
サンタフェ室内楽音楽祭 芸術監督
九州交響楽団 常任指揮者
大阪交響楽団 音楽顧問・首席指揮者
等を歴任。
福岡市文化賞、文部科学大臣賞(芸術祭優秀賞)を受賞。

と、なんとも輝かしい経歴をお持ちの方で、このミュージックダイアログの理事であり、芸術監督を務めていらっしゃるのだそうです。
(先生、存じ上げずすみません!)

話が後先になりますが、先生が培ってきた知見を後世に繋げていこうという意志を、この公開リハーサルの間、一貫して感じることができました。

その他の演奏家のみなさんは、若手ながら、国際コンクールで優勝したり入賞したり、国内オケの首席奏者として客演したり、なんとも華々しく活躍している方ばかりです。

詳しくは当日のプログラムをそのまま引用させていただきますのでご覧ください。

こちらも
こちらも…読みにくてすみません💧
Music Dialogue
ディスカバリー・シリーズ3月公演
字幕実況解説付き公開リハーサル
プログラムより


さて、いよいよ司会の方のコメントもあって、リハーサルが始まります。

最初に大山先生が、

「この曲はモーツァルトが亡くなる前の年に書かれたのですが、何故かあまり演奏されないんです。私自身もすごく久しぶりで。この中で弾いたことある人いる?」

と若手演奏家の皆さんに尋ねると、一様に初めてだと言います。

「何故あまり演奏されないのか、リハーサルを進めていくとわかるかもしれません。じゃあ、やってみようか」

1st Vn篠原さん:「リピートどうしますか?」
大山先生:「無しで最後までいってみよう」

…そうなのです。
あとではっきりわかったんですが、このメンバーは個人でこの曲を練習してきて、今初めてお客さんたちの前でみんなで合わせるのです。

最初はチェロのフレーズから始まります。

それに呼応して他の楽器が合わせて応える。
またチェロのきっかけが少し上の音形で。
再度それに呼応して上の和声で他の楽器が応える。

そのように始まっていき、山場では、速いパッセージを楽器が順にリレーしたり…。

いやいや初めて合わせたとは思えない演奏で、第一楽章終了。

もうこれで充分じゃないか?
そう思ったのは、会場の中で私だけではないでしょう。

大山先生は開口一番、
「最初のチェロね、そんなに深刻な感じでなく、もう少し、○○○(←ニュアンスは軽い感じのことを仰ったのですが不正確で齟齬が生じてはいけないのでこうします)みたいな感じで始めよう。そしてだんだん高揚していくように」

チェロの矢部さん、「わかりました」と楽譜にメモ。

先生「最初のところ、やってみようか」

全員で合わせると、なるほどチェロの印象が変わるだけで、呼応する他の楽器の表情も変化するので、全体の印象が大きく変わります。

そのあと、部分的に楽器の音量について助言したり、1st ヴァイオリンの速いパッセージについて目指すべき表現をアドバイスしたり。

そういうときに、後ろのスクリーンに字幕で映される、加藤さんと小室さんという作曲家・音楽ライターの方の解説で、
「こうすることで立体感が生まれますね」
など、参加者に理解しやすいコメントが表示されます。

印象的だったのは、先生がヴィオラの山本さんに、
「他のみんなは何回も一緒にやってるから、僕に言われそうなことをわかってるんだけど、あなたは今日初めてお会いするからお伝えしますね。
例えばこの時代のフォルテなんだけど、ダイナミクスのフォルテではなくて、アクセントと捉えてね。他でそんなこと言われたことある?」

山本さん、「いえ、初めてです」と言いながら、譜面が表示されているタブレットの画面にアクセントのマークをメモ。
(山本さんは私の目の前にいます)

私も初めて聞きました。
まあ、オケやアンサンブル経験がない素人なんで当たり前なんですが。

これって、世界的な巨匠たちから指導されたり、ご自分で長い間勉強されたりして得た知見のひとつなんでしょうね。

1楽章に続けて4楽章もリハーサルが続けられましたが、先生がアドバイスすることで、より音楽が磨き上げられていく様子を目の当たりにできたのは、得難い経験でした。

それにアドバイスが押し付けがましくない。

先生の言葉を受けて、インスピレーションを受けた演奏があって、それを感じて更に他の演奏者の音楽も応じて、そうやってただ合奏するのではなく、小編成のアンサンブルだからこそ、メンバーの呼吸を感じながらひとつの音楽が高められていく、室内楽の良さってそういうことなんだなと。

そういえば、これって、モダンジャズでは顕著なんですよね。

楽譜はなくて、テーマとコード進行だけ決まっていて、あとはインプロヴィゼーションなので、サックスがこうきたら、ドラムがこう叩く、ピアノがこう弾いたら、ギターはこうする、ベースも応じてラインを変えたり。
そうやって音で会話して、高め合って名演奏が出来上がる。

ああ、音楽って素晴らしい。

公開リハーサルは2つの楽章で終了。
休憩して、質疑応答の予定です。

休憩中、Yさんが私のところにいらして、
「加藤さん、後ろの方にいるけど挨拶する?」

せっかくですので、お言葉に甘えることに。
二人で加藤さんのところに行って、Yさんが私を紹介してくれました。

他のお知り合いの方と会話中にお邪魔しての突然の紹介でしたので、話が広がることもなく終わったのは少し残念でしたが、それでも、加藤さん、お相手いただき、ありがとうございました。

ところで、Yさんも、
「最初の演奏で出来上がっているように思ったけど、あんなに変わるんだねえ」
と、私と同じご感想でした。

さて、休憩時間もあっという間に終わり、質疑応答。

コロナ対策で、お客さんがスマホ等でネットを通じて書いた質問を司会の方が読んで、回答する演奏者を指名します。

楽譜の版は?
ベーレンライターです。

というのもありつつ、
どういう質問だったのか失念しましたが、大山先生に過去の経験に関する質問があって、

「僕はありがたいことにマールボロ音楽祭に72年、74年、75年と呼ばれたんだけど、あるとき、舞台にあがるのにカザルスの前を通らなきゃいけないことがあってですね。客席とカザルスの間なんですが、あれは困った。
あの音楽祭では、○○○○(なんと仰ったか聞き取れませんでしたが巨匠かと)がある演奏者に、
「そんなこと、楽譜のどこに書いてある?」と言ってね。
その演奏者は、二度と音楽祭に呼ばれませんでした。
僕は幸いそんな目に合わなかったんですが」

なんと厳しい世界で活動されてきたのでしょう。
それに!
大山先生はあのカザルス様と同じ舞台に立ったということですよね。

マールボロ音楽祭と言えば、カザルス様指揮のモーツァルトの交響曲の録音を思い出しますが、それにしても凄い経験ですね。

そういう経験があるからこそ、同じように後進の指導、日本の室内楽の向上に資する活動をしようとこの団体を引っ張っていらっしゃるのだと思います。

ミュージックダイアログの参加アーティストには、若手ヴィオリストの超ホープ、田原綾子さんも名を連ねていて、今はどちらかというと指導の方に回られているようです。

直近ではこちら。
2023/3/3現在、まだ間に合いそうです。

そういえば、私の隣の席(1列目のど真ん中)に座っていた学生さんらしき若い男性は、スマホやタブレットでなく、印刷された譜面を持ち込んで、熱心に公開リハーサルで学んだことを書き込んでいました。

楽器を抱えたお客さんもちらほら。

みんな勉強熱心です。

ところで、私が参加した公開リハーサルの本番の公演は、本日2023年3月3日です。

行けばリハーサルでは聴けなかった加藤文枝さんも演奏するブラームスも聴けるのですが、行かない理由は以下の3点。

①前回のレッスンから1週間しか経たず、明日土曜日の朝10時から次のレッスンがあるので少しでも練習しておきたい。

②少し前に自分のレベルからして宝の持ち腐れになりかねない価格の弓を買ってしまったので、お金がない。

③お金がないと言いつつも、これは!と思う演奏会に毎週のように行っている私に、
「小遣いだからどう使おうが文句を言うつもりはないけど、びっくりするほどコンサートに行って。
冷静な判断力はある?
仕事もそんな感じ? 大丈夫なの?」
と家の神から赤信号が出た。

そんなわが家の神は、将来に備えて(古くなった風呂と洗面所のリフォームも近々あり)、相当な倹約をしており、頭が下がるばかり。

というわけで、前にも記事で宣言したはずでしたが、しばらく演奏会は(チケット購入済みの公演を除き)控えるようにします。

家の神からは
「できないことは、やるって言わないでね」
と言われてますが…。

しかし、チケット購入済みの公演が今月だけで4回あリまして😅
(そのうち3回は次の土曜日から1週間以内に開催💧)

そりゃ、うちの神さんもカレンダーの私のスケジュール書き込みみたら、一言出ますわね。


というわけで、記事を2回に分けた甲斐もなく、予想通り長文になってしまいました。

こんな取り止めもない文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

でも、こういう団体がこんな企画を催していることを紹介できたことが、皆さまに少しでもお役に立てるのなら、とても嬉しいです。

ではまた。

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